第三十五話 天光の末裔
お久しぶりです…スランプが(以下略)
「無理は禁物、って僕、教えてなかったっけ?」
そこにいたのはあきれた、と云わんばかりんの表情をした、太陽のように輝く金髪をした青年だった。見た目が若そうに見えるだけで実際は男性の方がしっくりくるかもしれないが。その青年の隣には絡繰と守光が立っていた。【神穢】が出たと聞き、どうやってかは知らないが遊姫が造り出した空間にやって来たのだろう。青年が絡繰に目配せすると彼はコクリと頷き、守光が零耶と鳴海の元へとトコトコとやってくる。
「零お兄ちゃん」
「……守光」
「助けに来たよ」
守光が零耶の前にしゃがみこんでニッコリと笑って言う。それに零耶も軽く笑った。守光の言いたい事が言わなくても零耶も鳴海も理解出来た。「此処は任せろ」と言っているのだ。鳴海は零耶をゆっくりと立たせると静かに後退していく。守光はその前に頭蓋骨達と共に立ちはだかった。
「貴殿等…!」
「遅いんだってーのっ!」
鈴音丸と遊姫が苦笑しながら言う。絡繰が苦笑しつつも【神穢】に向かって紅くて細い"殺絲"を放つ。放たれた糸は驚く【神穢】の動きを簡単に封じ込めた。それは鈴音丸と遊姫が彼らが来るまで闘っていたためでだろう。青年が彼らの前に歩み出るとシュッと片手を振る。その手には一振りの太刀が握られていた。
「後の一撃は頼む。貴殿の一撃なら、倒せるはずだ」
「ふふ、鈴音丸はよくわかってるね。絡繰、2人の事、頼んだよ」
「わかった」
絡繰の答えを聞き、青年はゆっくりと走り出し、そして新たに刃物を出した身動きの取れない【神穢】に向かって大きく跳躍する。刃物が彼を次々と襲うがそれら全てをかわしながら青年は【神穢】に向かって太刀を、淡く光った太刀を振った。地響きのような声が星屑の空間に響いた。
…*…
「助かった」
「うん、よかったよ」
【神穢】が侵入した廊下で鈴音丸は青年に向かって軽く頭を下げた。敵は全て倒した。もう安心だ、多分。
壁際には一番傷が深かったらしい遊姫が絡繰に支えられながら座り込もうとしていた。それを鳴海が心配そうに見ながらオロオロとし、零耶は伝っていた血を強引に服の袖で拭い、守光が心配そうに彼を見ている。零耶の傷は眉間の傷が一番大きかったらしいが出血が止まり、零耶は少し切れた眉間の傷を軽く触りながら守光に大丈夫だと安心させるように笑った。
ふと、零耶は疑問を口にした。
「そういえば、どうやって遊姫の兄貴が造り出した異空間に…?」
「嗚呼、それ?あれはねぇ、玖陽お兄ちゃんのおかげ!」
「?玖陽の兄貴の…?」
零耶は自分の事のように自慢げに胸を張る守光に納得がいかないようで首を傾げた。それに気づいた鈴音丸と青年が小さく微笑ましそうに笑いながらやって来た。
「僕はみんなの技知ってるからね」
「だからリーダー格と言っても良い」
「うそ、だろ……」
零耶が驚きに顔を歪める。いや、知らなかった。てか、凄いな?!零耶が興奮と尊敬に満ちた視線を青年に向けると彼は恥ずかしそうに頬をかいた。そんな青年の肩を鈴音丸が陽気に叩く。
「すっごいよね!」
「そんぐらいしかないからね。僕の特技」
「いや、玖陽は凄い。胸を張れ」
「ふふ、わかったよ。ところで零耶…零耶?」
一人、再び思考の渦に入っていた零耶の肩を青年がポンッと叩くと零耶はハッと我に帰った。
「なに考えてたの?」
「ん。【神穢】が侵入してきた意図を…」
そう言って零耶は再び、顔をしかめた。そう、何故、【神穢】達は今更のように政府へ侵入してきたのだろうか。遅すぎる。現れた日の次の日にやってくればいいものを何故、強固になった今……
「零お兄ちゃん、考えすぎ良くないよ。こういうのはわたしのお兄ちゃんの専門なんだからさっ!」
「ハハハ、だとよ零耶」
「く、はは。んだな」
守光が笑顔で言った事に鈴音丸は喉から声を出して笑った。零耶も小さく笑い、思考を中断した。「さて」と青年はパチンと軽く手を叩いて鈴音丸へ視線を向けた。すると彼はコクリと頷いた。
「どうしたんだ?」
「嗚呼、報告。倒し終わったってさ」
「なら、俺も行く」
「「?!」」
鈴音丸の言葉に零耶が立候補する。それに驚愕した様子で3人が零耶を見やった。見られた零耶は首を傾げてどうした?と問い返す。
「どうした?みんなして」
「いや……君、怪我してたのに行くって…」
青年が驚いた表情で言うと零耶はそんな事か、と肩を竦めてニヤリと笑った。なんとなく、その仕草で零耶の言いたい事が理解出来た気がした。「怪我は大丈夫だ」と言っているのだろう、きっと。そして、足手まといになった事を気にしているのだろう。そんなことは容易に想像出来た。青年はクスクスと口元を押さえて小さく笑う。それに零耶は笑われていると思ったらしく、ムッと顔をしかめた。守光もそう思ったらしく、零耶と同じようにムッとした。
「なんだよ」
「ふふふ、いや?零耶らしいと思ってね。いいよ、一緒に行こうか」
「!玖陽!」
「良いじゃん良いじゃん。零耶が行きたいって言ってるんだから。守光も行く?」
「行く!」
カラコロと愉快そうに笑う青年。鈴音丸は呆れながら天井を仰ぎ、守光は零耶の手を取って「やったやったー!」と嬉しいのかぴょんぴょん飛んでいる。零耶はそれにつられて小さく笑う。足手まといを解消できる。そう思えてならなず、そして、この疑問がついて行くことで晴れる気がした。
「んじゃ、絡繰と遊姫、鳴海を頼んだよ鈴音丸」
はぁ…と頭をかいて鈴音丸はわかったと両手を挙げた。
「ありがと、玖陽の兄貴」
「ありがとー!」
零耶と守光が彼に礼を言うと青年は、どういたしましてとニッコリと笑った。
青年、玖陽は金髪のショートで白銀の瞳。両耳に銀のピアスをしている。服は黒を基調とした軍服で糸は白。チラリと見えるネクタイは黒色をしている。上着とワイシャツを二の腕辺りまで捲っており、下は黒の長ズボン。靴は灰色のローファー。
腰には鞘に白と黄色の波模様が入った太刀、"天乃空"(以下、太刀)がある。そして彼は、"五天王"であり、唯一の"異常持ち"でもある。
彼の異常は両目にあると云う。今のところ、詳しい事はわかっていないと云う謎に包まれた箇所をもつ。
玖陽は鈴音丸に軽く手を振るとゆっくりと歩き始める。それを零耶が追い、またその後を守光が雛鳥のように着いて行く。それを見ながら鈴音丸は軽く息を吐き、壁際に座り込んだ遊姫と彼を心配そうに見ている絡繰と鳴海を振り返った。
…*…
零耶達は第一研究室に戻ると両開きの扉に、守光が他の博士に会いたくてウズウズしながら手をかけた。
「守光、待って」
「え?」
突然、開こうとする守光の手首を軽く掴んだ玖陽。その意味が分からない行動に零耶と守光は呆けたように顔を見合せた。玖陽がちょいちょいと両開きの扉の隙間を指差した。その隙間からは中の明るい光が漏れており、なにやら声が聞こえる。政府の部屋は全てが防音になっている。けれどそれは、扉を閉めなければ意味がない。零耶が何を…?と首を傾げると玖陽は盗み聞きしようと言っているようだった。それに零耶は慌ててやめとけと首を振ったが、守光は面白そうに笑みを浮かべながら隙間を覗く玖陽に倣い、自分も覗き込んだ。
守光は、分かってない。
零耶は内心、ため息をつきながらそこまで純粋無垢な彼女を羨ましいと思った。多分、玖陽は自身が気になる疑問のために盗み聞きと云う手段に出たのだろう。そして、零耶にも気になる疑問があることを知って同行を許した。玖陽の"異常"は自分達すらも…いや、政府すらも驚愕するものなのか。
「(玖陽の兄貴は、あの目で何を見ている?何を、探しているんだ?)」
玖陽の見えない探し物に体をぶるりと震わせ、零耶は近くの壁に軽く寄り掛かった。此処でも中の会話は聞こえる、そう踏んでの事だった。それを見た玖陽が小さく、「ごめんね」と何に対してか謝った。それが零耶にとっては、ますます異様に見えて仕方がなく、胸騒ぎを押さえきれなかった。
武器の性質を細胞に組み込んだ【AVANOLS】。
ある神の姿をした異形なバケモノ【神穢】。
強敵、黒装束、イラヴィ、プラーナ。
なぁ、俺達は、この疑問をさらけ出しても良いですか?




