第二十話 一時の平和は、壊れるのでしょう
冷たい風が頬を叩く。前髪やこめかみの髪が風によって頬を軽めであるが叩いていく。それがなんだか煩わしくて、それでいて寒く感じ、零耶は近くにいた統軌の後ろにそっと隠れた。壁である。零耶が自分を壁にしているのに気づいた統軌は何も言わずに目の前に立っていた絡繰の後ろにそっと隠れた。2人に壁にされた絡繰は横目にそれを見て呆れたようにため息をついた。
「お前らなぁ」
「だって!風が寒いんだもん!ねぇ零耶」
「統軌に同じく」
絡繰が仰け反るようにして訊くと2人はそう答えた。零耶と統軌は小さく笑っているらしく、楽しそうな声が後ろから聞こえて来る。絡繰がまたため息をつくと今度は前方からクスクスと声がした。絡繰が不機嫌そうに顔をしかめる後ろから零耶はその人物に同意を求める。
「鳴海の兄貴も寒いもんは寒いよなぁ?」
その人物、仮面をつけた男性は笑いながらコクンと頷いた。その後、絡繰に風が当たっている事が気の毒に思えたのか彼の前に出て自ら壁となった。それに零耶と統軌は笑い合い、絡繰は嬉しいのか恥ずかしいのか分からない表情で顔に手を当て呆れたように俯いて顔を振った。
「(なんだこの状況。って思ってんだろうな)」
零耶は笑いながらそう思った。多分、だいたい当たっている。
零耶達6人は【神穢】討伐に来ていた。パーティーは一旦、バランスを見ると云う名目で数個のみ構成が変わった。【神穢】が強く、進化しているのだ。妥当な判断である。だが、この彼らの緊張感の無さ。心配である。
同じパーティーだった玲御、左京、右京は別の仲間と今日は組むことになったらしい。と此処で疑問が。零耶達は本日6人パーティーだ。零耶、統軌、絡繰、仮面の男性。おや、残りの2人は?
「あははは!楽しそう!ねぇ鈴!」
「なにやってんだ………」
とそこに楽しげに笑う青年と絡繰と同じように呆れた表情をしつつ、煙管を吸っている男性がやって来た。この2人も今回のメンバーだが、彼らは今回限りの追加メンバーである。その理由はーーー
統軌がニヒヒと歯を出して笑いながら絡繰の後ろから顔のみを出しながら云う。
「羨ましいんなら鈴音丸さんにやってもらえばいいじゃん、夏さん?」
「ちょっと!」
夏と呼ばれた青年は少年じみた表情で腰に手を当て、喧嘩腰のように言う。夏、と呼んだのが悪かったらしい。それに気づいた零耶が統軌の背中を軽く小突いた。統軌自身も分かったらしく、悪戯っ子らしく舌をペロッと出して悪びれる様子はない。そんな彼に絡繰が呆れたように雲一つない晴天な空を仰ぎ、仮面の男性はクスリと仮面越しに笑った。今にも統軌に飛びかかりそうな青年の頭を男性がコンと煙管で叩いた。案外、痛かったらしい。青年は「いった!?」と叫んで頭を押さえた。
「鈴痛いよー!」
青年が男性を見上げて文句を垂れる。それに男性は煙管を吸い、言う。
「統軌の挑発に簡単に乗る貴殿も悪い。統軌はからかってるだけだ」
「ふふ~鈴音丸さん、わかってんじゃん!」
「お前、調子乗りすぎ」
胸を張るように言った統軌の頭を零耶が後ろからはたいた。こちらも痛かったらしい。頭を押さえて震えている。これでどっちもどっちだ。その状況に絡繰が深いため息をついた。
「?兄さん?」
「そろそろ行くぞ。いつまでも此処でたむろってちゃ、折角の"実力試し"をやる前に帰る事になる。そうだろ、"五天王"」
「嗚呼、それもそうだな」
絡繰が言った事に男性は、"五天王"である男性と青年は愉快そうに笑った。
そう、今回限りの追加メンバーは"五天王"の2人だ。しかも、【神穢】が進化した事を全員に知らせた2人でもある。"五天王"が出てくる理由は進化した【神穢】に何処まで実力が通じるのか確かめるためである。"五天王"は他の【AVANOLS】よりも強い。が進化した敵に彼らの実力が通じるとも限らない。だから、バランスを見ると云う名目と"五天王"の実力試しと云う名目で今回限りのパーティーが出来上がったのだ。
絡繰と男性が【神穢】の目撃情報があった方向へと同時に歩いて行く。それを青年が急いで追い、その後に零耶、統軌、仮面をつけた男性が続いた。零耶は仮面をつけた男性を少し見上げた。彼は獅雨の兄である。
鳴海と呼ばれた仮面をつけた男性は桜鼠色のショート。獅雨の兄と云う事で瞳は青竹色。服は白と青を使った軍服で下は長ズボン。灰色の少し短い外套を羽織っており、外套には白い百合の花と蔦が描かれている。靴は焦げ茶のローファー。両腰には黒い脇差、"黒雨"と白い脇差、"白雨"と云う2振りの脇差(以下、右の脇差、左の脇差)をさしている。
鳴海は先程も言った通り獅雨の兄だが、いつも仮面をしている。仮面にはバリエーションがあるらしく、本日は猫のお面だ。合わない。般若のお面じゃないだけマシです、てかみんな慣れました、はい。そして彼は何故か戦闘時は仮面を外す無口な人だ。
鈴音丸と呼ばれた煙管を吸っている男性は淡紅藤色のロングヘアーでこめかみ近くの髪が伏せた犬の耳のようにクルッと跳ねている。いや、もしかすると犬じゃないかも?まぁ、それはいいとして。瞳は青色。首にチェーンで繋がれた白い小さな球体がついているネックレスをしている。中には灰色のタンクトップー少し腹が出るタイプーを着、その上に霞色のジャケットを着ている。両手に中指と人差し指のみが出る黒の手袋をしている。腰に編み込みになったベルトをし、下は薄い紺色の長ズボンで黒のブーツ。ズボンの半分はブーツの中に入っており、ブーツにはバックルがついている。見る限り、武器のようなものを持っていない。
夏と呼ばれた青年、本名、律夏。鈴音丸にのみ夏と呼ばれている。彼は新橋色のセミロングで首元の髪が内側に首元に沿うように跳ねている。瞳は空色。両耳に新橋色のピアスをし、首には小さなしずくがついたネックレスをしている。服は水色の両肩が出ているタイプのニットのオフショルダーと云う服で両手の肘辺りまでに当てをしている。下は黒の長ズボンで靴は黒が多めの灰色のブーツ。ブーツの半分はズボンの下になっている。左足の太もも辺りにベルトで同じ色をして同化させた小型のナイフを取り付けているが彼も見る限り、武器のようなものを持っていない。
"五天王"である鈴音丸と律夏は基本的に武器を携帯していない。理由はのちほど分かるだろう。律夏の太ももの辺りのナイフは緊急事態用らしいので戦闘時には使わないらしい。
煙管から口を離し、煙を吐き出す鈴音丸に向かって絡繰が訊く。
「【神穢】は、どんな風に進化してるんだ?」
「聞いた話だからなんとも言えない。だが、見たところ以前として変化はない」
「え?闘わないとわかんないの?」
鈴音丸の答えに統軌が身を乗り出すようにして問うと彼は煙管を少し振りながら短く「嗚呼」と返答した。それに零耶は難しそうな顔をしながら考えこむ。
闘わななければ分からない【神穢】の進化。つまりそれは高い知能を持ったと云うことか?いやいや、もしかすると体力面の方かもしれない……色んな視野を入れておくのも悪くねぇか。清守の兄貴には劣るけど。
「兄さーん、零耶が考えこんじゃった」
「お前も考えろ、零耶みたく」
「えぇ~やだ。僕は実行担当だもん」
「考えたくないだけじゃないですかー」
ニィと律夏が統軌を嘲笑うように言うと彼はムッと眉を潜めた。先程の仕返しらしい。鳴海が絡繰と鈴音丸を挟んでバチバチと今にも喧嘩し出しそうな火花を散らす2人を困惑した様子で見ている。仮面越しからも彼が困惑しているのが伝わって来て絡繰と鈴音丸は同時に呆れたようにため息をついた。絡繰と鈴音丸、2人は同期であり、零耶、玲御、統軌、律夏も加入日に加入が数時間ずれただけの同期だった。ちなみに鳴海は左京や右京、清守と同期。
「「零耶」」
友人であり、加入時期から計算すると先輩に当たる鳴海の様子に耐えかねて2人が思考の旅に出ていた零耶を呼ぶ。と、彼はゆっくりと思考の旅から帰って来ると喧嘩をしそうな2人を横目に自分を呼んだ2人を見上げた。
「なんだ?絡繰の兄貴、鈴音丸の兄貴」
「悪いがあの2人を止めてくれ」
「え、2人が止めれば…「「正直言ってめんどくさい」」…はは」
零耶はそう答える2人に対して少し笑うと「了解」と頷いた。そして困惑している鳴海に大丈夫だと頷いて見せると喧嘩し出しそうな2人の頭に向かって少し跳躍するとバチンとはたいた。
「「痛っ?!」」
同じタイミングで同じセリフを吐きながら2人は同じようにはたかれた頭を押さえて止まった。全員が足を止める。
「痛いよ、零耶」
「イタタ…なんでボクまで…」
相当痛かったらしく涙目になっている2人を見下ろすようにして零耶は呆れたように告げる。
「喧嘩なら後にしろよな。絡繰の兄貴も鈴音丸の兄貴も鳴海の兄貴も困ってたぞ」
「「え」」
本当に仲が悪いように見えるのによくハモる2人だ。統軌と律夏はすいませんと軽く頭を下げた。それの何処がツボにはまったのか鈴音丸が小さく笑った。それにつられるようにして絡繰が笑い、鳴海も笑う。何故笑う?と云う感じで首を傾げていた3人は顔を見合わせると笑い出す。
その笑い声が次第に小さくなっていき、統軌と律夏が頭から手を離した頃、風向きが突然変わった。それに気づいた全員が身構えた。次の瞬間、討伐対象の【神穢】達が近くの廃墟となった建物や木々からゆっくりと姿を現した。数は十前後。全員が背中合わせに立ち、武器の柄に手をかけた。
「……全部、じゃない」
「!どういう事だ」
鈴音丸の言葉に彼と律夏を抜かす全員が驚き、代表して絡繰が問う。スッと煙管を【神穢】達に向けて横に振りながら鈴音丸は愉快そうに口角を上げた。
「まぁ、待て。仲間によればな、【神穢】は強敵を一体、連れてるそうだ」
「………それって黒装束の…?」
「いや、違う。だが、その強敵はリーダー格らしい、気をつけろ」
鈴音丸の声が低くなり、全員が緊張した面持ちを示す。すると、バサッと羽ばたく音がした。その音はゆっくりと彼らの前に現れた。それは強敵と表すのにふさわしく、美しいレッド・ダイヤモンドを黒い顔に3つ埋め込んでいた。頭には王冠のような黒い輪がある。体は人の女性のようにスレンダーで、手や足と思わしき場所は刃物のように鋭く尖っていた。そしてその背には黒い体と同じように真っ黒なコウモリの羽を生やしていた。
零耶はその【神穢】を見て、思わず美しいと思ってしまった。それは統軌や絡繰も同じようだった。驚いたように惚けている。
「さあ、そろそろ、"実力試し"を始めようか」
鈴音丸が呟くと彼と律夏を抜かす全員が武器を構え始めた。零耶が短刀を抜き放ち、それを胸の前辺りで構え、いつでも跳躍できるように両足を曲げて構える。統軌が刀を抜き放ち、その切っ先を敵に向けて構える。絡繰が脇差を抜き放ち、いつでも動けるように構える。鳴海が2振りの脇差を抜き放ち、切っ先を敵に向けてそれぞれ平行になるようにして構える。鈴音丸がクルッと煙管を手首の上で弄ぶと煙管は薄い青色の光に一瞬、包まれたかと思うと煙管は大太刀へとその姿を変えていた。律夏がパチンッと指を鳴らすとその手元に空色の光が一瞬瞬くとそこに槍が現れた。突然現れた武器に敵は驚いたように宝石の瞳を大きくするが仲間の彼らにとっては久しぶりではあるが当たり前だった。
鈴音丸の手にある大太刀の柄には薄い白い布が羽衣のように揺らめいており、律夏の手にある槍は刃物近くの柄に2つの少し大きめの輪が交差しており、面白い事に下に動く事がない。そしてその2振りは零耶達が持つ武器と違い、神々しくもあり、禍々しくもある何かを漂わせていた。
「これ見るの初めてですか?」
律夏が【神穢】の驚き様にそう考え、首を傾げながら訊く。その口元は愉快そうに歪められていた。その問いに答えるように仮面を外しながら、鳴海が仲間でなければ分からない声で呟いた。
"死剣"、と
少し遅くなったので、その代わりと云ったらなんですが裏話でも!
此処にて初登場の鳴海、鈴音丸、律夏は元々、一回絵描いてたんですよね。そこから持ってきました。けれど鈴音丸に至っては絵を見たら「…これは癖毛か?それとも、耳か?」だったんで文章の通りになりました(笑)それに律夏の名前も当初と違います。まぁ夏って云う漢字は同じですけどね。それともう一つ、鳴海も違います。本当は仮面は着けていなかったし、武器が2振りではなかったんですよね。もしかすると一番変更したのは鳴海かも?
長くなりましたが、楽しんでくれたら嬉しいです!




