38話:異世界からの流れ人
【ヴィンセント視点】
ウラナがエリオに作らせたアイスミントティーのおかげで、幾分か体調がマシになった。馬車酔いを軽減してくれるアイスミントティー。横になっている人も飲み物を飲めるストローの使い方。俺達では思いつきもしなかった。異世界人特有の知識というやつか。
「タンサンはどうやって作るの?」
「知らない」
「はぁ? なんで作り方知らないの」
「知らないから知らないとしか言えない。二酸化炭素を水に溶かせばいいんだろうけど、どうやるのかは知らない」
「ニサンカタンソ?」
錬金術師というものは、基本的に探究心が強い。エリオも例にもれず、未知のモノへの探求心が強い。タンサンという飲み物を作るために、ウラナから知識を引き出そうとしている。ウラナはタンサンの作り方を知らないようで、お手上げのようだ。俺も二酸化炭素は知識としてあるが、どうやって水に溶かせばいいのかはわからない。化学の範囲は獣人に不人気だったからな。
「キャシー、タンサンって知ってるか?」
「しゅわしゅわした水よ。水の中に空気のようなものが入った、不思議な液体ね」
「作れるのか?」
「無理よ。炭酸が見つかったのは数百年前。当時の異世界人が泡立つ湧き水に炭酸と名付けたことが由来なのよ。その異世界人すらも、作り方は知らなかったというわ」
炭酸は元々異世界人の知識から名づけられたのか。異世界人の知識は貴重で、あらゆる発展に繋がってきた。しかしながら、異世界人も詳しく知らないせいでアーティファクト的な扱いを受けるものも多くある。炭酸はアーティファクト扱いではないが、自然界にしかない物なので、高価な飲み薬として一部の長命種に人気があるらしい。なぜ長命種に人気なのかというのは、炭酸が取れる水場がエルフ達の住処だからだ。長距離の運搬はできないものなので、採取できる場所の近辺でしか味わえない。エールよりもシュワシュワ感があるようなので、ちょっと興味はあるな。
「飲める炭酸の作り方はわからないけど、飲めない炭酸の作り方は知ってる」
「その2つの違いってなに」
「美味しいか、まずいか」
「まずいなら、今回の目的には一致しないから、いいか」
「うん」
作り方を知ってるのかよ。キャシーもびっくりしている。思わずウラナに話しかけに行くほどだ。そんなに炭酸が気になるのか。急に近寄ってきたキャシーにミケがびっくりしてウラナによじ登っていった。アイツ、よくよじ登られてるな。
「ウラナ、炭酸の作り方を知っているの?」
「不味くて飲めないやつですよ」
「飲めないのにどうして作り方を知ってるのよ」
「理科の授業でやりました。あと、掃除」
ウラナの世界では平民も学べる施設があり、そこで学んだようだ。掃除というのも、シュワシュワする刺激によって汚れが浮いて掃除しやすくなることを祖母から教わったという。ジュウソウとクエンサンがあれば簡単にできるようだ。食用できるジュウソウとクエンサンがあれば、飲める炭酸を作れるようだが、ジュウソウの作り方が分からないらしい。
「クエン酸はレモンとかで代用できるんですけどね」
「ジュウソウの代用品ってないのか?」
「貝殻とか、石灰岩ですね」
「セッカイガンは聞いたことはないが、貝殻でジュウソウの代用すれば、飲める炭酸になるんじゃないのか」
「貝殻でやると生臭いんですよ。貝殻の成分が溶けてしゅわしゅわするので、臭いがどうしても移ります。飲む時に生臭いとまずいですよ」
生臭いのは嫌だな。ミケがウラナの上に飽きたのか、床に飛び降りる。そのままウラナの足元でのんびりすることに決めたようだ。
「ウラナは飲んだことあるの?」
「私は飲んでませんけど、先生の話を聞いてなかった男子が飲んでえづいてました」
「臭かったんだな」
ウラナの世界に獣人等はいない。人間が飲んでえづくなら、俺はもっと無理だな。
「お風呂に入れる分には、水の量が多いから気にならないんですけどね」
「何故お風呂の話が出てきたの?」
「私のいた世界では入浴剤といって、しゅわしゅわでいい香りのするお風呂にしてくれる物があったんですよ」
「こちらの世界にも似たようなものはあるわ。塩と香料を混ぜた、治療用の薬剤ね」
香料も塩もふんだんに使うから、基本的には裕福なやつしか使わない薬剤だ。ウラナが言うにはバスソルトという似たようなものがあるらしい。それは平民も気軽に買える程度の値段で、様々な香りがあり、主に美容目的で使われるそうだ。炭酸の入浴剤も安価なものらしい。ウラナの世界はすごいな。
「今度、貝殻と柑橘類が手に入ったら入浴剤を作ってみましょうか」
「ウラナが作れるの?!」
「たぶん、作れます。香りも柑橘類が何とかしてくれると信じたい」
「ふぁーお」
握りこぶしを作って意気込むウラナの足元で、ミケが大きなあくびをした。そのままぐぐっと体を伸ばし、ぽてっと横になる。そのままごろんごろんと転がり始めた。コイツ、自由だな。
「入浴剤、楽しみにしてるわね」
「貝殻って海まで行かないと手に入りませんかね」
「首都の道具屋でたまに売ってるぞ。高いけどな」
「帰ったら覗きに行きますかー」
「ふみゃお!」
「わっ、なに、踏んでないよ」
「ふっ」
ウラナが足の位置を変えただけなのに怒っている。鼻で笑ったあと、またウラナの足元にごろんっと横になった。踏まれるのが怖いなら離れればいいのにな。ウラナが危険な異世界人なのか、有益な異世界人なのかはまだ判断ができない。油断させて、ということもある。今後も様子は見ておこう。それにしても、タークスのうっかりのせいで異世界人の監視の依頼が滑り込んでくるとは、人生何があるかわからないものだな。
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