第六十三話 政府と云う名の二元論
「一元論も二元論も、何が違うんですか?」
階段を二段飛ばしで駆け上がっていく彼ら。上へ上がっていくにつれて、その表情は怒りと憎しみに包まれていく。
トンッ、と足がついた。11階だ。此処からは二手に分かれる。左京と右京は清守と絡繰、獅雨に視線で「頑張れ」と「任せた」と送った。それに3人は「そっちも」と「任された」、「頑張って」と笑みで返した。研究室は階ごとに分かれている。数人が11階で散らばり、最上階へ行く頃になると玖陽率いる数十人しか残っていなかった。
最上階へ向かう階段を一歩、また一歩と登ると緊張が走る。政府は【真実】を告げたらどうするだろう?騙し続けていた【AVANOLS】が乗り込んできただけでも一大事であろうに…まぁ、幹部の、彼らの事などどうでもいい。【真実】が、そう、【真実】が分かればいい。本来の姿に戻りつつある自分達にとっては、全てが最初で最後なのだから。
前方に光が見えた。閉めきっていない扉から洩れた光のようだ。玖陽はその扉に近づき、ドアノブを捻る。着いてきている右京達に視線で合図を送り、慎重に扉を開けた。顔だけを出して様子を伺うとそこは廊下。非常用階段を登って来たのだ。廊下には点々と明かりがついているのみで人はいない。部屋の中にいるのだろうか。警備員の姿がないことを確認し、彼らは静かに廊下に躍り出た。何処までも続いていそうな、暗い廊下が彼らを出迎える。まるで地獄への道のようだ。彼らは玖陽を先頭に、慎重に、警戒して進む。制御室は幹部が集まる部屋、会議室と隣接しているはず。どちらか一方に入る事が出来たらいい。ゆっくりと、だが素早く、彼らは進んでいく。少し進むと、警備員の姿が見えた。人数は大きな両開きの扉を守るように2人のみ。奥にも部屋があるのか2人の警備員が険しい面持ちで立っている。腰には伸縮自在の棒を携えている。中には眠そうに、欠伸を噛み締めている者もいる。玖陽は後ろに着いてきている仲間達を振り返り、親指で警備員を示す。右京が懐から横笛を取り出し、ニヤリと嗤った。その隣では左京が扇を構え、彼に準備満タンだと告げる。玖陽は壁から少し顔を出し、警備員がこちらに気づいていない事を確認すると、やれ、と目配せした。その際、一番後ろに立っていた、夜の闇に溶け込んでいる八咫烏と目が合った気がした。
「"桜花姫"・眠りの夢」
「~♪~♪~♪~♪」
子守唄のように清い、美しい笛の音と、左京が優しく振った扇から放たれた紫色の霧が警備員数名を包み込む。色はついているが目に見えない霧と、子守唄が警備員数名の鼓膜を震わす。欠伸を噛み締めていた警備員一人が再び欠伸をしながら、壁に寄りかかり、最後にはズルズルと落ちていき、座り込んだ。それを筆頭に次々と警備員達が壁に寄りかかりながら座り込んでいく。そして、暫くすると気持ち良さそうな寝息と子守唄である右京の横笛のみが響いていた。警備員達が眠ってしまったのを見て、玖陽は素早く彼らの元へと歩み寄ると本当に寝ているのかどうか確認する。スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。ホッと胸を撫で下ろして玖陽は左京と右京に親指を立てて「OK!」と示す。左京と右京はパチンと控えめにハイタッチをかわし、彼らは物音を一切立てずに2つの入り口に分かれる。玖陽がしっかりと閉まっている扉を見、全員が配置についた事を確認。彼らは視線をかわす。彼らは武器を構える。玖陽がスッと太刀を持っていない方の腕をあげる。再び、視線をかわし、合図を待つ。玖陽は"異常"を、千里眼を使い、幹部達が呑気に会議しているのを確認する。そして、腕を振り下ろした。
…*…
ダンッ!と突然、開かれ、半分壊れた扉に幹部達は驚いたようであった。隣接した制御室からは驚愕の声が上がっている。しかし、幹部達は驚いただけで声をあげなかった。警備員が来るとでも思っているのだろうか。それとも別?
ようやっと、驚愕から我に返った幹部の一人が怒りに震えながら叫んだ。
「貴様ら!!一体此処を何処だと思っている?!何用だ!」
何も言わず、淡々とした視線を怒鳴った幹部に向ける彼ら。怒鳴った幹部は上から数えて4番目に偉い者だ。彼らの目の前に奥へと伸びる長テーブルの一番端には、一番偉い幹部が座っている。彼も此処にいる幹部達と同様、怒りに震えている。
「分かってんじゃねぇの?そんな事」
「分かってんのに聞くなんて、アホじゃね?」
右京と遊姫が煽るように言い放つと幹部達はハッと我に返ったようだった。そして、ざわめき、青ざめる。
「警備員!!警備員は何をしている?!」
「警備員なら来ませんよ。夢の中、です」
左京が口元に人差し指を当て、妖艶に言う。玖陽達の耳元のインカムがピピッと甲高い音を奏でた。
〈制御室制圧。そこの部屋を中継開始〉
〈全ての究室制圧完了。中継、こっちの画面に映ってるよ〉
仲間の声が耳元で響いた。準備は整った。さあ、始まりだ。玖陽は、腹から声を吐き出す。聞いた【真実】、本当の事を。
「全て聞いた。長老殿から、イーラから。僕たちは【神の細胞】を埋め込まれた正真正銘【神の子供】。僕たちの前にも家族、仲間、兄弟がいたこと。『戯れ』で消えていった命があったこと……全て、僕たちは聞いた、知った。君たちが僕たちに隠していた事全部っ!」
ざわめいていた空間が、シーンと静まり返る。と、奥に座る一番偉い幹部がぶるぶると肩を震わせ始め、大声で笑い出した。
「は、ははははははははははははははははははははっっっ!!!」
「っ」
顔を片手で覆いながら、ガッターンと椅子に悲鳴を上げさせながら立ち上がる幹部に玖陽達は面食らった。その目には、狂気が宿っているように見え、この部屋の温度が下がった気がした。それくらい、幹部、いや、その男性は狂っていた。同じ幹部数名は一番偉い幹部ー分かりにくいのでボス、幹部の上司にしようーの変わりように、ぶるぶると恐怖と驚愕に怯えていた。その数名は見た限り若い。一方、他は吹っ切れたのか、意地の悪い笑みを浮かべる者や、中には後悔の表情を浮かべ、この後の運命を受け入れている者など、十人十色である。
ボスは暫く笑うと、肩で息を整えながら玖陽を、左京を、右京を、遊姫を、全員を、見た。その瞳にうつっているのは後悔なき野望。その瞳の感情が玖陽達、【AVANOLS】、【神の子供】の怒りと憎しみを刺激した。ボスはクスクスと嗤いながら、言い放つ。
「よくわかったものじゃなぁ。やはり、長老、始末しておくべきだった……まぁ良い」
再び、クスクスと嗤い、ボスは懐に手をやった。気配と空気が揺れる。何か来る、そう思った玖陽達。左京と右京が素早く武器を構え、懐から取り出されるものに向かって技を放った。
「"黒鴉"・黒ノ羽根!」
「"桜花姫"・桜舞!」
ビシュッと音がして懐から出したボスの片手から紅い血が流れ出る。その背後の壁には刃のように鋭くなった黒い烏の羽根と桜の花びらが突き刺さっていた。その2つにかたどられるようにして、天井のライトで輝く黒い拳銃がぶら下がっている。驚いて、目を見開き、動きを止める残りの幹部達。見事、拳銃を奪い取った左京と右京は冷や汗を垂らした。幹部だから拳銃くらい隠し持っているとは予想していたが、初っぱなから来るか!?とまぁ、2人の心中は混乱していた。だが、ボスの動きを誰も止めようとせず、そのまま動かせた。それはボスが大きな力を持っていると云うことを表しているのだろうか、否や。それとも、「異様」な状況に諦めたのか、機会を伺っているのか。
緊迫した、緊張した空間にボスのあまりにも場違いな嗤い声が響く。
「ふふ、我らに歯向かうか。いいだろう、教えてやろう。我らが求めた理想郷の物語をなっっっ!!!」
そう叫んで、ボスは吹っ切れたかのように、意気揚々と武勇伝を、「自分達が求した物語」を語り始めた。
次回作決まりましたが、題名が決まっていない!なんてこった




