第四十六話 愛しい謎解き
こっち、こっちだよ
さあ、早く、こっちにおいで
嗚呼、愛しい愛しい
待っていたよ、ずっとずっと待っていた
此処からは君達が決める事
もう、僕らは無理だけど、先に行ってるから、待ってるね
嗚呼、愛しい愛しい
さあ、早く
この【真実】を
解き放っておくれ
…*…
3人は自分達を包んだ生暖かい風に恐怖を感じ、身震いをした。中に入るとそこは
「っ!?」
「え…?」
「これって……なに?」
縦長に奥まで続く先ほどとは違う空間だった。先が見えない天井と奥。空間の中央にはこちらも長いテーブルが設置され、白やら黄ばんだ色の大量の書類と大量のフラスコや試験管、実験器具などが散乱していた。そしてなにより、3人を驚かせたのは
「これ、ビーカー?しかも、大きい…」
統軌が言いながら扉近くに鎮座していた大きなビーカーへと興味津々と云った表情で近づいて行く。そう、テーブルの両脇に並んだたくさんの大きなビーカーである。液体は見えない天井のライトが黄色なのか、黄緑色に見える。零耶は取っ手を離し、呆けたように辺りを見回した。此処は、なんだ?たくさんのビーカーは一体……
謎が増えたところで零耶はビーカーの中に何かいることに気づいた。だが此処からでは反射して見えない。何かの正体を見ようと目を凝らした、その瞬間
「うわ?!」
「きゃ!?」
「玲御?統軌?」
近くから聞こえた玲御と統軌の悲鳴に零耶は振り返り、驚いて固まっている2人の元へと急いだ。そこは先ほど統軌が近づいて行ったビーカーの前だった。零耶が強ばる2人の顔を見て、怪訝そうに首を傾げた。
「どうしt「見て!」…?」
訊こうとして統軌に遮られた。零耶は訝しげな表情で統軌が指差したビーカーを見やった。
「は…?」
そして、言葉を失った。大きなビーカー。黄緑色の液体の中に零耶が先程見た何かがいた。その正体は、酸素マスクを着けた人間だった。いや、人間と表すのは適切ではない。人間にはない物がついている。頭に角が生えているのだ。それを見て零耶は我に返ったかのように、口調を荒げた。
「ま、さかっっ!!」
そして向こうのたくさんのビーカーと近くのビーカーを振り返った。先程は反射で見えなかった中身が今は、嫌なほどに鮮明に見える。中にいるのは「人間ではない何か」。彼らは一体、何者なんだ?!
零耶が苦々しげに、唇を噛み締める。そんな彼の服の袖を玲御が引っ張った。零耶が振り返ると玲御が青ざめた顔をして「こ、れ…」と何かを指差した。それを既に見ていたのであろう統軌は俯いており、感情も表情も読み取る事が出来ない。ただ、分かるのは、彼の武器である"燭"が恐ろしいほどに「静か」である事だ。だが、それは玲御の"二葉月"も同じだった。零耶の額から頬にかけて嫌な汗が伝う。恐怖か、それとも、別か。零耶は頭の中に渦巻くものを振り払い、玲御が指差したものを見た。それはビーカーの下辺りに貼ってあった少し大きめの紙と小さめの紙、計2枚。零耶が怯えたように震え、感情を露にする玲御を背に隠しながら2枚の紙へと一歩、近づき、内容に目を通す。
〈◯月×日、神格化 【茨城童子】〉
〈【茨城童子】→〉
零耶はその内容に面食らい、思考が遮断した。どういう事だ?【茨城童子】?神格化?じゃあ、さっき言ってたなんとか化って「神格化」って事か?!
零耶が隣のビーカーの下辺りに貼ってある紙を見るとそこにはこちらと同じように〈◯月×日、神格化 〉と書かれている。名前までは見えないが、恐らく、此処にあるビーカー全てが
「神格化された、者達」
統軌が呟くように言いながら顔をあげた。その顔には怒りが宿っていた。玲御からも怒りを感じる。零耶も2人と同じく怒りを露にしていた。何故、こんな事を。大昔、存在していたであろう妖怪を神格化し、この世の中に産み落としたのか。そこで零耶は、ハッとした。あの足音の正体が「【天下三作】と【高龗神】は厳しい」と言っていた。もしそれが神格化することであったならば……!
「っっ!」
「れ、零耶?!」
彼の服の袖を掴んでいた玲御が突然何かを探して駆け出した零耶につられてこけそうになる。玲御と統軌はその瞳に足音の正体達に怒りを宿らせつつも不思議そうに零耶の行動を呆然と見やる。零耶はビーカーに貼られた紙を見ながら目的のものを探す。もし、あの言葉が合ってるとしたら、此処には妖怪以外にも被害者が……
「!あった…」
零耶が見つけた2つのビーカー。中にいるのは酸素マスクを着けた一見普通の男性と見た人によっては女性にも見える男性。そして貼られた紙には【武甕槌命】、【村正】と書かれていた。それを見て零耶は我知らず「クソッ!!」と叫んでいた。
「零耶!どうしたの?」
「妖怪だけじゃねぇ!神や武器までも神格化してやがる!」
「「?!」」
腕を横に振りながら零耶が言うと2人は目を見開いた。零耶はダンッ!とテーブルを左の拳で、怒りを籠めて叩いた。此処は武器の博物館ではない。「大昔の神話、神、妖怪、武器を神格化している大きな研究施設」だ。これであの足音ーきっと此処の研究員だろうーが言っていた意味が理解出来た。けれど、まだ謎は残っている。彼らは此処に所属する研究員ではない。「人員を持っていかれた」的な事を愚痴っていた事から何処かの研究員で普段は決まった人数でやっているのだろう。ほとんどの機械が退化したこの世界でこれだけの機械を使うには相当の人数が必要だ。それにこの博物館は周りに村も町もない。こんな大がかりな研究をするには打ってつけな場所だ。それになにより、その原料となる武器、他に博物館がないために一時期に保管されている大昔の品々までなんでも揃っているのだから。
「酷いよ……呼び覚まして、神格化してどうしよって言うんだ!?大昔の彼らは、眠っているのに…彼らを尊重し、眠らせておくべきなのに!」
玲御がそう叫ぶ。だが、此処の研究員はそれを否定した。既に眠りについた者達を起こすのは、敬愛すべき彼らを起こすのは……
武器の性質を細胞に組み込まれた彼らには分からなかった。理解できなかった。今までの歴史を形作った者達。彼らを尊重し、眠らせておくべきなのに……人間と人型ではこんなにも思い入れも、考え方も違うと云うのか。そして、何故、既に神となっている神ーきっと本来神ではなかった英雄までもが神格化されているのだろうーや、妖怪、武器を神格化する必要があるのだろうか。
と、零耶は叩きつけた拳の先に散らばっている紙よりも分厚い書類を見つけた。それを手に取ると、ズシリと重く、思わずテーブルの上に降ろしてしまった。途端にズドンと音がして周りの書類が風で散って行く。いまだに怒りに震えている玲御を連れて統軌が零耶の元にやって来た。遊姫から「大昔の彼らは敬愛すべき」と聞いていた統軌の瞳にも何故、こんなことをしたのかと云う怒りと困惑が宿っていた。零耶は横目に分厚い書類を一瞥する。この書類に全ての【真実】が、自分達が思いもよらなかった謎と「違和感」がある。そう思わずにはいられなかった。零耶が手の甲でその書類の表紙を撫でる。そこには〈Child project of a god〉と黒いインクで大きく書かれている。零耶は玲御と統軌に視線で問うと彼らはコクリと頷き、感情を押さえ込むと零耶の両脇に移動した。零耶はそれを確認して、書類のページに手をかけた。
《全ての【真実】は、そこにある》
誰かの、哀しい感情と嬉しい感情が混ざり合った声が今度は「はっきり」と聞こえた。
…*…
「嘘、だろ…」
パタンと書類が無慈悲な音を立てて床に数枚落ちていった。まさかの事実に零耶達は驚きを隠せずに固まってしまっていた。
信じたくない。まさか、そんな……けれど、これが【真実】なんだ。
ガチャと扉が開く音がした。そちらを見ずとも衝撃的な【真実】を知ってしまった彼らには誰がいるのか容易に想像出来た。
「……藍さん達は、【真実】知ってるの?」
「いや、今、説明しに行ってるところだ」
統軌の質問に誰かはそう答えた。統軌は、「そう…」と小さく呟いて俯いた。この【真実】を、俺達は、【AVANOLS】は知る権利がある。
零耶は落ちた書類とテーブルの上にある分厚い書類をかき集めると両手で抱え込んだ。それを玲御も手伝い、彼らは扉にいる影達に向き直った。その瞳に宿るはなにか?分かるのは、ただ一つ、
「………ふふ、良い目だ」
【真実】だけ。
これからどうするかも分からない。けれど、やるべき事は分かっている。
零耶達は【真実】が記された書類を抱え、影達がいる扉へと歩いて行った。
進みますよ~もう少ししたら、また裏話でもしようかと思ってます。




