第四十八話 協奏曲~始まりの神~
追加キーワード:神、歴史上の人物、史実とは関係ない、フィクション、過去話、擬人化、神格化
昔々、いや、そんなに大昔ではない。正確には『数年前』。さらに正確に云えば、『3年7ヶ月前』の事である。
深い闇の夜にぽっかりと浮かぶ、美しく輝く月。その月光を浴びる深い森。その森に入る人影があった。その人影は夜の闇に溶け込むような真っ黒な格好をしていた。その人影は周りに人の気配がないかを確認すると森に一歩、足を踏み入れた。途端に、地面を強く蹴り、跳躍すると少し遠めの木の枝に飛び移った。良い木を探すように少し間を開けてまた別の木の枝に飛び移り…を繰り返し、素早く移動していく。しばらくそうして移動していると開けた場所に出た。その開けた場所には月光が降り注いでいる。人影はそこに降り立った。月光によって人影の姿が露になる。その正体は青年、だった。黒い忍装束を身に纏った青年だったのだ。青年は月光を浴びるように中心に行くと瞳を閉じた。静かな夜の中に、森の声が聞こえてくるようだ。青年が森の声に耳を傾けていると
「!」
風向きが変わった。そして、微妙な気配を感じた。だが、この気配は敵ではない。それを知っていたからこそ青年は動く事さえしなかったのだ。青年は月光を浴びるのを少し不機嫌そうな表情でやめ、気配がした方向を向いた。
「何してんの?」
「それはこっちの台詞だ」
バサッと羽音がした。次の瞬間、影から現れたのは背中に烏の翼を生やした山伏の服装をした少年だった。けれど、少年にしては低い声だ。青年は少年の言葉にクスリと口元を押さえて笑う。自分が笑われたと思ったのか、少年は不機嫌そうに顔をしかめた。
「いつまで此処にいるつもりだ?他は集まりつつある」
青年を責めるような口調で少年が腕を組んで言う。それに青年は両手を挙げて「分かった」と愉快そうに笑った。
「分かった分かった。キミがそこまで言うなら、そろそろ行こう」
「俺が言う前に向かって欲しかったがな。おかげで休む暇もない」
ぶつぶつとこちらへ向かってくる青年に文句を垂れる少年。青年は悪びれる様子もなく、彼の頭をポンポンと叩いた。少年はその手を振り払う事もなく、ムゥと顔をしかめたまま、それを受け入れる。青年は少年がなにも言わない事に調子に乗っていつもよりも長めに彼の頭を撫でた。さすがに止められたが。
「っ!いつまで子供扱いするつもりだ!」
「いや、ね?ボクから見ればキミは子供よ?じゅ~ぶんっ、子供」
「こ、子供子供うるさいなっっ!!」
クスクスと楽しそうに笑う青年の手を振り払い、少年は先程よりも不機嫌になった。少年はギロリと自分よりも背の高い青年を睨んだ。青年にとっては上目遣いされているようなものなので痛くも痒くもない。だが、本当にそろそろ行かないと怒られる。青年はそう考え、少年に目配せした。瞬時に意味を読み取った少年はニィと笑い、手に持っていた夜の闇と同じ深い黒色のマフラーを青年の首元に巻き付けた。青年はポカンとした表情をした。その呆けた表情を見た少年は愉快そうに口角を上げた。
「これ、何処で見つけたの?」
「『いつもの所』だ。落とすなんて貴様らしくもないな?愉快愉快」
「もぉ、遊ばないでよ。まぁ、ありがとー」
マフラーを巻き直し、青年は「よしっ」と息こんだ。そして2人は頷き合う。言わなくても何が言いたいか分かるのは修行のたわものと、長年一緒にいたからだと思っている。
青年は足に力を籠め、少年は背中に生やした翼を羽ばたかせる。そして2人の姿は夜の森に消えた。木々を移動する微かな音と、羽音が静かな森に小さく響いていた。
彼らはある場所に向かっていた。そこは『この森に逃げ込んだ者』と『この森で育った者』、そして『招待客』にしかわからないところだ。しばらくして2人は足ー一人は翼ーを止め、木の枝の上でその場所ーその場所は森の奥深くにあるとだけ言っておこうーを眺めた。そこは一見普通の洞窟。だがよく見なければわからないものがある。それは洞窟の入り口にピンッと張られた細い糸である。この糸は使用者が認めた者以外が入ると警告が鳴るようになっており、そして侵入者を捕らえるために洞窟付近の木々には警告が鳴った際、そこにいる侵入者を捕らえる仕組みが見えないように工夫されて設置されている。
2人は糸が微かな風で揺れ、機能していることを確認すると洞窟の前に降り立ち、薄暗い中に入った。細い糸は彼らの体に触れると彼らを歓迎するかのように薄くなり、彼らを通した。彼らが通った後、その糸は再び、ピンッと張り、侵入者を迎え撃つ。彼らは薄暗い洞窟内を進んでいく。カツン…カツン…と云う靴の音が洞窟内で反響するばかりであった。
しばらく歩いていると奥に光が見えた。目的地だ。青年の足取りが軽くなっていく。青年はカツンッ!と音を響かせてその光に向かって跳躍した。そこに広がっていたのは洞窟とは思えないほどの広さの部屋。そう、部屋だ。白い天井と石畳の床。此処は廊下のようで壁には火が灯った蝋燭が取り付けられており、とても明るい。廊下の奥には別の空間が広がっているようで、奥から数人の声が聞こえてくる。青年はくるりと懐かしそうにその場で一回転した。彼の後ろからゆっくりとやって来た少年は、そんな青年を呆れたように見やった。
「ほら、行くぞ」
「ちょっ!?マフラー引っ張んないでっ!」
少年が青年のマフラーを引っ張って奥へと歩いて行く。それをマフラーを引っ張られた青年が「首!首絞まってる!」と文句を垂れながら続く。マフラーを放してもらい、2人は声のする方へと歩いて行く。次第に声が大きくなっていくにつれて青年の心は高ぶっていた。彼にとって此処は久しぶりに来た、懐かしき場所なのだ。そして、奥には自分の主人がいる。主人が、自分が手に入れた情報を待っている。それだけで青年の心は踊った。前を歩く少年は後ろから感じる楽しげな気配に自身も我知らず、微笑んだ。少年も、心が踊っているのだ。彼にも、青年と同じように主人ではないが大切な人達がいるのだ。
奥から響く声が大きくなって来た。青年と少年は奥から射し込む光に向かって床を蹴った。
「ただいまー!」
「お帰りなさい」
青年がそう言って奥に入った。そこは広間になっている部屋で中央には円卓が置かれている。その周りには椅子に座る者や壁に寄り掛かっている者、青年達が入って来た場所近くにあるソファーで寛いでいる者など十人十色の人達がいる。青年達を出迎えたのは女性にも見え、男性にも見える中性的な顔をした人物だった。その人物を見た青年はパァと笑顔になった。それを少年は可笑しそうに見ていた。
「お怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ!ボクがそんなヘマすると思う?」
「ふふ、いいえ。安心しましたよ」
人物はー声からして男性ーは自分よりも少し背の低い青年の頭を優しく撫でた。青年は嬉しそうに首を竦めていた。人物は頭を撫でながら少年に向かって微笑んだ。それに少年も安心させるように微笑みかけた。
「じゃ、さっさと始めようぜ。『あっち』が気づく前に」
「はい、そうですね。佐助」
「ん、はーい!」
少年がそう言うと人物は青年に目配せした。青年が満足そうに片手を挙げて返事をする。それを見ていた人達が次々と円卓の椅子についていく。3人も並んで席につくと最初から座っていた美しい女性が険しい表情をしながら口を開いた。
「人間達があのような『戯れ』を始めて早3年……被害は増える一方です……今回、お集まり頂いた貴方方の意見と、私の権限を持ってして、彼らの処遇を決めます。我が名、天照大御神の名において」
美しくも儚い、尊く神々しい雰囲気を醸し出す女性、天照大御神が威厳のある口調で言い放つ。そう、此処にいる者達は全員、人であれど人ではないのだ。
天照大御神は並んで座った青年に目をやった。青年はその怒りを湛えた瞳に背筋に悪寒が走るのを感じた。彼女は彼に、手に入れた情報を提示せよと命じているのだ。だかそれを制したのは隣に座った男性だった。男性は口元に妖しい妖艶な笑みを浮かべ、女神・天照大御神に申し立てる。
「申し訳ありませんが、誰の命なしに彼に発言をさせようとしているのですか?」
「嗚呼、私としたことが怒りで忘れていました」
「すみません」と頭を軽く優雅に下げ、謝罪を言う天照大御神。彼女に此処まで言えるのは神以外ではこの男性しかいない。男性はにっこりと満足そうに笑い、その謝罪を受け入れた。
「貴女はきちんと謝る事が出来るので僕はとても好印象を持っております、女神」
「ふふ、そうですね。私もそう思います」
天照大御神がクスクスと怒りを押さえて、少女のようにコロコロと笑う。しばらく笑って周りの視線に気づいた天照大御神はハッと頬を紅く染めて、男性を促した。
「では、妖しくも美しい村正、命じてくださいませんか?」
「ええ、喜んで」
男性、村正と呼ばれた彼は妖艶に微笑んだ。そして隣に座る青年に視線を向けた。
「では、佐助……いえ、猿飛佐助、貴方が入手した情報をこの場の皆様に公開なさい」
「はーい、ご主人さーまっ♪」
青年、猿飛佐助と呼ばれた彼は嬉しそうに微笑みながら立ち上がった。その口調はこの場に相応しくないほどに意気揚々とし、楽しそうだった。椅子を引いて愉しそうに立ち上がった猿飛佐助、佐助は円卓に座る全員を見回した後、スゥと目を細めた。
「それじゃあ、ボクが入手て来た情報を言うね……人間達、また造ってた…そんで、また、『あの子達』が死んだ。あんな『戯れ』のせいでねっ!!ねぇなんでさっさと人間達を殺さないの!?」
「佐助」
「『あの子達』をこれ以上苦しませたくもないし、被害を増やしたくもない!なのにっ!」
「佐助!」
ビクッと村正に鋭い声で呼ばれた佐助の体が跳ねた。佐助は村正が視線で「落ち着け」、「座れ」と言っている事に気付き、悔しそうに、肩を震わせながら、唇を噛み締めながら座った。天照大御神は視線を周りに向けた。円卓を囲む全員から怒りと憎しみ、そして、刃物のように鋭い殺気が陽炎のように漂っていた。天照大御神は小さく深呼吸をし、一瞬、この『事態』を引き起こした忌まわしき日を思い出した。
裏話ー裏話ー過去編に関しては終わってからがいいのかな…?とりあえず、探しときます(笑)




