第三十九話 裏表の盤上で動けなくなった
進みますよーーー!!
零耶と玲御の部屋にその部屋の当人と統軌、3人が集まっていた。左京と右京には零耶から断りを入れ、何かあった場合は教える事になっている。自分達のこの話し合いが終わった頃には【AVANOLS】の情報網によってライとプラーナの情報が行き渡っていることだろう。
「で、どうしたんだ?2人して」
玲御が自分の変化を悟られぬように笑って言う。それが双子である零耶には異様にうつった。統軌が零耶に視線を送ると彼は小さく頷いた。そして、深呼吸をした後、言う。
「玲御、単刀直入に訊く。どうしたんだ?」
玲御の表情が固まった。油が長年差されていなかった機械のようにギギギと音が出た気がした。
「な、んのこと?」
「とぼけないで。玖陽さんのあの報告から何か変だよ。ボーッとしてさ」
統軌の言葉に玲御が俯く。ギュッとスカートを握り締め、玲御は頭の中で何から言おうか迷っていた。嗚呼、でも、君らには言っておかないと。いや、言わないともう、私が持たない…!
「ゆっくりでいいから、話しな」
「ッ!…うん。あの後、玖陽の兄さんの話のあと、いろいろ考えたんだ。政府の言ってた意味とか、【真実】とか、【神穢】とか……私、の事、とか……ッ」
ポツリポツリと話し出す玲御を2人は急かすことなく、聞く。玲御の目元に涙が溜まり出す。
「【神穢】を倒す事が私の、私達の生き甲斐なのに……政府が嘘をついてる事なんてとっくの前に気づいてたはずなのに!……【真実】ってなんの事、【数年前】って、【あれ】ってなに?…【神穢】も、イラヴィとかプラーナとか黒装束とかライとか!なんで私達と闘うの!?なんで私達は…私はこんなに悩むし、混乱するの!?武器の…人型の武器のはずなのにッ!もう、目の前に写るものが真実なのかどうかも分かんない!怖い、怖いよ………ねぇ、私は、誰を信じて、誰を疑えばいいの……私は、『なんなの』……?」
頭を両手で抱え、涙を溢しながら胸の内をさらけ出した玲御。彼女は、混乱していた。支離滅裂の単語を並べ、自身の崩壊を守っていた。人型の武器である自分達は一体『なんなのか』……その問いは決して、分からない。今は、誰も分からない。
零耶が玲御を安心させるように優しく抱き締める。玲御の体が一瞬、混乱と疑心暗鬼で固まった。それを察しながらも零耶は彼女の頭を優しく撫で、語りかけるように言う。
「大丈夫。玲御は此処にいる。俺達だって迷ってる。疑心暗鬼になって、それでも信じるべき仲間がいるから頑張れるんだ。みんな、不安なんだ。だから、泣いても良い、怒っても良いから…………だから………」
ギュッと玲御の服を握り締める零耶。それを見ていた統軌は思う。
みんな、同じなんだ。誰か、一人でも欠ければそれは、『自分達』じゃなくなる。僕らは、【AVANOLS】はそうやって生きて来た。例え、自分達が「死」をもたらす存在になろうとも、完全なる武器となって朽ちようとも。それはこれからもそうなんだ、きっと。【真実】が見えない限り、僕らの瞳には嘘が映り続ける。嘘に依存し続ける。まるで、運命のように。
「俺を頼ってくれよ…姉弟だろ?姉さん…」
「僕もいるんだからね!僕ら3人で一人前みたいなもんなんだからさ!」
統軌が零耶と玲御を一緒に抱き締めながら言う。玲御はハッとした表情をした後、また涙目になる。
嗚呼、私は何を心配していたの?弟とその相棒までも心配させて……!私は此処にいる。【真実】がわかんなくても、嘘がなんであっても、私は私なんだ。
「…………もし、なにも信じられなくなったなら、【AVANOLS】だけを信じればいい」
ポツリと零耶が言う。それに玲御と統軌が不思議そうに顔を見合せた。零耶の顔は2人から見えない。いつも周りを思って、考えて動く零耶。たまに考えている事がわからなくなる。けれど、それはいつも誰かのためだった。今、彼は、何を考えているのだろう。表情が読み取れず、不安になる。
「零耶……?」
「大丈夫。俺も信じるから。それに、【真実】が分からないなら、【真実】を見つければいいんだ」
「「!」」
零耶の言葉に玲御と統軌に衝撃が走った。そうだ、分からないのならば、自分で見つければいい。なんでそんなことに気づかなかったのだろう。そう思うと統軌は笑いが止まらなかった。双子を抱き締めたまま笑い出す統軌に双子が不思議そうな表情を浮かべるが、少しして玲御が小さく笑い出す。
「なんだよ……」
「だ、だって…ねぇ玲御」
「ふふふ、ねぇ統軌…」
訝しげな表情で首を傾げる零耶に2人は笑う。零耶も、笑っている2人につられて笑い出す。
嗚呼、なんだ。そんな事か。俺が守りたかったのは………
笑い終わった頃、3人は体を離し、それぞれの顔を見た。玲御は泣いていたので目元が赤く染まり、零耶も少し目元が赤くなっていた。零耶が泣いたと云う事に玲御と統軌は彼を愛おしく思った。嗚呼、友人であり、仲間であり、姉弟/相棒である零耶。いつも、いつもありがとう。
そんな思いが玲御と統軌の心情を埋める。
3人がお互いの顔を見てクスリと笑う。と、誰と云うわけでもなく、手を重ねていた。
「………大丈夫だよ、僕らだもん」
「はは、そうだな」
「そうだね」
統軌の言葉に零耶と玲御が言う。確信がある訳でもないのに、この3人でなら、どうにかなる気がした。
「私達、ずっと一緒にいよ…そんで、信じよ」
「…なんか依存してるみたい」
「「「ハハハ!」」」
玲御の言葉に言った統軌の答えが答えで3人は楽しそうに笑った。依存、確かにその通りかもしれない。 それでも、安心出来て、信頼できる者がいるだけでこんなにも安心できるのだから、いいのだ。
「仲良し3人組なんだし、いいんじゃねぇの?これからも3人仲良く行こうぜ?」
「っはは!さんせー!あ、そういえば、僕、気になってる事あるからあとで一緒に来て?」
「えー行くの?」
統軌のお願いに玲御が不満そうに頬を膨らませる。統軌がダメ?と首を傾げる。わかってる、言わなくても。
「「行くに決まってんだろ」」
双子が声を揃えて言う。また、笑みが溢れる。
3人の友情が、絆が、強くなった。きっと、もう、俺達は大丈夫。どんな【真実】でも、嘘でも受け入れる事が出来る。疑心暗鬼で揺れていた白黒の盤上は、白一色に染まっていく。確かなものを見つけた証拠に白く染まっていく。二度と、黒に染まる事のない、純白に染まっていく。
造り出されて早2年。彼らは今日も、仲良く一緒にいる。混乱を乗り越え、安心を得たこの場所に。
話し合いが終わったと見た零耶が玲御の頭をもう一度、優しく撫でる。玲御が恥ずかしそうに身を捩り、それを見ていた統軌がニヤニヤと笑う。いつもの日常。そんな時、だった。
「!?ちょっ、零耶!玲御!」
「なんだよ統軌……ってなんだ!?」
「ええ!?何が起こって?!」
統軌の驚愕した声に零耶が顔を歪め、彼が見ている方向へと視線を向ける。自分の短刀が淡く光輝いている。それは玲御と統軌の太刀と刀も同じ。まさか、【AVANOLS・Revival】?いや、此処は戦場ではないし、自分達が発動を促した訳でもない。なら、何故?
3人の腰から彼らの武器が勝手に外れる。驚きながらも手を伸ばす零耶達の手をすり抜けて、3つの武器は空中に浮く。不思議な事が起こりすぎて頭が再び混乱しそうだ。3人が空中に浮かぶ3つの武器に視線を固定した時、淡い光がさらに光輝き、彼らの目を眩ませた。




