第五十話 間奏曲~怒りの矛先~
追加キーワード:神、歴史上の人物、史実とは関係ない、フィクション、過去話、擬人化、神格化
天照大御神の言葉に誰もが驚き、目を見張った。だが、誰からも即座に反対意見も賛成意見も出なかった。全員、考えているのは容易に分かった。隕石を落とすか、それとも別か。
「いいんじゃない」
そう、淡々とした声が響いた。その声の方向にいるのは2人の男女。美しい白銀の髪を持った男性と美しい蒼の髪を持った女性。声を発したのは見るからに不愉快だと言わんばかりに顔をしかめている女性だった。
「隕石の一つや二つ、落っことして神の怒りってのを思い知らせてやればいいんだ」
「落ち着いて。でもね、青龍。その後の事はどうするつもり…?」
男性が女性、青龍を落ち着かせながら訊く。そう、例え隕石を落としたとしてもその後が問題だった。誰もが静まり返った。天照大御神は、やはり隕石では無理がありますか…と落胆した様子で口を開こうとした。
「天照大御神よ、妾は賛成じゃ」
九尾の狐がパタリと尻尾を揺らしながら言った。手で口元を隠しながら言う彼女から憎しみが溢れ出ていた。
「悪いのはあやつらじゃ。その後の事はどうでも良いではないか。あやつらの自業自得じゃ」
「しかし、九尾。もしまた懲りずに人間達が『戯れ』を始めたら?保証はないだろう?」
「なっ!」
「………隕石落とす事には全員賛成なんでしょこれ?」
九尾の狐が烏天狗を睨み付け、それを彼が肩を竦めてかわすとテーブルに突っ伏していた佐助がそう呟いた。誰も何も言わない。言わない代わりに小さく、彼らは天照大御神に向かって頷く。賛成、と云うことは言わなくても分かった。反対意見はない。隕石は賛成。けれど、保険が必要だ。人間達が『戯れ』を止めるとは限らないのだから。止めてくれる事を、後悔することを望むが、その望みは薄い。一度目の作戦で思い知った。
保険。保険について誰も思い付かない。全員が頭を捻る。とその時、村正がニィと口角を妖艶に上げた。それを見た、いまだに突っ伏した状態だった佐助が自分の事のように嬉しそうに笑った。
「何か、思いついたのかい?」
「ええ、まぁ」
男性が村正の様子に気付き、そう訊く。全員の視線が彼に集中する。天照大御神へ村正が発言を求めると彼女は頭を軽く引いて頷き、肯定の意を示した。それに村正は嬉しそうに笑うと目をスゥと細めた。細められた目を見て、怒られると思ったのか、ビクンッと大きな音を立てて佐助が突然、背筋を伸ばした。それに隣に座る烏天狗が可笑しそうに腹を抱えて笑いを堪える。全員がその様子に微笑ましく思い、微笑ましそうに笑った。険悪な空気が少し、和んだ。村正も佐助の様子にクスクスと笑った。佐助はプクゥと頬を膨らませ、拗ねたような表情をすると驚いて損したと言わんばかりにそっぽを向きながら、マフラーに顔を埋めた。それを村正と烏天狗がまた可笑しそうに笑い、烏天狗が彼の機嫌を治すように少し背伸びをしてポンと頭を軽く叩いた。
「さて」と村正は全員に改めて向き直った。良い案が出てくれればいいのだが……拗ねた状態の佐助と彼をあやす(?)烏天狗の隣で村正が思い付いた策を話し出す。
「では、許可をいただきましたので……もし、人間達が再び『戯れ』を始めた場合、僕達の中から子供の中に紛れ込めばいいんです」
「……?つ、つまり?」
佐助が首を傾げる。彼らも半分がわかって、半分がわかっていない状態だ。村正は少し苛つきながらもきちんと噛み砕いて、説明しようとする。
「はぁ……だから、『此処には神格化が揃っている』んです。一人くらい、『神格化になっていない』人くらいいるでしょう?その人を『戯れ』を始めた時、生まれるようにこっちで改竄してしまえばいいんですよ」
妖艶に、人差し指を口元に当て笑う村正。つまり、こちらから『侵入者』が生まれるように仕向けると云うのだ。村正が言うと難しい言い方にはなるが、簡潔に言えば、そう云うことだ。
天照大御神はなるほどと腕を組んだ。けれど、それは肝心のスパイがいなければ成り立たない。
「しかし、それは可能なのですか?神格化されていない者は何人かいます。けれど、仕向けるのは難しい事です」
「それは…「わたくしどもにお任せください、天照大御神殿」」
少し低い声が村正と天照大御神を遮った。その声がした方向にいたのは少年と彼の後ろに寄り添うように立つ男性だった。村正がその通りだと言わんばかりに微笑む。天照大御神は訳が分からず、首を傾げながらも、発言を許可するようにそちらへ視線を向けた。
「どういうことです?」
「仕向けるのは簡単です。既に神格化されている者か、同胞からその技を受け継げばいいのですからな。佐助殿、確か貴殿は情報を書き換えて相手を誘導する……仕向ける事が出来ましたな?」
突然、槍玉にあげられた佐助はびくりと再び肩をびくつかせた。佐助は「出来るよ」と答えながらなんで?と首を傾げる。それを見て村正の提案の意図に気づいた烏天狗、蝶丸、信長、九尾の狐、青龍など数人がハッと目を見開いた。その驚愕の様子に天照大御神も意図に確信を持った。青龍の隣に座る男性も気がついたようで「そうか!」と手を叩いた。
「?なぁーに白虎。どういうこと?」
「だからさ、こう言う事さ。佐助の能力を神格化していない同胞に教え込む。そして、その能力をもしものための保険とする……佐助の能力の効果設定を『戯れ』が開催される時にしておけば、人間は勝手に書き換えた情報を見て、『神格化している』と思い込んでその子を呼び出す。そのままその子には【神の子供】として生活してもらいつつ、情報を流してもらう…そういうことだろう?」
男性、白虎の説明に村正と少年がその通りと頷いた。ようやっと理解出来た佐助は今度はあれ?と首を傾げた。彼には別の疑問が浮上していたのだ。じゃあ、自分は誰に教え込めばいいの?
そんな彼の疑問に少年が気付き、クスリと笑った。
「教え込む人物はこちらで用意できておりまする」
「!!千本の刀!」
「お見事ですな、信長殿。わたくしの部下の刀は、一振りを残して全て神格化、もしくはあちらの手中です。最期の一振りは……全ての武器を結集した最高品ですので。弁慶」
「承知」
少年が後ろに控えていた男性、武蔵坊弁慶の名を呼ぶと彼は腰に携えていた一振りの脇差を彼の前に差し出した。それを受け取り、少年はそれを村正と蝶丸に見えるように向けた。その一振りを見て2人の顔色が変わった。蝶丸は両手を合わせて妖艶に「ふふふふふ」と笑いだす。
「まぁ、まぁまぁまぁ。『その子』は君達が持っていたんだね。通りで話が噛み合わないはずだよ」
「まだ、被害に遭っていなかったのですね……安心しました」
2人の、いや、元2振りの言葉に全員が納得したように目を見張った。けれど、いまいち、実感が沸かず、怪訝そうに顔をしかめる者が大半を占めている。
「義経、こやつらが言うておる意味が妾達には少し、理解できんのじゃが」
九尾の狐がその美しい顔を歪めて訊くと少年、源義経ー姿が幼いので牛若丸の方がしっくりくるがーは「失礼しました」と悪びれる様子もなく微笑む。
「この脇差の名前は『桔梗』。先程も申し上げた通り、全ての武器を結集した脇差です。いえ、少し語弊がございますな。本当のその意味は、『全ての刀剣を結集した』」
「え……つまり、それって…」
「御名答。神格化されたものもそうでないものも、妖刀も名刀も、全てを結集したものです。弁慶のちょっとしたコネで手に入れました」
「俺は狩りたかったがなぁ…」
義経、いや牛若丸が周囲の驚愕した声を聞き、愉快そうに笑えば、その時を思い出して弁慶が落胆する。それに牛若丸は横目で後ろを振り返りながら言う。
「そんな事、申されますな。貴殿とわたくしが出会えたのは貴殿が狩っていたおかげ。それをもう十分、ご承知でしょう?それでも、やはり、心の整理がつきませんか?」
「いや、普通に手に入れた事が物足りなかっただけで、心の整理はついている。心配させたな、主」
弁慶が牛若丸の頭を優しく撫でる。見た人によっては兄弟にしか見えない。いや、実際にそう見えるのだけれども。
だが、天照大御神は疑問を拭い切れず、訊いた。
「理解出来ました。が、見たところ、その脇差は神格化も擬人化もされていない。どのようにして教え込むのです?」
「おや、天照大御神殿。わたくしは、『擬人化していない』とは一言も申しておりませぬ。弁慶が持つ『他の刀は神格化されてしまった』とは申し上げましたがね」
それに全員がハッと息を飲んだ。つまり、その脇差は神格化されていないにも関わらず擬人化は出来ると云う…。だが、いまや全てが狂っているのだ。あり得ない事ではない。
「桔梗に佐助の技を教え込ませるのにはどのくらいかかりますかね。それによってはもう一つ、保険を作っても良いかと思うのですが」
「はい、採用」
牛若丸の意見に青龍がビシッと彼を指差し、言う。白虎がその腕を降ろさせながら天照大御神に向かって頷く。「保険は多いほどいい」、と言う事だ。天照大御神は頷き返し、村正と佐助に質問を投げ掛けた。
「桔梗に技を教え込むのにはどのくらい時間がかかりますか?」
「んー長くて一週間かなー」
「なるほど。村正、佐助、義経、弁慶の4人は桔梗に技を教え込んでください。今から」
「今ぁ?!」と椅子を倒して驚いたように言い放つ佐助のマフラーを軽く掴んで村正が立ち上がり、了承の意を示すように軽く頭を下げた。牛若丸と弁慶も立ち上がり、同じく軽く頭を下げて了承の意を示すと彼らは洞窟の外へと歩いて行った。まぁ一人は引き摺られて行った、と云う方がしっくりくるが。空席が出たところで天照大御神はもう一つの保険として思い付いた事を提案した。
それじゃあ裏話でもしましょうかね!今回は名前で!
零耶と玲御→双子の名前は前々から決まってたわけではありません。「零」という漢字を、使おうと思って出すだけだったキャラからもらって名付けました。元々は双子共に漢字は一緒にしようと思ってましたが、同じにしたらウチがヤバいんで変更しました(笑)
統軌、絡繰、神楽→元々、別の話で出来上がっていました。統軌は絡繰の相棒で、神楽の弟分設定だったので、思いきって姉弟にしちゃいました!ちなみに神楽の名前は樂でしたが、変更しました。
右京と左京→名前がそっくりな二人を作りたかったんです(笑)兄弟ではない(強調)
次回も名前の裏話しようと思います!




