第七十一話 運命共同体、以下略
「その【天罰】は、運命で、命運で」
鈴音丸の周りを赤い小さな炎が包み、彼の背後から九本のふわふわとした狐の尻尾が現れる。片手に持つ大太刀にも炎と黒い靄が纏い、鈴音丸の片目が空洞化したかと思うと律夏の瞳と同じ色に変わった。律夏の持つ槍の輪が大きくなり。槍全体を覆うように浮かび、彼の肩に長い和服が羽織られ、鈴音丸と同じように片目が空洞化すると鈴音丸の瞳と同じ色に変わった。
神楽を椿の花びらが包むと彼女の服装が同じ色合いで軍服に変わった。変わったと云ってもスカート部分は同じなので、簡単に言えば上だけが変わったようなものだ。腰には何振りかの刀剣類が帯刀され、片目が空洞化した。鳴海の2振りの脇差から2色の龍が放たれ、彼の周りを守るように飛ぶ。鳴海が手に持っていた仮面を放るとその仮面は青い粒子となって2匹の龍に吸い込まれ、先ほどよりも美しく輝き、片目が空洞化。守光に片目が空洞化し、彼女の周りに浮いていた骸骨達がカタカタッと音を奏でた。そして今度はバチバチッと音と閃光が放たれ、彼女の周りと骸骨に雷が放たれて纏う。彼女がブンッと片手を振るとそこには大振りの剣が片腕と同化していた。
零耶、玲御、統軌は頭からすっぽりと覆う羽衣のような布を被った。零耶は白、玲御は灰色、統軌は黒色である。キィンと音がして3人の両耳にイヤリングがつく。零耶の左耳には玲御のイヤリング、玲御の右耳には零耶のイヤリング、統軌の両耳には2人のイヤリングがつく。だが不思議な事に、片目は空洞化しなかった。けれど、数秒毎に3人の片目が色を失い、空洞化していた。
これで全員が全員、本来の姿となり【神堕ち】した。親である彼らの中にも【神堕ち】した者がいる。けれど、【神堕ち】していない者を探す方が難しいほどだった。彼らを、【神穢】達を、【神堕ち】した両親達を、そして、【神の子供】を支配するは怒りと憎しみ。その負の感情の矛先は、『人間の悔い改めない穢れ』を持った人間達に向けられた。
零耶は布の中から空を見上げた。夜空で月が美しく輝いている。
「(嗚呼、今夜はなんて、【天罰】に相応しい夜だろう)」
【神の子供】のリーダー格・玖陽と両親のリーダー格で玖陽の母親・【天照大御神】が示し合わせたように片腕を挙げる。これから始まるのは、【天罰】。誰もが【天罰】を下そうとしていた。玖陽の武器と同化した片腕と背後に控える輪、【天照大御神】の背後に控える、玖陽と同じ輪が光輝く。玖陽が【神の子供】達を見やり、小さく笑いながら、問いかける。
「【天罰】、下そ」
その、怒りと憎しみを宿しつつも安堵した笑みに【神の子供】達が頷き、問いに答えるべく、声をあげる。雄叫びが夜空に響き渡り、まるで大合唱のようだ。その大合唱が収まると【天照大御神】が両親達を見やる。彼らはゆっくりと、瞳に子供と同じ感情を宿しながら頷いた。決意は固まった。
【神穢】達が誰の指示に従うわけでもなく、個々に彼らの周りを固めるように移動して行く。珀蝶が抱く【神穢】と守光の肩に乗っていた【神穢】も「後でね」と彼女達に頬擦りしてその配置に参加する。
殆んど無意識に、零耶は玲御と統軌の手を取った。姉と相棒の手は自分を慰めたり、導いてくれた事が嘘のように震えていた。よく見れば、遊姫や絡繰、獅雨、少なくとも数人の肩が震えていた。【天罰】を下すのは、相当の覚悟がいる。ましてや、以前下された【天罰】は隕石だったが今回の【天罰】は隕石なんてそんな柔なものではない。誰も確認などしなかったが、今回の【天罰】は滅亡。人間に【天罰】を下すのはいいとしても、自分達が、【神の子供】がどうなるかはわからないのだ。ちなみに、滅亡と言わなくても分かった理由は本来の姿となり、【神堕ち】し、ルールを知ったである。隕石で悔い改めず、最大で最期のチャンスを無駄にした。隕石を落とす前から、大昔から既に人間の結末は決まっていたのだ、誰もが知っている「はず」である世界のルールによって。「神が人間に失望した時、世界は滅亡する」。それを、人間は軽んじ、忘れた。彼らが招いた滅亡と云っても過言ではないのだ。
世界に刻まれたルールは創造と滅亡を繰り返してもなお、受け継がれる。つまり、神である彼らの【天罰】は、自分勝手な行動ではなく、既に定められていたルールに従った、正当な【天罰】なのである。【真実】を知り、本来の姿となり、【神堕ち】した【神の子供】達はそれを「思い出した」。政府によって【神の子供】である事も洗脳で知らなかったのだ。洗脳が解けた今、世界に刻まれたルールを思い出しても無理はない。
けれど。
滅亡は、どうなるか分からない。神が何十人…いや、神格化によって何千人と増えた今、ルールに従い滅亡した場合、神格化された者達がどうなるかは検討もつかなかった。その子供も。だが、人間が忘れたルールを覚えている以上、消える事はなさそうだが、それでも微弱ながら恐怖があるのだ。だから、きっと震えていたのだ。
零耶は彼らに与えられたように大丈夫、と手を握った。それに、2人の震えが止まり、零耶の手を強く握り返してきた。零耶は心から安心したように、小さく笑う。
大丈夫。俺達は一緒だから。依存という言葉さえ愛おしいほどに。「運命共同体」と云う名さえ。
ゆっくりと挙げられていく玖陽と【天照大御神】の片腕。2人の腕が同じ高さになり、手を繋ぐ。二度と、離さないとでも云うように。その手を胸元に持って行き、そして、ブンッともう片方の腕を振った。ブオンと音がして、彼らの足元を紫色の、歪んだ五芒星が囲んだ。
「!」
が、その時、八咫烏が声にならない悲鳴を上げた。そのため、五芒星は小さな音を立てて、薄くなって消えてしまった。視線の先では【神穢】達が誰かに向かって威嚇していた。その誰か、多くの人々が顔に恐怖を宿しながらこちらに一歩、また一歩とこちらに向かって来る。どうやってこの状況を知ったのか知らないが、最大勢力の、味方であった政府を失ったためか、顔が青白い。ピンと張り詰めた糸のような緊張感が、場を包む。玖陽と【天照大御神】が【天罰】の動きを止め、【神穢】に道を譲ってもらいながら、人間達に近づく。互いの距離があと数メートル、というところで人間側の代表なのか少しふくよかな男性が一歩前に出た。




