第四十三話 全ての始まり、全ての終わり
進みますー!だがしかしスランプー!
「………やっぱ此処しかねぇよなぁ」
零耶はそう、目の前の古びた建物を見上げた。その建物は古びてはいるがその古びた感じが歴史を感じさせ、そして、温かく感じる。だがその建物に明かりは灯っていない。零耶、玲御、統軌の3人はあの後、歩いて此処まで来た。そのため、辺りが暗くなってしまった。
政府に直接訊くしかないが、そんなことで【真実】がわかる訳もない。ならば、此処しかない。
俺達の始まりにして、【AVANOLS】の原点であるこの建物。
「『世界武器博物館』……通称、『今は亡き幻』。来ちゃったねぇー零耶、玲御」
零耶の隣で統軌が頭の後ろで手を組ながら愉しそうに云う。
『世界武器博物館』、世界中に散らばる武器が全て集められ、保管されている博物館である。今は無き武器は複製品、献上されているものも全て保管されている。此処の武器で【神穢】を倒せばいいのでないのかと思うのだが、此処の武器達の殆どは刃が錆びたりして使用不可になっているものが多く、また大量生産しようにもその資源が足りない、と云う状況である。遊姫に至っては作るではなく錬金、しかも科学者達よりも緻密で時間がかかる事からこちらも大量生産には向かない。だから、政府は【AVANOLS】を造ったと言っても良い。新しく作るよりも武器の細胞を採集ー何処にあるのか、どうやって採集するのかは不明だがーが遥かに簡単、らしい(政府の科学者より)
そんなこんな、建物に来たわけだが。
元々、統軌の「気になる事」で此処に来たのだ。「気になる事」=【真実】の欠片。此処にそんなものがあるような気はしない。けれど、3人の中には説明できないが「ある」と云う確信があった。
零耶は統軌、玲御と頷き合う。とゆっくりと隠密行動を得意とする統軌を先頭に古びた建物へと向かって行った。
統軌がゆっくりと慎重に両開きの扉を開けた。中はとても暗い。3人は中に入り、とりあえずと壁に貼ってあった看板が示す方向に沿って進んだ。
「来たはいいけど、行き先決めてなかったよね?」
「なぁ…どうする統軌……統軌?」
双子が話している隣で統軌が暗闇をじっと見ていた。双子が顔を見合せて立ち止まる。統軌が見る先は暗闇。何があるかも分からない。
「…なにか来る」
「「?!」」
統軌の隠密行動で養われた視力が暗闇の中で何かを捉えた。彼らは驚愕しながら近くのカウンターに急いで隠れた。
「大丈夫なの此処で」
「って云うか何処行くか決めてねぇんだからしょうがねぇだろ」
「ちょっと2人共!気づかれる!」
零耶と統軌が小声で話し合うもだんだんと声が大きくなっていくので玲御が止めた。ピタリとしゃべる事をやめた3人の耳に小さな音が聞こえて来た。その音の正体が統軌が見た「何か」なのだろうか。その音はだんだんと3人に近づいてくる。3人が極度の緊張に身を固くした、その時だ。
「…?」
「零耶?」
零耶が怪訝そうに顔をしかめた。玲御の問いかけに彼はシッと人差し指を彼女の口元に当てて黙らせる。それを間近で見た統軌が小さな声で「oh…」と流暢な英語で驚きを露にしていたが此処はスルーする。玲御と統軌が零耶の、「耳を澄ませろ」と云う指示に怪訝そうに顔を見合わせると耳を澄ませた。聞こえてくるのは何かの音……いや、これは足音だ。誰かがこちらに向かってくる。見つからないかとひやひやしてしまう。近づいてくる足音は、一つではなく、複数だった。もうそこで何故のオンパレードなのだが、彼らはそれを押し殺して耳を澄ませる。
「んーやっぱり難しっすね」
「嗚呼そうだなぁ」
男の声が2つ。もう2つほど足音がするが一つはカツンと云う高い音なので女性だと思われる。しかし…「難しい」ってなんのことだ?自分達を棚にあげる訳ではないが……この人達は一体、この武器しか展示ー置かれているとも云うーされていない云わば倉庫と化した『世界武器博物館』で何をしていたと云うのだ?『世界武器博物館』には都市伝説やら怪談が、建物が古び始めた数十年前からあるらしく、「怖い」と言って誰も近寄らないのに……
「まぁ、しょうがないさ。【神穢】やら黒装束の方に半分以上が駆り出されてるんだからな……普通は2つ使うってのに…」
「それに、今、変化させてるのも力が強過ぎるってのもあるし」
女性の声。彼らは何の事を言っているのだろうか。零耶達には到底分からない。統軌は一応と、任務用の機器を起動させて録音機能を使って録音を開始する。玲御は起動音が聞こえてばれやしないか、ひやひやしたが足音の正体は気づいていないようで会話を続ける。
「ま、それもあるっすよねぇ。……**化するってのは」
ん?なんて言った?聞こえなかった。だが予想だが、「ん」が聞こえたので「変化」と言ったのではないかと思われた。
零耶達が驚きで顔を見合せる。彼らは、何を言っているんだ?「力が強過ぎる」?「変化させる」?……どういう事だ?
零耶は腰にある"小鶴"を撫でた。"小鶴"のような、精神的繋がりを持ったと云うことなのだろうか。いや、違う。そんな簡単な事ではないのだろう。
零耶は玲御と統軌と頷き合うと耳を澄ませた。この誰だか分からない会話が【真実】につながる。そんな思いで、耳を澄ませる。足音はだんだんと彼らに近づいて来ながら軽い感じで話す。
「まーなんとかなるっしょー前も、その前も、ずっとやって来たんだしぃ?」
「まぁねぇ。大丈夫よ。バレてないんだし!」
「そうっすよ~先輩」
「その前」?どういう事だ?前とは【AVANOLS】の事か、それとも別の事か。
「まぁ、あとは明日やりましょ。やっぱり、【天下三作】と【高龗神】は厳しいわぁ~」
「!?天下さっn「統軌!」」
突然、思いかけない言葉に統軌が驚愕し、声をあげかけた。その口を零耶が手で慌ててふさぐ。だがその声は不運にも彼らの前、カウンターの前を通りかかった足音を響かせる彼らに聞かれてしまった。
「ん?今、なんか聞こえた?」
「えぇ~?何も聞こえなかったけどぉ?」
緊迫感が零耶達を押し潰していく。此処でバレたら一貫の終わり。【真実】は永遠に闇の中だ。ドキドキと心臓の鼓動が速まり、首元に鋭い刃の切っ先が添えられているような感覚に陥る。
「……気のせいか」
「さっさと帰りましょうよ先輩。疲れたっすわー」
「そうだな」
よかった。
足音はカウンターの前から遠ざかっていく。暫くしてギィと云う不気味な音を響かせて古びた扉が閉まった。それを玲御が暗闇の中、カウンターの影から確認して、いまだに口を押さえている零耶と統軌を振り返り、安心したように頷いた。零耶が手を統軌の口から離し、3人は「「「「はぁ」」」と胸を撫で下ろした。統軌がピッと機器の録音機能を切った。零耶が安心したからか2人に声をかける。
「どうにか、凌いだな…」
「そうだね…て言うか統軌!大声出さないでよ!」
玲御がそう怒ったように言うとカウンターに寄りかかっていた統軌は勢い良く起き上がると言い訳を捲し立てた。
「だって!【天下三作】と【高龗神】って言ってたんだよ!?誰だか分かんないけどあの人達!」
そう、統軌の言い分はごもっともだった。誰だか分からない誰か達は【天下三作】と【高龗神】と言った。どういう事だろうか?【天下三作】と竜神である【高龗神】、何か関係でも?それとも別…?と云うか此処は武器専門の博物館のはず。なのにどうして竜神の名が出てくるのか……考えれば考えるほど謎が謎を呼んでわからなくなって行く。
「……とりあえず、進んでみるしかねぇな」
「そうね。なんか強過ぎるとかその前とか言ってたけどさっぱりだしな」
「ねぇ。聞き取れない言葉もあったし、何言ってたんだが」
零耶の提案で3人はカウンターの影から出て立ち上がる。古い建物なのでズボンに埃がついてしまった。それらをパンパンと叩く。3つの音が暗闇に反響し、余計に恐怖を煽っているように感じる。
「んじゃ、何処に行く?」
「さっきの人達が来た方向は?」
零耶の問いに統軌がさっきの足音を響かせていた彼らが来た方向を指差す。零耶と玲御は頷くとそれを受け取った統軌が先頭に立ってゆっくりと歩みを始める。
暫く歩いたところで統軌が突然、立ち止まった。そのため、ドンと零耶が彼の背中にぶつかった。玲御はギリギリで止まったが零耶はぶつけてしまい、突然止まった統軌に文句を言おうと赤くなった額を擦りながら言う。
「おい統軌!いきなり止まんなよ」
「………っ」
「?統軌?」
前方を凝視している統軌。何か変だと零耶が声をかける。が彼は反応なし。零耶と玲御が統軌の隣に躍り出、暗闇の前方を見た。そして、前方を統軌と同じく凝視した。前方の暗闇にうっすらと浮かび上がる何かの輪郭と淡い光。それに驚愕する3人。統軌が何かに気付き、呻くように双子に囁いた。
「あの光、多分、この前のライってやつだと思う」
「!?確証は?」
「んー特には。でも、気配で分かる」
そう言った途端、ゾワリとした悪寒が彼らを襲った。嗚呼、なるほど。確かにそうだ。統軌は口角を上げて不敵に笑う。暗闇の中で敵に会えた事が楽しいようだ。だがその淡い光はそんな彼に付き合うこともなく、彼らからだんだんと遠ざかっていく。零耶は2人を見た。このままついて行っても良いものか。罠の可能性もある。だが、進まなければ【真実】は見つからない。
「よし、行こうよ」
「うん。僕も玲御に賛成。もし、相手が本当にライとかプラーナ、イラヴィだとしても僕らなら大丈夫だよ」
暗闇の中、頼もしい姉弟と相棒の言葉が響く。零耶は我知らず、微笑んだ。
嗚呼、なんと頼もしい事か。
零耶が力強く頷いたのを見て2人も微笑む。そして3人は暗闇に浮かぶ敵かどうかも分からない淡い光を追って走り出した。ただ、その暗闇に【真実】を夢見て




