49話:簡単には逃がしてくれない
タークスさん達と別れました。囮役が近くに居たらバレちゃうからね。キャシー姉さんからメンタルカバーをかけてもらったし、効果時間内に囮の役割をきっちり果たしてやりますとも。
「ミケ、緑子。踏ん張れるね」
「にゃ!」
「!」
私の声に2匹はきちんと反応してくれる。ゴブリンを引き付けるには、2匹の攻撃力が要だ。強いダメージを与えて、ヘイトを稼がなきゃいけない。ミケは後頭部から私の肩に移動した。がっつりと服に爪を立ててしがみついている。緑子は自分と私の二の腕を糸でがんじがらめにしていた。準備万端である。
軽く足を伸ばし、深呼吸。私がミスれば、被害者がいる皆の方が危ないんだ。さすがに緊張する。
「…っし。行くよ」
「にゃん」
「っ!」
辛うじて見えるヴィンセントさんの耳に向かって合図を出す。耳がぴこりと反応した後に、ヴィンセントさんからOKの合図が出た。獣人ってああいう所が卑怯だと思います。可愛い。
「ミケ、影魔法! 緑子、毒液!」
「ウァン!!」
「!!」
足元の影が伸び、一番近い所にいるゴブリンを切り裂く。その次に奥にいたゴブリンが毒液を浴びた。じゅわあっという音と一緒に、どろりとゴブリンの肉が溶ける。痛みにのたうち回るゴブリンを横目に、私は走り出した。
「ギャア!!」
「ぎゃぎゃ!」
「ぎぃいい!」
ミケのケツをがっしりとホールドしながら、ゴブリンと離れすぎない程度に走る。さすがにDEXが3桁あるわけじゃない。ゴブリンの攻撃は全てかわせるし、追いつかれるようすもない。
「ミケ、緑子、攻撃を続行して!」
「にゃん!」
「!?」
「緑子は攻撃しづらいだろうけど頑張って!」
腕を振って走るせいで緑子が狙いを定められていない。でも、毒液を少し浴びるだけでもダメージを与えられるんだ。攻撃し続けることが大事。時折、糸をべっと吐き出して糸に絡まったゴブリンが塊になって転がり、後続に踏み潰されてダメージを受けているらしい声が聞こえてきた。視界の端に映っただけなんだけど、緑子ってえげつない技を使うよね。
しばらくそうやって走っていた。救助が完了したら、ヴィンセントさんが合図を出してくれる手はずになっている。合図を受け取れるように、周囲をよく観察しながら走り回っていたのだ。
「いやぁあああああ!!!」
悲鳴が聞こえた。女性の悲鳴だ。キャシー姉さんの声じゃない。被害者が叫んだのだとすぐに察した。非常事態だ。私は急いで木の幹を蹴り上げ、登っていく。ゴブリンは木に登れないようで、下に集まってぎゃあぎゃあと喚いていた。雑魚はどうでもいい。ゴブリンアーチャーもいるけど、木の枝が邪魔になって私を攻撃できてないから気にしない。ゴブリンソーサラーはそもそもここまで来ていないから大丈夫。
木の上から広間を見た。大森林の木は高いから、広間を見下ろすことができたんだ。広間の真ん中には、緑の人が立っていた。筋骨隆々の体に、ボロの腰布。丸太を握りやすくしたような棍棒を持った奴が立っていた。
「……なんだ、アイツ」
そいつは明らかに異様だった。私からは背中しか見えないが、岩穴の中にいるタークスさんが驚いた表情でヤツを見ていた。ヴィンセントさんも見えたけど、私に気付いていない。目の前の化け物に集中しているようだった。
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