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それでも彼らは眠らない。  作者: Riviy
第七章 それでも彼らは眠らない。
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第七十二話 遅すぎる懺悔

「気づいた時には、既に終わり」


恐怖に滲んだ声色で、震えた口調で男性が喋る。


「も、申し訳ありませんでした……ですので、【天罰】だけはっ!!!」


シーンと静まり返った空間。男性が頭を下げる。人々も次々と頭を下げる。その光景に、後悔に、懺悔に、彼らの怒りは頂点に達した。


「今更かよ……ふざけんなっっっっ!!!」


遊姫が叫んだ。ビリビリと空気が遊姫の感情を表すように大きく震え、鼓膜だけでなく、肌にまでその感情と空気が伝わるほど。男性が情けない悲鳴を上げながら、人間達の群れへとへっぴり腰で戻って行く。戻って行った途端に転んだが。遊姫は肩で息をしながら、呼吸を整える。その瞳には、色が輝く片目と空洞化の片目には怒りと憎しみが宿り、それはどんどん増幅しているように見えた。と、その肩を鈴音丸が掴んだ。遊姫が怒りに満ちた視線を人間達に向けながら、鈴音丸の言う通りに下がる。と鈴音丸はスゥと彼らを見た。その視線は、冷ややかで、かつて自分達が「命を奪った戦闘員」に向けていた瞳とよく似ていた。それに人間達は、嫌なほどに理解してしまう。


「『申し訳ありませんでした』?何故、今になって?以前から、忠告はなされていた。それを無視したのは貴殿等だろう?」


低い声が人間達の鼓膜を震わせる。怒りと憎しみに満ちたその声。神である彼らの誰もが、その謝罪を受け入れる事はない。

今更なのだ。今更、許しを乞うても遅いのだ。全てが遅すぎた。人間は【天罰】として巨大隕石が落下した時に懺悔するべきだったのだ。人間達が世界に刻まれたルールを思い出したにしても、神達は滅亡を決定した。「神は人間に失望した」のだ。その失望は、彼らの命を持って償わなければならない。【天罰】が落ちる原因になった戦闘員、子供達の命を奪った代償として。神を騙し、【神の子供】を奪った、次世代の神を奪った代償として。それは必然的で、偶然的な命運。


人間達は震えながらも土下座し、許しを乞う。何度も何度も。それを冷ややかな目で見る神達。その許しは、2年前に期限が切れた。


「もう、遅い」


玖陽がそう呟く。それを皮切りに、【神の子供】達が溜めに溜めていた不満や怒りをぶちまけた。


「ボクらを散々なぶっておいて、人が良すぎるでしょ?!」

「あたし達を洗脳して、愉しかった?殺し合いをさせて、愉しかった?もう、戻らないのよ命は!!」

「過ちは二度と消えないし、この運命も変わらない。望んでそれを受け入れたのは、忘れて俺らを洗脳ころしたのは…お主らだろ?!」

「…僕達の、思いをも、無視…しておいて、許す気はないっ」

「ぼくらを見下せて、嬉しかった?こっちは、嫌だったんだから……!」

「全部、全部今更よね。こっちの思いも知らないで……今までを返せっ!」

「神格化されて、させて、オレ達が何も感じないとでも思ったか?」

「積もりに積もった怒りも憎しみも、憎悪も、ルールも、全てが全て、キミたちが望んだ結末なのですよ」


不満と怒りを爆発させる彼ら。彼らの言い分に人間達は何も言えなかった。全て【真実】であるからだ。自分達は自分勝手な理想郷のために「神格化」と云う儀式を行った。それは、忘れていた神への裏切り行為である。そして、【神の細胞】を埋め込んだ子供を私利私欲のために使い、死なせた。洗脳を施し、言うことを聞くようにしていたとは言え、それは罪である。それに気づいたのは、政府を失い、滅亡が決定されたこの瞬間だったが。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」


同じ言葉を繰り返す人間達。繰り返しているのは『戯れ』に関わったと思わしき中年から若者の人間達で、子供の人間達は何がなんだか分かっておらず、泣き叫んでいる者が多い。まさに、阿鼻叫喚。怒りと憎しみと懺悔の大合唱である。それらを冷ややかな目で見ながら零耶は思う。

何故、こんな事態になってまで、彼らは【天罰】を無視したのか…それほど理想郷が欲しかったのか。そう思うと心中が怒りに震えた。


「お待ちくだされ、【天照大御神】様」


その時、怒りを和らげてしまうほどに落ち着いてしまう、しゃがれたながらも威厳を持った声が響いた。【天照大御神】がスッと手を軽く上げると途端にシーンと静まり返った。人間達が道を譲り、その道を歩いてくるのは一人の老人。白い髭を生やした、大層立派な体格をした老人だが、その顔には慈悲深さと哀愁を宿している。その老人を見て、零耶、玲御、統軌、右京、左京の顔に衝撃が走った。


零耶レーヤ、統軌、あの人って」

「嗚呼、あの人だ。間違いない」

「…なんで、あの人が」

「あそこの……」

「……何故」


5人は知っている。あの彼の老人は、自分達が任務で行った際に暴言などを投げずに優しく、温かく道を譲ってくれた老人達の一人だ。老人は零耶達を見つけるとニッコリと、孫を見守るかのように穏やかに笑った。【天照大御神】が杖を付きながらこちらにやって来る彼に向かって、一歩歩みでようとするのを、美しい白い指が止めた。彼女がその人物を驚いたように振り返る。


「長老…」

「此処は人間同士。わたくしめが御相手いたします、女神様」


長老が【天照大御神】にニッコリと微笑みかける。彼女は一瞬、考えたようであったが、はいと長老に向かって頷いた。

長老は、俺達、子供達の味方であり、神格化された彼らの味方である唯一無二の味方こちらがわの人間だ。何故、俺達の味方でいたのか。何故、俺達を愛し、人を裏切り、やめたのか。何故か、今、分かる気がすると、零耶は思った。そう思うと共に、玲御と統軌の手を握った。2人も同じだったのか握り返してきた。【神堕ち】したからか、本来の姿に戻ったからか、言わなくても言いたいことが理解出来た。


零耶は玲御と統軌と共に長老を見やった。長老は老人との距離を縮めていく。数メートルの距離を開けて2人が立ち止まった。そこで零耶は首を傾げた。玲御と統軌もだったらしく、唸るような声を小さく上げている。そこにいるのは、零耶達が知る長老ではなかった。長老の艶かな黒髪が妖艶に風に揺れ動き、背筋はピンと伸び、背中からは両親と、神格化された者達と同じ安心感が漂っている。顔つきは優しそうな笑みはそのままに、刻まれていたシワが消え、みるみるうちに若返り、輝きが増す。老婆のような容姿ではなく、どちらかと云うと少女と云う方がしっくりくる容姿だ。もはや、老婆であったはずの長老はいない。そこにいるのは、仙人の域に「達していた」長老と云う名の少女だった。その姿はイーラとプライドにそっくりであった。それに零耶達はまさかと、冷や汗を垂らした。小さなざわめきが子供達と何も知らない人間達の間に波のように起きる。


老人は、少女になった長老を見て懐かしそうにほ目を細めると、軽く頭を下げて言い放った。



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