第十一話 緊急会議での作戦と事件内容について
ざわめく会議ホールにて。ざわめく声によって隣の人の声すら聞こえない。
会議ホールは食堂の数倍広く、天井には少し古いがシャンデリアが揺れており、床には古びた赤い絨毯が敷かれている。【AVANOLS】が住居とする以前、この建物は政府のお偉いさん方や海外のお偉いさん方が滞在する時に使われていた。その名残を今だに残したまま彼らは使用している。
そんな元はダンスホールであろうと思われる現会議ホールにはたくさんの少し小さめな円卓が置かれていた。そのーどちらかと云うとー前方の円卓に零耶達は座っていた。座るテーブルの順は関係ないらしいがみんなは前方に座りたがる。理由は後ろだと誰かが話す時に乗る台に上がったとしても誰だが分からないためだ。それだけでどれほど広いかが想像できる。
さてさて、そんなーどちらかと云うとー前方を見事ゲットした彼らは今だ困惑した表情で座っていた。今だに全員が揃わないらしく数名の【AVANOLS】がホールと廊下を行ったり来たりしている。
「………まだ始まんないのかねぇ」
「聞いたところによりますとどうやらまだ一人、帰って来ていないそうです」
頬杖をついた状態でだらけていた右京の問いに左京が答える。零耶はそれを聞いて小さくため息を誰にも知られないようにもらす。
【神穢】が人質をとり、政府に要求すると云う異例の事件。【神穢】は集団で行動するものも単独で行動するものも多々ある。が、せいぜい知能は集団行動のリーダー格、つまりはごく少数の【神穢】にしかなかった。
まさか、新手の【神穢】か…?それなら人質をとって要求すると云う芸当も思いつく。
「……………」
「零耶」
「……………」
「零耶!」
「っ!?」
統軌の呼び掛けに零耶はようやっと深い思考の底から這い上がった。慌てた様子で隣に座る統軌を振り返るとプクゥと頬を膨らまして明らかに拗ねていた。
「な、なんだよ統軌…」
「僕が呼んでもぜんっぜん、気づかないなんて!……なに考え込んでたの?」
今だに拗ねた様子で統軌が訊く。零耶は頬をかきながら言う。
「今回の件。異例すぎてな」
「まぁね。僕は隠密行動とか取れるからいいけど」
「お前はな」
「イテッ」
反射的に彼の頭を叩いた。なんだが今、深く考え込んでいた事がバカらしく思えて来た零耶は口元を押さえて小さく笑い出す。それを統軌は不思議そうに首を傾げて見ていた。
暫くして獅雨が"白"を連れて彼らの残っていた席ー正確に言えば玲御の右隣、左京の左隣ーに何故か座った。理由、席がない。
その間に最後の一人が会議ホールに滑り込んで来たらしく、古びた床で変な音が響いた。それを合図に前方の少し高くなった台に一人の青年が上がる。一番前とはいかないが結構な前方席である此処からでも彼が"五天王"じゃない事は明らかだ。では、誰か…?
その人物が誰か察したのか右京が愉しそうに口元を歪める。
「おいおいぃ、今回のこの件の責任者はこいつかよ。こりゃあ、愉しくなりそうだ」
緊張感のない言葉に左京がこめかみを押さえている。右京がそう言う、と云うことはそれほどに実力があり、左京や右京と誕生、もしくは加入時期が同じ【AVANOLS】と云うことだ。そう考えると当てはまるのは片手ほどしかない。
と、台に上がった青年にある特徴的なものを見つけ、分からなかった零耶達は納得したように声を小さくあげた。
「え?ってことは新人ちゃんも参加?」
「だろうな」
「だって清守の妹なんだろ?決定事項決定事項」
愉しくて仕方がない様子で右京が零耶と玲御に言った。そう、台に上がったのは新人の兄であり、遠征を一人で担っている青年、清守である。
清守は杏色のショートで左側の髪のみ、後ろもこめかみも長い。瞳は茜色が内側、金色が外側と互いに干渉せずに色合いを保っていると云う珍しい色合いである。右耳に黄土色の羽のイヤリングをしている。服は薄い黄緑の和服で左の袖が異様に短く、右の袖が異様に長い仕様になっている。両袖にはカランコエと云う花とクレマチスと云う花が描かれている。股辺りで布は途切れ、下は足にフィットする漆黒色のスキニーの長ズボン。靴は焦茶のヒールが少し低いブーツでズボンの下。腰には刀、"雷戦"(以下、刀)をさしている。
何故、彼の瞳が珍しい色合いかと云うとそれは彼が【AVANOLS】の中でも珍しさと重度さを併せ持つ"障害持ち"だからである。
さて、そんな彼は台の上で小さく深呼吸をして、この異例な出来事を話す準備をする。そして全員に聞こえるであろう声を腹から張り上げた。
「聞いていると思うけれど、【神穢】が政府関係者を拉致し、彼らを人質に取り、政府に要求を迫っている」
拉致、と云う言葉に全員がピクリと反応したようだった。【神穢】が拉致をした。人質をとるだけでも異例なのに拉致までとは……今までとは違う。誰もがあらためて理解した。
「"五天王"は政府からこの任務を受理後、私の責任の元、人質を奪還する事を決定した。詳しくは今配られる資料に目を通して。急いで作成したから誤字脱字は許してね……」
最後の清守の弱々しい言葉に緊張していた空気が緩和されて行く。
別の【AVANOLS】が配ったB5サイズの紙には端から端まで文章が連なっていた。清守によると「情報の漏れを案じてこれが終わったら全て処分する」と云う。つまり、この情報を短時間で全て頭に叩き込めと。中々、鬼畜である。だが彼らにとっては朝飯前である。零耶は内容を目で追いながら思考をクリアにして情報を刻み込んでいく。内容は以下の通りだ。
〈西暦2610年6月19日正午にて政府関係者4名を含む計10名が拉致された。主犯は不明だが【神穢】が目撃されているため【神穢】だと思われる。
拉致された場所は陸に打ち上げられた元豪華客船付近。政府からの情報ではその元豪華客船の通信機を使って要求してきたと云う。そのため、元豪華客船内に関係者と共に潜伏していると思われている。
要求については情報が入っていないが期限は明後日明朝。それまでに政府側が要求を飲まなければ「人質全員を抹消する」と云う。
以上の事と政府からの任務受理により、人質奪還を最優先として行動する。〉
全員が内容を頭に叩き込み、紙をテーブルの中央に集め出すのを確認した清守は内心、ホッと胸を撫で下ろすと再び、声を張り上げた。
「"五天王"からは情報が入り次第、こっちに流すようにお願いしてある。政府関係者を拉致した【神穢】の数はおよそ50体前後だと予想されている。元豪華客船だって云う船の位置は判明済み、要求については今、"五天王"が政府側と交渉してる………えっと…質問ある?」
そう、躊躇気味に云うと誰も質問はないのか返答がない。
零耶は横目で資料の紙に視線をやる。あれには実行予定の作戦まで練られていた。発生から4時間と48分。よく此処まで考えついたものだと改めて感心すると共に、零耶は作戦内容を頭の中で反芻する。
〈実行予定の作戦。政府からの情報と位置、人質の位置を把握次第、変更もしくは実行に移行。
豪華客船と云うだけあり、甲板には【神穢】が見張りでいる可能性あり。【神穢】の始末を数名から数十名の【AVANOLS】ー以降、突入隊と命名すーが遂行中に人質救出。
また、【神穢】の配置、人質の位置、間取り図は隠密行動、諜報行動を得意とする者に確認を取らせる。その者達は任務遂行中、人質救出をする隊のサポートを予定。
尚、何度も云うようだが状況に応じ変更可能。だが、大まかな作戦は以上である。〉
「(本当、清守の兄貴が味方でよかったって常々実感しちまうな…)」
頬杖をつきながら零耶はそう思う。清守は【AVANOLS】の中でも"五天王"に匹敵するほどの頭脳を持つ。次期"五天王"などど噂されるほどの人物だ。もしそんな彼が敵側であったならもう彼らはこの世界にはいないであろう。
「………そう言えば、今日は出てきませんね」
「そういやぁ……珍しいな」
「ホントだね」
そんなことを考えていた零耶の耳に玲御と左京、右京の言葉が入る。それに彼もそういえば、と首を軽く傾げる。気づいた統軌や獅雨もあれ?と云う感じだ。他の【AVANOLS】達も質問なしと云うことよりも別の疑問に意識が行っているようであった。質問がない事に安心した様子の清守が別の事を言おうと一度、瞳を閉じた。そして開けた。途端、彼の瞳の色合いが内側と外側、逆になっていく。つまり、今、内側が金色で外側が茜色である。色合いが逆になった瞳で彼は全員を見回すと愉しそうに笑った。先程までの清守とは大違いの行動だ。そして彼は口を開く。
「……それじゃあ、質問がないと云う事で先に進むが……異論があるならば受け付けない」
悪寒。初対面の者ならば清守の内外が逆になった瞳と冷たい言葉に全身に悪寒が走るが慣れている彼らにとっては安心する要素の一つでしかない。
「では、突入隊、及び諜報隊等の割り振りを発表する。一度しか言わない」
冷たい物言いに右京は愉快そうに声を押さえて笑う。左京も少し楽しそうに微笑んだ。
「ホント、お前がオレ達の同期で良かったよ、清守」
"障害持ち"、清守は成長過程で脳に障害が出来、その影響によって2つの人格を持つ二重人格者である。政府側から見れば清守は【AVANOLS】では珍しさと重度さを併せ持つ"障害持ち"である。何故、珍しいか。それは人格が交代するとき、瞳の色合いが変化するから。何故、重度か。それはもう片方の彼の人格が狂暴だからである事と【AVANOLS】に二重人格者が清守のみである事に由来している。
少し怯えたような雰囲気を持ちながら真面目で優しい人格と沈着冷静で冷血な人格。共通しているのは頭脳と戦闘力。そして、一日に数回、人格が入れ代わる事。人格が入れ代わる回数が少ない場合は清守に異常があると云う知らせだ。それを知っているからこその安心と心配だった。
「ではまず、諜報隊の方からーーー」
そして、名前が呼ばれていった。




