第七十三話 罪と云う名の運命
「【天罰】を無視した【天罰】」
*人によってはホラー…かも?自分でもよくわかんないです(笑)
「お久しぶりでございますな、長老様……いや、女神、と申した方がよろしいですかね?」
長老は白い指を口元に当て、懐かしそうに笑った。
「その名、久しぶりですわ。何年…年百年ぶりでしょうか?」
「人をやめ、自ら神の座に就いた美しき少女。虚飾の女神であり悪魔、ティーナ様、お会いできて光栄です」
老人の笑みに長老はピクリと頬をひきつらせた。長老の顔にあるのは張り付いた笑み。長老はプッと、道端に苛立ったように唾を吐いた。彼女らしからぬ行動に零耶達は面食らった。だが神達や老人は当たり前だと言わんばかりの表情だった。そしてもうひとつ、零耶達は長老の名前であろう言葉に驚いていた。「虚飾の女神であり、悪魔」?つまりは、イーラやプライドと同じ?もしくは姉妹か、母親か。それよりも、彼女もまた神であることにも驚いていた。「人をやめ、神の座に就いた」、人から神へとなった正真正銘、最期の神。だからこそ、長老と云う名で呼ばれ、政府に疎まれていたのだろうし、自分達の味方となり、愛してくれたのだろう。被害者の分まで。だから手を貸した。神格化された彼らは知っていたのだろう。彼らは、カウントしていたのだろう。そして、彼女が『侵入者』の最期の、6人目。確証もなければ、証拠もない。けれど、本来の姿に戻ったせいか、両親の長老を見る頼もしい眼差しのせいか、仲間だと安心したせいか、ずっと長老に蔓延っていた謎が解けた。愛しき長老は「全てを裏切る覚悟で望んだ」。八咫烏は知っていた、いや、同胞は知っていたからこそ、だったのだ。いやはや、何処までが作戦だったのか。恐れ入る。
長老はその綺麗な顔を歪ませながら言い放つ。
「貴方に、いえ、貴方方に言われたくはありませぬ。ところで、どういう風の吹き回しでございましょう?」
不機嫌そうに言い放つ彼女に老人はこうべを垂れながら言う。その顔は酷く、落ち着いていた。
「いえ、【天罰】が決まった事に失礼ながら一言申させてください……許されないとは分かっております。何卒…」
淡々とした、後悔と懺悔が滲む声で言う老人。その声と表情にはこの運命を受け入れている、という事がひしひしと伝わってきた。老人と共に数人の老婆、老人がこうべを垂れる。彼ら全員、老人と同じ表情と思い、そして、零耶達に優しかった者達だった。それに、零耶達の決心が一瞬揺らいだ。他の人間達とは違い、優しい笑みを向けてくれた老人達。懺悔せず、後悔さえもせずに今になって都合のいいように過ちを認める人間とは違い、懺悔し、罪を認めていた彼ら
ら。けれど、彼らが懺悔していたとしても、罪を認めていたとしてもそれは、自己完結にしかならない。
長老が怒りにカッと顔を紅くした。が、冷静になると、声を発する。
「何故、とあえてお聞きいたします」
「……わたくし共は、罪に気付きながらも『戯れ』を行ってしまった。全てを忘れ、快楽に、理想郷に身を焦がした…あの時は意味が理解できませんでしたが、いまなら…いまなら分かるのd「「それでも」」…」
突然、老人の高ぶりつつあるその言葉を玖陽と【天照大御神】が遮った。親子の顔には、慈悲深さなど微塵もなく、怒りと憎しみしか宿っていなかった。それに零耶達も、優しかった老人達の罪を思い出した。そうだ、つまり、彼らは、彼らは…
「貴方達が許しを乞うて、助かると思っていたら大間違いです。貴方達は、全員が全員、罪を犯した」
「止めようとしなかった事も、罪。意味を理解しなかった事もまた罪」
そう言った。つまり、何をしても運命は変わらないと言うことだ。遅い。何度も云うがあの【天罰】の時に『戯れ』をやめていたならば、この運命は変わっていた事だろうに。
老人は「そうですか…」と軽く首を振った。そして、静かに怒っている長老を見やった。長老とその背後に立つ神々に軽く頭を下げ、納得したように頷いた。
「では、どうぞ」
その「どうぞ」がどういう意味か、分からないほど無知でも、愚かでもない。老人達は受け入れたかのように、その場を動かない。まるで石のよう。だが、他の、彼らのように受け入れられない若者や中年の人間、人間の子供は絶望の色を露にした。もう、変えられない。【天罰】は、滅亡は与えられる。自分達を救ってくれそうな、洗脳主で親玉であった政府はもういない。いるのは、被害者と加害者のみ。その関係は、今から、復讐される者とする者に変わる。
誰かが、ゆっくりと、逃げようとした。ジリッと音がしたわけでもない。それでも、逃げようとしたことはわかった。途端、バシュと小さな音が響いた。その音がした方にいた一人の女性が頬に当たった生なるいものを触った。それは血で。恐る恐る顔を上げれば、そこには
「っっっっきゃあああああああ!!!!」
首から上がない骸があった。近くの地面には白目を向いた頭部が転がっていた。シュルン、と紅い糸が頭部から引き抜かれるとビクン、死んだはずの頭部が一瞬、うごめいた。その糸には白と黒の小龍、水の滴が微かに纏っているように見えた。糸は、【神の子供】の一人、絡繰が突き出していた右手首に巻き付く。と、途端にその糸の周りを白と黒の小龍と水の滴が舞った、かと思うとそれぞれの主の元へ、鳴海と遊姫の元へと舞い戻った。2匹の小龍は彼の周りを舞っていた龍に吸い込まれて、水の滴は遊姫の両腕付近に浮かぶ刀剣類に吸い込まれた。何故か静まり返った空間が異様に感じる。それを破るように、絡繰達が声を発した。
「嗚呼、悪い。我慢できなかった」
「ふふ、だよなー絡繰。鳴海もでしょ」
口元を押さえて笑う絡繰と、愉快そうに空洞化した瞳を人間達に向ける遊姫、そして、静かに頷く鳴海。恐怖に静まり返った人間達と、怒りと憎しみに静まり返った神達と子供達。どのくらい時間が経っただろうか。唐突に、割れるような悲鳴と足音が響き渡った。
「さあ、【天罰】へのカウントダウンの開始ですぞ」
長老の、いや、ティーナの愉快そうで、それでいて怒りに満ちた声が廃墟の街に響いた。
もう少しで終わります。突っ走りますよーーー!




