第十七話 酒盛り月夜唄
やっぱりどっかで酒盛りを入れないといけないさがなのか作者は
「終わった後の酒は格別だな!」
「飲みすぎないでよね!」
「おーい、姐さん!こっちにも追加ー」
「はーい、只今ー」
「こんな時に限って飲まない奴らも飲むんだからたまったもんじゃない」
「ハハハ、まぁ楽しんだ者勝ちだから」
ガヤガヤと食堂を埋め尽くす楽しそうな声とグラス同士を盛大に合わせる音が四方八方から響く。彼らは無事に人質達を救出し、任務の成功祝い兼宴の最中だった。ちなみに【神穢】との闘いで負傷した者は獅雨によって治療され、軽症者で二日、中傷者で五日かかると云う。そんな獅雨も今は宴の余韻に酔いしれていた。
ちなみに責任者であった清守と指示を出していた"五天王"は書類を書き終わり次第やってくるそうで政府への報告も明日だ。なので彼らがやって来るまでは盛大に月一の宴が行われているのだろう。
「ん~~!美味しっ」
「統軌、なんかおっさんみたいだぜ?」
「うるさいなー美味しんだからしょうがないでしょ?」
ほのかに酒で頬を紅く染めた統軌が隣に座っている零耶に持っているコップを差し出すようにしながら言う。それに零耶は苦笑しつつ、自分の持つコップに口をつけた。零耶の右腕には闘いで傷を負った事を示すように包帯が巻かれていた。零耶と統軌の近くには左京、右京、獅雨、絡繰が円を描くように座っている。ちなみに床に座っている。女性陣はと云うと守光の言葉を借りるならば頑張って獲得したテーブル席で他の女性陣を誘ってお茶会中である。それともう一つ付け加えるなら【AVANOLS】は武器の性質上と成長の理由で見た目が幼い者もいるがどれだけ歳をとっても姿は変わらない。ので、酒を飲んでも全員大丈夫です。酒に弱くない限りは。
「たまにはこうやってみんなで囲んで飲むってのもいいもんだな。なぁ、左京?」
「そうですねぇ」
右京が酒が注がれた盃を勢いよく煽る横で左京が小さく笑って同意する。とその隣に"白"に埋もれるように座っていた獅雨が真ん中に置かれた漬物を取りながら云う。
「……なんか、余興とかないのかな…」
「「あ」」
飲む、話す、騒ぐの三拍子に少々飽きたのかそうもらす獅雨。他の者もそうだなーと同意のようだ。すると、獅雨が言った事に零耶と統軌は思い出したと言わんばかりに顔を見合わせ、声をあげた。絡繰が訝しげな顔でどうした?と首を傾げる。
「2人してどうした」
「兄さん聞いて聞いて!思い出したんだけどさ、僕と零耶、前に左京さんと右京さんに宴で舞披露する約束してた!」
「……言わなければこのままのんびりできたのに……」
統軌が慌てて云うのを見て左京が残念そうな、それでいて愉快そうに口元を押さえて笑う。右京も愉快そうに足を組み直しながら酒を煽る。楽しそうに語る統軌の横で零耶は2人に悪かったかなと心配になり、不安そうな表情で問った。
「左京の兄貴、右京の兄貴。お願いしても大丈夫か?」
不安そうな表情の零耶に当の本人の左京と右京は顔を見合わせるとクスリと笑った。その意味が分かった獅雨、絡繰と統軌兄弟だったが零耶には少し難しかったのかそれとも深く考えすぎたのかいまだに不安そうな表情である。右京は酒を飲み干した盃を足元に置いて零耶の方へ身を乗り出すと頭を少し乱暴に撫でた。
「うわっ」
「右京、些か乱暴過ぎます」
「そうか?まぁ、でも、可愛い弟分との約束なんだから心配すんなって!」
ニカッと歯を出して笑う右京につられて不安そうだった零耶も笑顔になる。右京が膝を叩いて立ち上がると左京に尋ねる。
「曲、何にする?」
「ボクはなんでも良いですよ。右京に合わせます」
その言葉に右京は喉の奥からククッと笑い声をもらす。そして懐から横笛を出す。それを気配で感じ取った左京は畳んでしまっていた扇を取りだし、パサッと広げ、片膝を立たせる。スゥ…と閉じられる左京の瞳とそれと同時に右京の口元に吸い寄せられるように持っていかれる横笛。零耶も統軌も絡繰も獅雨も"白"も他の者達全員がシン…と静まり返り、何が起きるのかとその瞬間を待ちわびる。そして、美しい横笛の音色が静まり返った食堂に木霊する。最初の音と共に左京がうっすらと瞳をあけ、扇を持った手を高く挙げながら立ち上がり、舞を舞う。その舞は儚げで美しく、妖艶でもあった。右京の美しくもおぼろげな音色が左京の舞を際立たせ、両者がお互いを支え合うかのようにうまく調和している。左京が扇を手に舞うたびに桜の匂いが微かに香り、花びらが舞う錯覚にさえ陥っている。右京の横笛からは妖艶なほどに美しい音色が人の形を持って左京と舞っている幻覚さえ見せる。2人の美しくも妖艶で儚げでおぼろげな舞と音色に彼らは暫し言葉をかわすことも忘れて酔いしれていた。
♪~………
右京の奏でる横笛の音色が曲を奏で終えると左京の舞もその動きを止めた。息を呑む声が聞こえた。かと思うと拍手喝采。突然の拍手喝采に左京が驚いたようで扇で口元を隠した。
「スッゴい!やっぱりお願いして正解だった!ね、零耶!」
「嗚呼!綺麗だった…」
統軌が飛び付かんばかりの勢いで立ち上がると瞳をキラキラさせながら興奮気味に叫ぶ。その横では零耶も同じく興奮気味に叫ぶと数分前の美しい光景を思い出し、感嘆の息を吐く。その2人の言葉を皮切りに次々に【AVANOLS】達が「綺麗でした!」「サイコー!」「もう一回お願いします!」「別世界にいるみたいだった!」などと感想や要望を叫び出す。左京と右京の2人はまさかこんな拍手喝采や歓声を聞くことになるとは思って見なかったらしく、呆けた表情で目をぱちくりさせている。が、状況が飲み込めたらしく、2人して嬉しそうに笑った。
「………ねぇ、リクエスト、いい?」
獅雨が目をキラキラさせて問う。それを皮切りに他もリクエストを叫び出す。左京と右京は笑いながら答える。
「分かった分かった!一人ずつな」
「最初は獅雨からいきましょうか」
全員が笑う。左京はトン、と右京の肩を自身の肩で軽く叩くとこちらを向いた彼に言った。
「こうなるんでしたらもっと早くても良かったですね」
「嗚呼、そうだな」
右京が小さく笑う。その袖を引っ張って獅雨がリクエストが決まったらしくいつもはやる気のない顔に笑みを浮かべている。そんな彼の隣では零耶と統軌も楽しみそうに待っている。
「おっしゃぁ!俺が琵琶を弾いてやるぜ!」
「やだよー酔っぱらいが無茶言ってるよー」
仲間の一人が何処から出したのか琵琶を取りだし叫ぶと近くの仲間が呆れたように言う。「なにを?!」と琵琶を持った仲間がその仲間に詰め寄り、近くにいた仲間達が「やめろやめろ」と笑いながらそれを止めに入る。それをみんなが可笑しそうに笑い、食堂に楽しい笑い声が木霊する。
「獅雨、何がいいです?」
「……うん、と、ね……"雨坂ノ夢"」
獅雨のリクエストに2人は了承の意でにっこりと笑う。右京が手を叩いて「始めるから静かにしろ!」と云う。その光景を見て、零耶はクスリと笑い、食堂の窓から見える月を眺めた。真夜中の月も自分達との宴を楽しんでくれているようで美しく輝いている。こんな楽しい日々がずっと続けばいいのに。非現実的な事を零耶は考えてしまい、小さく苦笑した。そんな事、出来るはずないのに。けれど、心の中でいつの日かそうなる気がしてならないのだ。それは何年、何十年先か。考えるだけで想像など出来やしない。それでも、信じるだけはいいだろうか。
と、右京の横笛の音色が響きだした。獅雨がリクエストした曲を弾いている。あの曲は獅雨が生まれた日と同じ、数年前に公開された曲。何か、感じるものがあるのだろう。
零耶は横笛を奏で始めた右京と舞を舞いだす左京を仲間達同様、見つめた。




