第四十一話 兄弟刀・表
スッランプーですー(テンション可笑しい)
何処からか、何かが起動する音が聞こえた。それに顔を上げ、居所を探って………嗚呼……
自然と口角が上がり、笑みを作った。嗚呼、やっとか。この時を、どれほど待ちわびたか、貴方は……貴方達は知らないんだろうな。
立ち上がり、背後に気配を感じる。その気配に、気配達に振り返って微笑みかけると歩み出す。何処にって、あそこにだよ。目的地であり、終着点であり、始まりの地でもある、「あそこ」。
はは、あはは、嗚呼、笑いが止まらない。苦しいほどに、止まらない。理由?ありすぎて困るくらいだよ。
まぁ、そんなことは、どうでもいいよ。これからのことに比べれば。
さあ、行こう。この感情を、籠めて、花束を…………
…*…
《それじゃあ、始めましょうか♪》
"二葉月"の楽しそうな言葉に全員が頷いた。武器達、"小鶴"達が零耶達に手を伸ばす。"二葉月"が玲御に向かって右手を、"燭"が統軌に向かって左手を、"小鶴"が零耶に向かって両手を伸ばす。彼らは、武器達に全てを預ける。それは強い繋がり、信頼があるから故に出来ることであった。武器達の布が風もないのに揺れ動く。その風で彼らの見えない顔が見えたらと場違いな事を思ってしまった。
《私達に名を授けし主様達と私達は今、完全な一心同体となる。私の名は"二葉月"、主様の名は玲御》
"二葉月"の真剣な声に彼女の葉っぱと月の髪飾りと顔を隠している布、玲御のイヤリングが揺れ動く。
《僕の名は"燭"、主人の名は統軌》
"燭"の黒い布と統軌の胸元の椿が揺れ動く。
《俺の名は"小鶴"、主の名は零耶》
"小鶴"の白い布と零耶のイヤリングが揺れ動く。武器達3人がそれぞれ淡く光り、その光が零耶達に移っていき、光の線を作り出す。零耶は温かく、優しい光に身を委ねながら瞳を閉じた。それを皮切りに玲御と統軌も瞳を閉じる。武器達もゆっくりと瞳を閉じた。
途端、武器達を包んでいた光が零耶達に全て行き、その光が零耶達を温かく、優しく包み込む。光がゆっくりと零耶達に吸い込まれていく。けれど、目を閉じている彼らは知らない。その時、零耶は誰かの声を聞いた。小さくて何を言っているかはわからなかったがこれだけは断言できた。
「(哀しそうな、声…)」
うっすらと零耶が目を開けるとタイミングよく玲御と統軌も目を開けた。そして3人は目の前で起きた事に驚愕し、目を見開いた。"小鶴"の長めの白い布と"燭"の長めの黒い布が光輝き、その光が筆となってその布を滑るように何かを描いている。"二葉月"の髪飾りがこちらも同じく光輝き、以前よりも葉っぱはみずみずしく、美しい緑色に、月は光輝くほどに美しくなる。"小鶴"の布にはその名の通りの小さな鶴が、"燭"の布にはその名の通りの蝋燭の炎と小さな炎が描かれ、武器達が天女の羽衣のように纏っていた光は彼らへゆっくりと吸収されて行き、最初に現れた時と同じように透明な姿で空中に浮いていた。
「う、え?……今……」
統軌が今見た事に戸惑ったような声を上げながら"小鶴"と"燭"の布を指差しながら云うと"小鶴"と"燭"が顔を見合せ、相手の布を見やり、クスリと口元を押さえて可笑しそうに笑った。
《俺達と主達の繋がりが強くなり、強くなった証拠だ》
《これでちゃんとした一心同体!》
《《なー/ねー》》
"小鶴"と"燭"が両手同士を合わせて嬉そうに笑う。その光景に零耶、玲御、統軌は"五天王"のあの双子を思い出した。"二葉月"がそんな"兄弟刀"の頭を撫でると口元を綻ばせて3人に向かって言う。
《これでいつも以上の技と力が出せるわ。何かあった場合は喚んでくれればいつでも駆け付けるわ》
「え、今みたいに出てくるの!?」
「凄くね?!」
"二葉月"の言葉に双子が興奮したように叫び、片割れの手を掴んだ。やはり興奮しているようだ。統軌がそんな2人に「落ち着いてー」と促す。落ち着いた零耶がじーと統軌を見、その状況に首を傾げる統軌に言った。
「れ、零耶?」
「なんか、統軌に落ち着けって言われのって初めてな気がする」
「嘘でしょ?!僕、前から言ってるよ?!」
「どっちかって云うと俺の方が言ってんだろお前に!」
「まぁそうだけどね!?」
「はい、やめる!」
「「んで玲御/玲御が止めるまでがお約束」」
突然、言い争いを始めたかと思って玲御が慌てて止めるとまさかの展開。いつもの一連の流れを確認したかったようだ。あの一瞬でよく確認しようなんて思ったものだ。キョトンとした彼らはクスクスと一人、また一人と可笑しくなって笑い出す。次第にその声は楽しそうに部屋に木霊した。
どのくらい、笑いあったか。と思うくらいに笑った。誰と言うわけでもなく笑いを納めると次第に笑いは小さくなり、最後には静かになった。と、"二葉月"がふわりと微笑み、玲御の頭を優しく撫でた。それに彼女が不思議そうに首を傾げていると"二葉月"は少々悲しそうに、寂しそうに言った。
《ごめんなさい、私達、少し出過ぎたわ》
「え、そんな事ないよ?ねぇ2人共」
「嗚呼」
「うん、そうだよねー」
玲御が不思議そうに零耶と統軌に問うと2人も不思議そうに頷いた。それに"小鶴"があきれたと云わんばかりに肩を竦めた。その動作に統軌が「あああ!!」と思い出したかのように大声を上げた。近くにいた双子が驚いた様子で耳を一瞬押さえながら大声を出した統軌を訝しげに見やる。
「どうしたんだよ統軌」
「忘れてた!僕らの用事!気になる事あるから一緒に来てって奴!」
《やっと思い出した?僕ら、ちゃぁーんと話、聞いてたんだからね!》
"燭"が統軌の目の前で腰に手を当て、怒っているかのように云う。ぷんぷんと云う音が今にも聞こえてきそうだ。そんな彼を見て"小鶴"がボソッと《聞いてたのは俺だけどな》と呟き、近くにいたために聞き取った3人は小さく笑った。"燭"が自慢げに胸を張っているので言わないでおく。
《じゃあ、そろそろ私達はおいとまするわ。またね、主様》
"二葉月"が再び玲御の頭を撫でると彼女の体が淡く光り出し、徐々に小さくなっていく。光の中、目を凝らすと"二葉月"は太刀と、武器となり、光が消えると玲御の手元に舞い降りた。玲御は太刀となった自らの片腕をお返しとでも云うように一撫でした。それを見ていた零耶と統軌の元に"小鶴"と"燭"がやって来た。
《また、喚んでね主人!》
《3人仲良くしろよ?主!》
そっくりな姿をした2人は口元に手を当てて悪戯っ子のように笑うと"二葉月"と同じように淡く光り出した。そして同じくらいの時間を経て、短刀と刀となった武器が持ち主の手元に舞い降りる。零耶と統軌は顔を見合せ、続いて玲御とも見合せ、クスッと本日何度目になるか分からない笑みを溢した。
「言われちゃったねぇ」
「そうだね。ふふ、言質、取られちゃった」
「これはもう、やりきるしかねぇな」
笑い合いながら云うと3人は武器を腰に帯刀していく。きちんと腰に帯刀されたのを確認し、立ち上がると3人は扉に向かって歩き始める。零耶が扉の一番近くにいる、願いを自分達にした統軌に問いかける。
「統軌、気になる事ってなんなんだ?何処かに行くのか?」
統軌は扉を半分開け、くるりと振り返った。その表情で零耶も玲御も統軌が何を言おうとしているのか手に取るように分かった。信頼しあったが故なのか、ずっと一緒に仲良くいたからか。どうなのか分からないけれど、分かった。
「【真実】が分からないのなら、【真実】を見つければいい」。数分前に言った零耶の言葉が耳の中で木霊する。
「分かってんでしょ~?」
統軌は悪戯っ子のように笑い、扉をゆっくりと開け放つ。ギィと云う不気味な音が静かな廊下に小さく木霊した。
「………藍さんが言ってた。『昔の人々は、敬愛すべき尊き存在だ。そして、彼らが愛し、畏れた神や妖怪、神話もしかり』って。だったら僕らは、何を敬愛してるんだろうね」
小さな小さな統軌の呟きが嫌に胸に刺さる。自分達は『なんなの』か。それが知りたい。自分達は何故、造れたのか。それが知りたい。【真実】とは何か。それが、それら全て、自分達が見つけなければならない【真実】が、知りたい。
「ふふ、左京の兄さんや右京の兄さんには内緒で行かなきゃな」
「一番気づかれたらヤバイのは玖陽の兄貴だろ?」
「藍さんもね!」
3人は廊下に出ながら小さな声で悪戯を企む子供のように笑い合う。まぁ実際、先に造られた【AVANOLS】からすれば彼らはまだまだ子供なのだろうけれども。
「それじゃ、行こうか」
零耶が扉に鍵に掛けながら言う。ガチャと云う音がこれからの【真実】を暗示しているように聞こえた。零耶は、手中にある古びた鍵を見て、手のひらを斜めにして鍵を落とした。廊下の床にバウンドする鍵と反響する小さな音。玲御と統軌が歩き出す。その後ろを零耶はチラリと床に転がった鍵を一瞬、眺めた後、追った。




