第十四話 戦闘開始直前
深夜0時。一日が終わり、暗闇の中でまた一日が始まる。
零耶は左耳にインカムをつけながらこれから一緒に行く突入隊を見やった。全員が全員、真剣な表情だ。
自分達は陸に打ち上げられた元豪華客船に突入する。打ち上げられているため近くまで徒歩で移動し、ゆっくりと甲板に移動して作戦を開始する寸法だ。空を飛ぶ事が出来る機械があれば楽なのだが生憎そういうのは退化してなくなってしまっていた。再び、その機械を実現させるために開発が進んでいるようだが、今回は全くと云っていいほど役立たずである。それはそうと自分達突入隊が暴れている隙に位置を把握しているために突入隊からの応援となった統軌率いる諜報隊が人質を救出するのだが、全ての敵がこちらに来るわけではないので判断が難しい。
「……ハハッ。玲御ったら…」
零耶は守光と戯れる玲御を見つけて微笑ましいと感じ、笑った。その微笑ましい光景がいくらかこの緊迫した雰囲気を緩和させていく。と、零耶の近くに立っていた清守が彼に話しかけてきた。
「零耶、守光と一緒に闘ってもらっても良い?」
その問いに零耶は面食らった。何故、玲御や神楽の女子ではなく男である零耶に?
それを聞こうと口元を開きかけた時、清守の人格が変わった。冷たい瞳が零耶を貫く。がその冷たさは次第に優しく、暖かくなっていく。それはまさに兄の瞳、兄の顔であった。今日はよく人格が変わる。妹が心配なのだろうか。
「なんでだ?」
「妹の攻撃パターンは極めて特殊なんだ。誰でもパターンが合う貴様に頼みたいのだ」
「………玲御でもいいんじゃねぇのか?」
それに清守はクスリと笑い、その問いに答えた。
「太刀よりも短刀の方が良いんだ。頼むな」
零耶が何か言う前に清守はそう言って絡繰と神楽の方へと行ってしまった。零耶の手が空しくくうを切った。零耶はガシガシと頭をかく。
「(まぁ突入隊に短刀は俺だけだけどさ)」
軽くため息をつきながら零耶は清守の頼みを叶えるために玲御と戯れる守光の元へとゆっくりと歩いて行った。零耶に玲御が気づいてトコトコと2人してやって来る。玲御の後を追ってくる守光はまるで親鳥を追う生まれたての雛鳥のようだった。
「零耶」
「玲御、守光と俺さ、一緒に行動することになった」
「?なんで?」
玲御が首を傾げて問う。その後ろでは守光も同じように首を傾げている。2人は少ない時間でこんなにも仲良くなったのか、と零耶は微笑ましく思うと共に嬉しそうに小さく、誰にも聞こえぬように笑った。
「清守の兄貴によれば、守光の攻撃パターンは特殊らしくてさ。短刀が俺しかいないからって」
「なんで?」
「知るか」
玲御も零耶と同じ疑問を抱いたらしくそう問うと零耶は即答した。いや、知らないし。玲御が「知らない?」と首を傾げるのに合わせて零耶も「知らない」と頷いて答える。それを数回繰り返した辺りで双子は守光の存在を思い出し、振り返った。すると彼女は双子の様子を楽しそうに見ていたらしく、終わってしまったその動作に「なんでやめるの?」と不思議そうな顔をしていた。
「………攻撃パターン特殊なの?」
「え、うん。ぼk…わたしの攻撃は特殊なんだー政府や博士のお墨付きだよ!」
自慢気に胸を張って言う守光。それに今度は双子が顔を見合わせる番だった。
博士と云うのは自分達【AVANOLS】を生み出した政府の科学者の事である。詳しい事は分かっていないが政府の犬だとか政府直轄だとか色々な噂がある。が同じ人間であれ、武器の細胞を組み込み、生んでくれたのだ。多少なりとも情は湧くもので。まぁ、他の人々とは違うから情が湧いたのだろう。加入時に悲しそうに見送ってくれたから。だから守光のお墨付きの話には困惑したのだ。そんな情を多少なりとも【AVANOLS】が持つ科学者達がお墨付きを与えたと云うことが。【AVANOLS】でのお墨付きは"五天王"や"障害持ち"などの稀に与えられる事が多かった。しかし、守光はそのお墨付きを貰った。一見、なんの変哲もない清守の妹が貰った。つまりはどういう事なのか、想像し難かった。
守光は驚く双子を見て何を思ったのか、頬をかきながら言った。
「あと、お兄ちゃんが短刀って言ったのはもしも、失敗した時の保険」
「保険?!」
「そんな驚かないでよ玲お姉ちゃん。本当の事なんだもん」
クスクスと楽しそうに口元を両手で押さえて笑う守光。それに玲御は彼女から詳しい事を聞くのを諦めたのかポンッと零耶の肩を叩いた。それに零耶も肩を落としながら頷いた。
ま、なるようになれ、か。
そう考え、零耶は勇気付けに短刀の柄と鞘をさらりと撫でる。"小鶴"が「大丈夫」と零耶に言っているように感じた。
「よろしくお願いします、零お兄ちゃん!」
「宜しく、守光」
楽しそうに笑う守光にそう零耶も笑い返した。なんだが、言い表せない何かが起きそうだ。
…*…
静かな夜、日付がちょうど変わった頃。その暗闇に耳を凝らさなければ決して聞こえぬであろう小さな音が風に乗って聞こえてくる。だがその音は途切れ途切れの音楽を奏でているらしく、なんの音かまでははっきりと分からない。船が自分の居場所を恋しがっているのだろうか。もし、そうだとしても陸に打ち上げられてしまっては何も出来やしない。それは武器を手放してしまった人間にも云える事であった。
零耶は守光と共に元豪華客船の近くに来ていた。他の仲間達とは定間隔をあけて数人単位で分かれているため、此処には零耶と守光、そしてもう3人がいるのみだ。零耶は上を見上げる。黄色く輝く月と星が暗闇に輝いている。すると、風に乗って「ピュー」と云うか細い口笛のような音が聞こえて来た。合図だ。零耶は守光達と暗闇で視線で会話すると足に力をこめ、力強く干からびた地面を蹴り跳躍した。少し高さが足りなかったのかもう少しで甲板に辿り着く、と云うところで降下し始めた。零耶は音が響かないように鉄の板を軽く蹴り、高さを調整した。甲板の縁に手をかけ、腕を引き、縁へと躍り出る。そこには暗闇に瞬く、幾数もの美しい煌めきがあった。その煌めきはとても美しいが、それは【神穢】の瞳である。突然現れた零耶や守光達を見回し、驚いたようにその美しい宝石を大きく広げた。零耶は短刀を抜き放ち、目の前で驚愕し、動きを止めている【神穢】の首元を掻き切った。黒い霧と化して頭が消えかける敵の体を縁から飛び降りながら踵落としを食らわせ、完全に消滅させる。床にぶつかる前に片足を軸にして回り、回避。耳元のインカムから早口に声が響いた。
〈こちら、突入隊。殲滅を開始する。例外、黒装束。例外は出来る事ならば生きて捕まえろ。以上、武運を祈る〉
絡繰の緊張した声。それに零耶は小さく頷き、短刀の、"小鶴"の柄を握り締め、立ち上がった。目の前に広がる幾数の美しい煌めきの瞳。
さあ、
「夜の狩りの開始だ」
いまだに驚いて立ち尽くしてしまっている【神穢】達に向かって【AVANOLS】達が襲いかかった。近くか遠くか、風に乗って耳に誰かの声が聞こえた気がした。
明日からゴールデンウィークですね!楽しみです!ところでプチスランプ状態です…どうしましょう…




