第三十四話 血の結束
「以上が報告となります」
「ふーん……こうなるんだ。うんうん、なるほどなるほど。帰っていいよ」
「え…?いいの…?」
「うんいいよ。何かある?」
「え、あ……質問ですが何故、あのような任務を下したのですか……」
「…………」
「あの…」
「世の中にはね、知らない事の方がいいこともあるんだよ。検査も終わったし、報告も終わったし、帰っていいよ」
「………分かりました」
「あ、そういえば、【神穢】が侵入したらしいけど」
「?!それ先に言ってください!!」
…*…
跳躍し、上段斬りを放った零耶は【神穢】が防いだのを見て後退した。そこへエメラルドの瞳を片目にした【神穢】は刀を振り下ろし、零耶はその重い一撃を短刀で防いだ。途端に、もう片方の刀が零耶の首を狙う。そんなん、読めてる。
零耶は刀を弾き飛ばすと迫る刀に向かって右の靴底を突き付け、上手い具合に硬い場所を使って防いだ。驚く【神穢】に向かって片方の口角を上げて微笑むと右足を振り切り、そのまま刀目掛けて回し蹴り。【神穢】の手首に当たり、痛みで離す一振りの刀を零耶はその場で一回転しながら左手で取ると【神穢】に一線。突然の攻撃によろめきながら後退する【神穢】の後ろから槍を持った6種類の宝石を顔に埋め込んだ、上半身が男の体、下半身が馬の姿をした【神穢】ーケンタウルスーと弓矢を構えた明らかに人の姿をした【神穢】が零耶に向かって攻撃してくる。ケンタウルスの姿をした【神穢】は槍を凄まじい勢いで、もう一体の【神穢】は矢を一気に5、6本セットして放つ。零耶は凄まじい勢いの槍の攻撃を跳躍しながら空中で一回転し、かわすとそのまま矢を一気に凪ぎ払う。ケンタウルスの姿をした【神穢】が方向展開をして零耶に向かって駆け出した。零耶は先に弓矢を持った【神穢】を片付けようと体制を低くしながら技を紡ごうとする。
が
「!?くっそ、やられた!」
零耶が悔しそうに声をあげる。彼が足元を見ると蔦が星屑の空間から這えており、零耶の足を捕らえていた。目の前で迫るケンタウルスの姿をした【神穢】が薄ら笑いを浮かべながら零耶に迫る。グサッと耳元を掠める不気味な音と痛みに零耶は横目で背後を確認した。弓矢を持った【神穢】が攻撃を始めていた。零耶は苦々しげな表情で奪い取った刀で蔦を切り刻むが斬ったところから新たな蔦が伸び、彼を捕らえる。背後から来る矢の雨は容赦なく零耶の体力を奪っていく。零耶は小声で技を発動させ、背後に自分を守る幻を作る。けれど、それもいつまでも持つか…以前、破られた技だ。効かない可能性もある。だが零耶は効くにかけ、蔦とこちらに駆けてくる敵に備えた。
「悪いが、蔦はこちらの方が上ではないだろうか?なぁ、鳴海」
そんな、不愉快だと云わんばかりの声色と共に零耶の足を捕らえていた蔦がぴたっと成長と動きを止めるとスルスルと星屑の空間へと消えていく。零耶が顔を上げると彼の隣には気配もなく近寄ったらしい鳴海が左の脇差を軽く振っていた。その脇差は仄かに白い光を放っており、その刃では蔦が巻き付いては消えるを意味もなくー意味がもしかするとあるかもしれないが零耶にとってはそう思えたー繰り返している。零耶は鳴海の肩ではためいた外套の絵を見て「あっ」と声をあげた。それに鳴海がクスリと笑う。鳴海の外套に描かれているのは白い百合の花と蔦。獅雨と同じモチーフを持つもの、そして、それを操る能力を持った珍しい人材。ちなみに政府に言うとややこしい事になると思ったので鳴海は能力の事を報告していない。
鳴海は零耶に「大丈夫?」と首を傾げて問いながら左の脇差をピッと振ると蔦は一瞬にして完全に消えた。零耶は大丈夫だと頷き、礼として頭を軽く下げた。と、その時、ズサッと何かを斬る音がして2人同時に前方を見ると迫って来ていたケンタウルスの姿をした【神穢】が上半身の付け根から真っ二つにされ、上半身が星屑の空間に落っこちていくところだった。その前には大太刀を振り切った鈴音丸が立っていた。そして零耶達の背後では弓矢を持った【神穢】の頭に小太刀を突き刺し、それを容赦なく引き抜く遊姫がいた。上半身と下半身が離れた【神穢】は上半身だけで鈴音丸に槍を突き刺した。その一撃を脇腹に掠めるように受け、脳天から鳴海が2振りの脇差で頭に一撃を加えるとその【神穢】は動かなくなった。馬の下半身が先に消滅し、上半身はびくっと痙攣した後、ポロリと6種類の宝石が星屑の空間に落ち、消滅。零耶は勢いよく跳躍すると遊姫が攻撃していた【神穢】の首元目掛けて短刀を振った。首から切断され、脳天を貫かれてもなお、動く【神穢】に遊姫と共に零耶が最後の一撃を加え、消滅させた。
4人が一段落したように顔を見合わせた。その時、零耶はとてつもなく、不穏な、凄まじい殺気を感じ、3人が気付き、振り返るよりも早く前に躍り出ると叫んだ。
「"小鶴"・雪鶴ノ幕引き!」
零耶が短刀を平行に構え、気配がした方向へその切っ先を向ける。と、シャラリと鈴のような音がしたかと思うと零耶の前方に幕のようなものが何処からともなく垂れた。鳴海が零耶に向かって何かに気づいて手を伸ばす。それに気づかない零耶は目の前に突然現れ、迫った無数の鋭い刃に驚愕すると共に前方に意識を集中させた。カキン、カキンと鈍い甲高い音を出しながら刃物が幕のようなものに弾かれる。が、次第にそれらは鋭さと勢いを増し、零耶の集中を削いでいく。その時、ビリッ!と何処かの幕が切れた。それに零耶がハッと意識を奪われた次の瞬間、
「零耶!」
「?!うっ」
呼ばれて目の前を向いた零耶の顔面のほぼ目の前には先程よりも鋭く、大きな刃物が迫っていた。それが零耶の顔面近くの幕に当たった。その衝撃は直に零耶に直撃した。普通は使用者にダメージは来ないのに…?!零耶はそう思いながらもまた、大きな怪我を負って玲御を悲しませるなぁと場違いな事を考えていた。そんな零耶の体は衝撃で後ろへ吹っ飛び、彼に向かって手を伸ばしていた鳴海が空間に叩きつけられる前に零耶をキャッチした。鳴海がゆっくりと座り込み、零耶を見ると顔が真っ赤に染まっていた。眉間部分が先程の衝撃によって切れたらしく、血が出ている。それでも零耶の意識はあった。零耶の眉間から流れ出る血が頬を伝う。
「大丈夫か?!」
「ちょっとなんで鳴海が止めてんのに続けたの!?馬鹿なのアホなの?!」
「うるさい……」
「ま、いい。目の前の強敵をどうにかせねば」
鈴音丸が零耶と鳴海の前に立ちはだかり、大太刀を構える。遊姫も「馬鹿は休んでな♪」と零耶の頭をトンッと叩いて鈴音丸と並ぶ。2人の足元に小さな血溜まりができている事を零耶は見逃さなかった。今、攻撃された奴以外の攻撃で彼らは怪我を負っていた、疲労困憊だったのだ。彼らの目の前には頭に黒い王冠を被った大きな体をし、鎧に身を包んだ【神穢】がいた。その近くの空中にはいくつもの刃が浮かんでおり、その刃の至るところに宝石が埋め込まれている。
零耶が重荷になりたくないと云う思いとまだ闘えると云う一心で立ち上がろうとするとそれを鳴海が肩を押さえて止めた。零耶がなんで?と彼を見上げると彼は大丈夫と言いたげに軽く笑った。それでも零耶は、役に立ちたかった。敵に向かって跳躍し、攻撃する鈴音丸と遊姫の刃音を聞きながら零耶は葛藤する。
以前もその前も、怪我して迷惑かけた。こんなんじゃ駄目なんだ。もっと、仲間を、友人を、姉弟を守り、支えられる力が欲しい……怪我してるからって置いてかれるのは、もう、
「…………いや、なんだよっ…」
零耶の苦痛の表情に鳴海は困ったような、それでいて少し嬉しそうな表情をする。鳴海の手から伝っていた血が彼の足元で小さな血溜まりを作り始めていた。そこに零耶の頬から伝った血がポチャンと軽い音を立てて、落ちた。
《本当に、我が主は仲間想いで友人想いで姉弟想いだな。力を貸したいのは山々なんだが、此処は"夢奏"が造り出した架空の異空間。代償として制限が課せられる。俺も"兄さん"や"姉さん"のように力になりたい。でもな、主。たまには、頼ってもいいんだぜ?》
目の前で長めの白い布を頭から被った少年ないし少女が笑う。眉間から血を流す零耶の両頬を優しく包み込みながら、諭すように言う。その姿は透明で、触れたら粒子となって消えて行きそうだった。鳴海にも零耶と同じ人物が見えているのか、驚いた表情をしている。零耶にはこの空中に浮かんでいる人物が誰だかわかっていた。"小鶴"だ。しかし、【AVANOLS・Revival】を発動しているにも関わらず、現れ、そう言うのには何か意味があるのだろうか。カタカタッと鳴海の2振りの脇差が"小鶴"に同意するように音を奏でる。次の瞬間、2人の少年のような人物が空中に浮かんでいた。そっくりな顔をした少年2人は考えなくても鳴海の脇差、"黒雨"と"白雨"だと容易に想像できた。3人は顔を見合せー3人と表していいのかも分からないがークスリと笑うと淡く光る武器の中へと消えて行った。
《仲間だって、時には最強なんだからな》
最後にそう、声が聞こえた。その時、だった。まるで予言のように、その声と光が彼らを包み込んだのは。
「"天乃空"・光照ノ空」
突然、星屑の空間に、正確に云えば【神穢】と闘う鈴音丸と遊姫の真ん前に暖かくも優しい黄色い光が現れ、その光は【神穢】の背後に浮かぶ刃物を正確に撃ち落とした。それに驚く【神穢】と零耶達。光が徐々に晴れて来る。そこにいたのは、
「無理は禁物、って僕、教えてなかったっけ?」
いまだにスランプ引きずってます…やばいー




