第五十六話 小夜曲~鎮魂の祷り~
追加キーワード:神、歴史上の人物、史実とは関係ない、フィクション、過去話、擬人化、神格化
蝶丸と云う名を持つ少女は九尾の狐と共に暗い空を見上げていた。
「…ねぇ、狐さん」
「ん?なんじゃ蝶丸」
九尾の狐が豊満な胸を揺らしながら、蝶丸の方を向く。蝶丸は不満そうな表情で言う。
「愛し子の中に、兄弟っているのかな?」
「何が言いたいのじゃ?」
彼女の意図が理解出来ず、九尾の狐が首を傾げる。佐助や才蔵の忍勢の話では、兄弟はいないらしい。けれど、もし、人間達が『戯れ』をやめないのならば、いつしか兄弟が現れても可笑しくはない。だが、基準は全く分からない。
九尾の狐は、蝶丸の意図を理解しようと頑張って考え、その答えに辿り着いた。実際、兄弟の問いは前々から存在してた。だが政府がうまく隠したらしく、その兆候は見えていない。
九尾の狐はふわりと微笑むと蝶丸の頭を安心させるように撫でた。彼女の、凛々しい表情が歪んで行き、年相応の少女の顔になった。
「兄弟は妾達全員じゃ。兄弟でない者もそうでない者も。愛し子も、そうであろう」
「そうかなぁ…」
「そうじゃ…ところで蝶丸」
「なに、狐さん」
九尾の狐を覆う蝶丸から漂っている違和感。彼女の心配事はそんな些細なー同胞によっては違うがー事ではない。兄弟は、その心配事をさらけ出すための前置きに過ぎない。九尾の狐は、そう感じ取った。
「何が心配なのじゃ?失敗する事か?」
「失敗なんかしない!!村正と、桔梗だよ?!絶対、失敗なんかっ!」
その剣幕に、九尾の狐はキョトンと目を丸くした。その表情に蝶丸はハッと我に返ると、俯いた。
「失敗なんかしない。例え、隕石が人間達の考えを変えなくても、彼らなら、きっと」
だんだんと抑揚がなくなっていく声。彼女の心中は、痛いほど分かった。きっと、天罰と称して隕石を落としても人間達は変わらない。この世は、誰に優しくて、誰に意地悪なのだろう。怒りが支配し、【神堕ち】と云う闇へと堕ちていく方がよっぽど、美しいと九尾の狐は感じていた。それは既に、自分が堕ちていることを意味している事に変わりはない。
けれど、
「成功するに決まっておろう?」
ニィと笑った九尾の狐の表情に、蝶丸も、笑った。例え、不幸の方へ行ったとしても、愛し子を救えるのならば。
「さあ、成功を祈って祈願でもしようではないか」
「狐さんもお祈りするんだ」
「たわけ。妾だって、愛し子のために祈願くらいするわ」
クスクスと笑い合った彼女達は、再び、空を見上げた。そして、ゆっくりと瞳を閉じた。彼女達から漂う、美しい陽炎のようなオーラは暗い夜空へと消えていった。そのオーラはまるで、この後の展開を暗示しているようであった。
「愛し子へ、この力を贈りましょう
さあ、」




