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それでも彼らは眠らない。  作者: Riviy
第四章 それでも彼らは夢を視る
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第三十八話 その異名、憐れなり

書き溜めが多い~スランプ微妙~

さて、投稿!


「"二葉月"・夏嵐なつあらし!」


ガキンと音がして零耶が顔をあげると玲御の太刀と【神穢シンエ】の大太刀が交差していた。そして、玲御の技によって【神穢シンエ】の視界を緑色の葉っぱを伴った嵐が覆う。【神穢シンエ】はその嵐に臆する事なく大太刀を振り切り、玲御を後退させると先程、技を使ったらしいからか、黒い風が後退する玲御の左肩を切り裂いた。零耶が跳躍し、いまだに嵐に巻き込まれている【神穢シンエ】の脳天に短刀を突き刺し、容赦なしに抜き放ち、玲御と合流する。


「大丈夫か?」

「うん、平気平気!」


零耶が訊くと玲御は傷口を押さえながら安心させるように笑う。それに零耶も笑い返し、【神穢シンエ】を見やった。脳天に刺されたにも関わらず、ガキと首を回し、大太刀で嵐を凪ぎ払う。その瞳である、6つに割れたアクアマリンが零耶と玲御を見据える。2人の背後に敵を討伐した統軌が合流する。零耶が横目で彼を見ると浅い傷が至るところに出来ていた。零耶は短刀の柄を握りしめ、構えると玲御と統軌、【神穢シンエ】も構えた。【神穢シンエ】の足を拘束していた足枷が霧となって消えていった。両者、相手を睨み付け、そして、大きく跳躍した。零耶が一番最初に【神穢シンエ】に辿り着くと大太刀を短刀で防いだ。ギリッと嫌な音が零耶の頭の上でした。零耶はそれをバッと弾くと追撃が来る前に足を刈った。が、ジーンと足に痺れが来ただけだった。【神穢シンエ】がニヤリと嗤い、大太刀を振り下ろす。紙一重でその重い一撃をかわす、とその刃の上にトン、と統軌が乗った。乗った統軌の重みで大太刀の刃が地面に食い込む。驚く【神穢シンエ】に統軌が口角を上げて笑うと刀をアクアマリンの瞳に向けて突き刺した。地響きのような、小さな悲鳴が【神穢シンエ】のない口から漏れた。


「"燭"・ろうほのう!」


ボゥ!と刀を蝋燭のように儚い炎が包み込み、そして、【神穢シンエ】の顔を容赦なく炎が包み込んでいく。熱さが刀と、顔全体から直に広がっていく。あまりの熱さに【神穢シンエ】は大太刀を手放し、炎に包まれた顔を鳥の足のような手で覆う。グシャと刀が抜かれ、アクアマリンがさらに割れていく。悶える【神穢シンエ】の懐に玲御が素早く迫ると左足を首元目掛けて振り上げた。顔を包んでいた炎が消え、玲御の素早い一撃に【神穢シンエ】が後退する。そこに零耶が合流し、2人は刃物を交差させた。【神穢シンエ】は武器が手元にないことに気付き、地面に刺さった大太刀の元へと急いで向かうがそれを統軌が見えないほどの素早い動きで【神穢シンエ】を風のように攻撃していき、それをさせない。2人が、双子が叫ぶ。


「"小鶴"・雪ノ雫!」

「"二葉月"・冬結晶ふゆけっしょう!」


キィンと2人の刃が凍る。零耶の短刀には雪と雫が纏い、玲御の太刀には雪の結晶がまとわっている。一瞬、零耶の短刀の刃に小さな鶴が、玲御の太刀の刃に葉っぱと月が描かれ、消えた。双子は足や腕を統軌に攻撃され、身動きが取れない【神穢シンエ】に向かって跳躍し、その冷たい一撃を、加えた。


黒い霧が2人を包んだ。零耶と玲御は統軌と合流すると笑顔でハイタッチをかわした。と、その時、異様な気配を感じて3人が身構えたその時、


「キミたち!伏せなさい!!」

「「「?!」」」


緊迫した左京の声に全員が考える間もなく、伏せた。途端に彼らの頭上を3本かそれとも3つか、何かが飛んでいった。統軌が小さな驚きの声をあげた。零耶がそれを視線で見るとあの人物が持っていたクナイだった。3人が伏せたままでいると左京がその横を通り過ぎ、彼らの後方にいる人物に向かって扇を構えた。立ち上がった零耶達は周りを確認する。他に【神穢シンエ】はおらず、残っているのはプラーナと黒いあの人物だけだった。右京はプラーナと闘っているようだが、怪我をやはり負っていて疲労困憊だった。それはプラーナも同じだった。それを見て零耶は本当に相手は強敵なのだと実感した。


玲御レーミ、統軌、手助けに行けるか?」

「うぅ…だなんて言うと思ったか?行けるよ!」

「僕だって!」


零耶の問いに玲御は左肩から流れる血を拭って、統軌は刻まれていた浅い一線を擦って、笑って答えた。その頼もしい答えに零耶も笑う。足に力を籠め、跳躍しようとした時、


「オレ達はそんなに柔じゃねぇぞ?」

「ええ。後輩達のためにも、決着をつけさせてもらいます」


そう、左京と右京が言った。零耶達が動きを止める。そして確信する。彼らは「手を出すな」と言ったのだ。ならば自分達はそれに従うだけ。


「あら、愉しみですね!」


プラーナが挑発するように叫んだ。

そう言った2人の行動は早かった。左京がパチンと閉じた扇で相手のクナイを受け止める。黒い人物は左京に向かって回し蹴りを放つ。が、


「!?」


左京が左腕でその蹴りを防ぐ。そして、その人物を見上げ、ニッコリと笑った。ちょうどその時、プラーナの刃物のようになった右手を右京が大太刀で防いだ。2人が敵の武器を弾き、背中合わせに並んだ。


「さあ、今宵の宴の始まりだ!」


右京が大太刀を手放し、懐から横笛を取り出す。そして、口をつけ、吹いた。零耶達も、プラーナ達も、体中に電気が走ったような感覚を感じた。左京の相手をしていた人物が舌打ちをし、右京に滑るように迫った。左京が顔に扇を当て、そしてその先を人物に向ける。その動き一つ一つが妖艶で美しく、儚げだった。プラーナが何かに気付き、その人物に向かって声をあげようとするが、声が出ない。パクパクとしか動かず、何も響かない無音。プラーナは自分の胸に広がる痛みに下を向いた。そこにあったのは


「……は?」

「ボクの相棒の邪魔は、しないでくれますか」


畳まれた扇の切っ先。驚くプラーナの胸から扇を容赦なく抜き放つ。右京に向かっていた人物も驚いていたがプラーナを傷つけられた恨みか、鬼の形相で左京にクナイを投げた。それを左京はヒラリと踊るように避ける。右京の演奏は、美しい演奏はまだ続いている。

零耶は目を疑った。左京は右京の背後にいたのに、まばたきをした瞬間にはプラーナの背後に回っていた。恐るべし、コンビネーション…いや、コンビネーションなのか?嗚呼、それでも、さすが。


左京は迫る人物と背後から挟み撃ちにしようとしてくるプラーナを横目に笑う。ともう片方の手を振る。そこに、もう一つの"桜花姫"が現れた。右京の横で地面に突き刺さっている"黒鴉"が黒く光る。


「左京!準備はいいか?!」

「ええ、いつでも行けますよ、右京!」

「"黒鴉"・桜散リうた!」

「"桜花姫"・黒刃くろやいばとうげ!」


美しく、清く、右京の横笛の音色が響く。遠く、遠くまで。大太刀が放った光が左京の扇2つに吸い込まれて行く。迫る敵に、左京はその扇を振った。風の切る音がした。だが、相手は無傷だった。左京が右京の元まで後退する。傷がないことに人物は左京と右京を嘲笑うかのごとく、大声をあげた。


「先程の威勢はどうなったのだ!?無傷だぞ?それがお前達の奥義とで云うのか?!ハハハハハハ!あーあ…つまらん」


ゾワリと体を駆け巡る悪寒。その人物がクナイを握り締め、駆けた。プラーナが再び、胸にあいた空洞を押さえながら叫んだ。その空洞に零耶は首を傾げた。何故、「敵は目的のために殺られにくる」?


「…ッ!ライ!ダメ!」

「もう、遅い」


プラーナの悲鳴じみた声に右京が笑う。突然、駆けていた人物の体がガクンと倒れた。地面に伏せるように倒れた人物は倒れた意図が分からずに困惑したように自身の手を見た。途端、人物の手首、肩、背中、腰、足、至るところに凄まじい痛みが走りそして、泥のような黒い血が傷から溢れ出る。何が、起きた?驚愕に目を見開く零耶、玲御、統軌。その間に空洞付近から同じく泥のような黒い血を流すプラーナが痛みにもがくその人物ー見るからに男性だーに傷を庇いながら近づく。男性がプラーナの手を借りて体を起こすとニンマリと笑う右京を睨み付けた。


「どういう、事だ…」

「そういう事だよ、ライさんよ。その『無傷だった』と云う甘えがお前の命取りとなり、左京の攻撃を防げなかった最大の要因だ」


ライとプラーナにも呼ばれていた男性の顔が理解できないというように歪んだ。何を、馬鹿な事を、とでも言うように。

ライと呼ばれていた男性は湊鼠みなとねずみ色のセミロングに薄い紫色の瞳。目元には紅い隈取りが引かれており、口元には黒い布。服も真っ黒な忍装束。

服が真っ黒なために黒い者に見えたらしい。

扇で口元を隠した左京が右京に続けて言う。


「ボクの先程の攻撃は、相手の心理を利用したものです。本当にボクは攻撃しましたよ?けれど、キミたちは、キミは右京の横笛の音にも気をとられていた。ご存知で?右京の先程の音色は、精神を掻き乱すのですよ」


つまり、ライは見くびったのだ。右京の煩わしいと思っていた音色は彼の精神を掻き乱し、攻撃されたにも関わらず『無傷』と脳を思い込ませた。そして、実際に攻撃されていた傷が『無傷』と云う甘い思考を駆けた途端に追い出したために血が溢れ出た。

ライがギリッと悔しそうに唇を噛み締める。左京と右京が零耶達に視線を送る。「こいつらはもう動けない。トドメを刺す」と云う意味だ。左京と右京が動けない2人に近づく。プラーナはライを連れて逃げようとしているが重症の彼を担ぐのは女性であるプラーナには至難の技だった。ライはプラーナに何か耳打ちをした。それに彼女は酷く狼狽えていたが小さくコクリと頷いた。逃げる気か、そう思った零耶は短刀を握り締めた。けれど、逃げる訳ではなさそうだった。ライは持っていたクナイを地面に突き刺すと諦めたかのように俯いた。何かが可笑しい。誰もがそう思った。左京と右京がそれでもトドメ、もしくは深い一撃を与えるために武器を構える。


「………はっ。まるで『弁慶』と『牛若丸』だな」


ライの低い一声。確かに左京は『牛若丸』、右京は『弁慶』と云う通り名があるが、彼が言っている事はそれとは違う気がした。

左京と右京は項垂れ、逃げる気もない人型の【神穢シンエ】に向けて武器を振り下ろした。振り下ろした途端、黒い霧が2人を包み、そしてその霧が晴れた時そこには誰もいなかった。殺ったか?いや………全員は直感的に違うと思った。きっと、逃げられた。


はぁと盛大なため息を付きながら、右京が頭をかくと零耶達を振り返って言った。


「しょうがない。"五天王"に報告って事にして帰るぞ」

「そうですね、帰りましょうか」


左京もそれに同意する。こちらにやってくる2人に労いの言葉をかける玲御と統軌を横目に零耶はライとプラーナが消えた場所を見た。そして、意味を考え、信じがたい答えに辿り着く。いや、けれど……

零耶は頭を振ってその考えを振り払い、まずは玲御レーミだと、統軌と目を合わせて頷き合った。


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