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それでも彼らは眠らない。  作者: Riviy
第二章 それでも彼らは救い出す
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第十二話 蔓延る悪寒の意図

今日は連続です!



「やっぱりこうなったか」


そう言って右京は愉快そうに言いながら椅子の背もたれへ体を預け、椅子を後ろへ傾けた。その目の前には零耶が頬杖をついているのみ。その周りの円卓の席に座っている【AVANOLSアヴァノリス】は先程よりもまばらである。


清守によって呼ばれた彼ら。会議ホールに残ったメンバーは突入隊と命名された、【神穢シンエ】と闘い、彼らの気を逸らす事と全滅を目的とした【AVANOLSアヴァノリス】達である。此処に残った【AVANOLSアヴァノリス】達は攻撃力が高かったり、バランスタイプだったりと突入に向いている者達が多い。

零耶と右京他、残り4人はと云うと獅雨は後方支援に、玲御、統軌、左京は隠密行動の準備のため席をはずしている。零耶は入り口からゆっくりとした足取りでこちらにやってくる絡繰と女性を見つけた。絡繰の腰には脇差、"あかつき"(以下、脇差)が彼の歩みに合わせて揺れている。あの2人は同じく突入隊だがリーダー的立場を任せられた。零耶が軽く手を彼らに向かって挙げると絡繰が気づいたようで手を挙げた。


「ん、絡繰と神楽かぐらか。どうだった?」


右京や他の者達も気付き、そちらに顔を向ける。右京がそう問うと絡繰は首を横に振って落胆したような声を出しながら答えた。


「駄目だな。政府側は頑なに要求を言おうとしない。やましいことでもあるのかもしれない」

「ふぅーん……じゃ、俺達は統軌達の連絡を待ってるだけって事になるのか?絡繰の兄貴」


零耶が身を乗り出して、問う。此処まで何も情報が来ない以上、待機が望ましいだろう。

だが、そうじっとしていられないのが彼らの、いや、零耶と右京のさがである。他の者達がじっとしていたとしても2人は独自の方法で動き出してしまうだろう。そう考えたところで絡繰は大袈裟にため息をついた。そして紅いアザが目立つ両手首を胸の高さまで挙げながら云う。


「お前らは"殺絲"で縛りつけてたほうがいいか?」

「なんでそうなった?!」


絡繰の突然の発言にガッターン!と椅子と共に右京が後ろに転んだ。凄まじい速さで起き上がるとそう文句を垂れる。それに周囲が口元を隠して笑う。それは零耶も同じである。大笑いしたら右京にどやされるので控えめに。


「お前ら、じっとなんかしてないだろう。だったら縛りつけてたほうが……」


彼の両手首から紅いアザが消え、細く長い紅い糸と化して空中に漂う。それを見て右京は慌てたように立ち上がりながら両手を横に振った。


「やめろ!指示にはちゃんと従うって!なぁ零耶」

「なんで俺?」

「オレとお前以外、絡繰がこうしようとする奴なんかいないだろうが!」


右京の叫びを聞いて零耶は納得したように頷いた。そのあと、「えっ」と驚いたように叫んで絡繰を見上げ、違うよな?との意味合いを込めて首を傾げると彼はお前だと空中に漂う糸を少し動かした。それを見て零耶はそんな事しませんよーと両手を挙げた。それらを見て「プハッ」と変な声をあげながら絡繰の隣に立っていた女性が腹をかかえて小刻みに震えだす。どうやら笑っているらしい。


「……姉さん」

「ご……ごめん絡繰。もう駄目……あたしには漫才にしか見え……あははははっ!!」


女性は腹をかかえながら、大笑い。それを見た絡繰はため息まじりに糸を手首に戻す。他の者達も少しずつ笑いだし、零耶と右京も笑いだす。緊張感に包まれていた空気が緩和されていく。暫くして大笑いした女性が目元に溜まった涙を拭いながら笑顔で少し自分よりも背の高い絡繰の頭を優しく撫でる。と彼は恥ずかしいのか煩わしそうに軽くその手を払いのけた。それに女性はニヒヒと笑った。


「で、結局待ってるだけなのか?」


零耶がポツリと云うと女性がそうだった!と手を叩いた。それに全員(絡繰を除く)が訝しげな顔をした。


「忘れてたわーあのさ、清守くんが一応作戦、こっちでも作っとけってさ。あとで妹と一緒に来るらしいから、集まれー」


楽しそうに言う女性に右京が質問した。


「なんで作戦なんか立てんだよ?清守が完璧に作ってたろ?」

「………………もしかして、非常事態用とかのためか?」

「零耶くん、正解」


「はなまるっ!」と言って女性が歯を出して笑う。零耶の考えに右京はまだ納得していないのか眉を潜めたままであった。が徐々にみんなが自分の座る円卓に集まって来たのを見て口を閉ざした。絡繰が零耶の隣に立ちながら小声で彼に言った。


「零耶」

「ん、何、絡繰の兄貴」

「お前、玲御と連絡取れるよな?」

「?嗚呼、取れるけど……!」


絡繰の言いたい事が理解出来た零耶は口元に笑みを作りながらその時は任せろ、と彼を見上げた。それに絡繰は安心したように軽く笑った。

零耶は玲御と同じ武器の性質を細胞に組み込み、双子であるためか他の兄弟とは違って機器なしに連絡を取り合う事が出来る。政府にも知られているが【AVANOLSアヴァノリス】内でこの事を知っている者は少ないため、気を使って小声だったのだ。

絡繰が姉、神楽かぐらを見ると彼女はうんと頷いた。


女性、神楽かぐらは潤色の長髪でポニーテールにしており、瞳は納戸色。ポニーテールの結び目には椿の髪飾りをつけている。服は薄い水色のつなぎで上を脱いでいるが左腕のみ寒いのか着ており、腰部分に巻いている。腰にはリボンのようなベルトをしている。中には胸を覆うサラシ以外何も着ていないようだ。右肩には赤い椿の刺青がある。下の部分はスカートになっており、足は長めの黒のスパッツ、スポーツシューズと動きやすい格好だ。彼女の片手には薙刀が握られている。

ちなみに、神楽は統軌と絡繰の姉である。露出が多い気がするが全員、慣れてしまっているし、言えばちゃんとつなぎを着るのでノーコメントで通す。


「みんなー円卓テーブルの上に手とか置かないでね。行くよ、"月明かり"」


神楽の警告と共に彼女は持っていた薙刀、"月明かり"(以下、薙刀)を頭上に掲げる。と同時に全員が円卓から手を離す。それを見届けてか神楽は呟くように言う。


「"月明かり"・天迷てんまい


神楽の薙刀がほのかに光ると椿の花びらが周辺と円卓に舞う。神楽は薙刀の光が消えたのを確認すると元の位置に戻した。

先程の技はどこからか情報がもれぬように薄いカーテンのようなものを漂わせるものである。これは戦闘でも使える便利な技である。


「さっ、作戦会議と行こっか!」


楽しそうに笑って神楽が言った。


…*…


〈統軌、聞こえますか?〉

「うん、聞こえてるよ左京さん」


統軌は左耳につけたインカムから聞こえる声に向かって小声で返した。今、彼は【神穢シンエ】が人質をとって潜伏していると云う元豪華客船に侵入していた。何処に誰がいるか、何処に敵がいるか。それらをこの隠密行動で明らかにするのが統軌の任務である。


統軌は物陰から奥の長い廊下を覗き込む。今、統軌は甲板に出る道にいる。人質や敵が何処にいるか知るために通りたい通路は政府からの情報で明らかになっているあそこを通るしかない。


「(【神穢シンエ】と出会い頭にならなきゃいいけど…)」


統軌は極度の緊張感に胸を踊らせていた。いつ見つかるかわからない恐怖感、それを乗り越えた時の達成感、そして失敗すればあとがないこの極度の緊張感が統軌が隠密行動を好む理由だった。元々、動きが素早い事から隠密行動に駆り出される事は多々あったし、自分の細胞に組み込まれている武器の性質にも隠密行動を得意とする部分があった。が、統軌は零耶曰く自分曰く中毒になっているのだ。それは己自身の身を滅ぼすような行為であると共に統軌にとって至福の時だった。彼にとって隠密行動は裏表の両面を統軌に与えるもので他の者達とは意味合いも思い入れも違っているのである。


そんなこんな。統軌は目を細め、遠くを見やる。誰もいない。今しかない。


「行動を開始する。左京さん、準備」

〈え、あ、ちょっと……了解しました〉


ため息混じりの左京の声を聞きながら統軌は古びた絨毯が敷かれた床を蹴った。素早い動きで入り口まで辿り着くと外に敵がいないか確認していると右側にある梯子に目が行った。

不思議なほどに敵の気配がない。

そう思いながらその梯子の上段に向かって跳躍し、梯子を掴むと素早く登りきる。登りきった上は普通は入れない屋上のような殺風景な場所だった。改造されているのだろうか。上体を低くしながらそこに組み込まれている鉄の板に歩み寄る。板は上に引くと開くようで統軌は躊躇なく引いた。中は暗い。多分、排気口なのだろう。統軌は辺りを見回してそこへ体を滑り込ませた。少し大きめの排気口でギリギリだ。統軌は板を閉め、暗闇の中、気配がない事に一種の危険を感じながらほふく前進で移動し始めた。


暫く、暗闇の中を移動していると統軌は今まで何故か感じなかった気配を感じ、ピタリと動きを止めた。そしてぴたっと顔を床につけた。ゆっくりと顔をあげ、その板を慎重に外した。顔だけを逆さにして下を覗き込む。誰もいない。すたっと統軌は着地すると辺りを鋭い視線で観察する。

ピピッと耳元から音がし、統軌はインカムを操作し、小声で言う。


「左京さん?カメラ、うつってる?」

〈ええ、うつっています。お気をつけて〉

「了解」


統軌がつけているインカムには小型のカメラもついており、随時、情報をそちらに送っている。

統軌は滑るように薄暗い廊下を移動する。と少しだけ扉が開いている部屋を見つけた。そこへ近づき、気配を消して覗き込む。暗い。真っ暗闇である。が隠密行動をする統軌にとっては慣れたもので夜目がきくのでなんの心配もなかった。


「………?」


はずだった。統軌は首を傾げた。中が一向に見えないのだ。まさか誰もいない?いや、気配はあるからいるはずなのだが。統軌はよく目を凝らした。と、微かに美しい煌めきが暗闇の中で見えた。一つや二つではない、もっとある。暗闇で数は定かではないが。


「(何……あの、闇に溶け込んでる影…)」


統軌の目に映った、暗闇に溶け込んでる影。黒装束を身につけているらしく目を凝らさなければ決して見えない。

その影を見た途端、統軌の脳内に警鐘が鳴り響く。此処にいてはいけない。退避しろ。危険信号が体を駆け巡る。統軌は咄嗟の判断でそこから離れようと考えた。幸い、人質が捕らえられている場所は判明している。早く、此処から立ち去ろう。


「!」


滑るように歩き出したその時、横目で見た隙間からあの影がこちらを見た気がした。統軌はそれを見た瞬間、船を出るまで左京達と合流するまで悪寒が何故か止まらなかった。


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