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秋の文芸展参加 逃避行 ー籠の鳥が見つけた青空ー  作者: 鑫鑫


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第5話 蜘蛛の巣

第5話 蜘蛛の巣


姫様こと慕容天蕊(むよう・てんずい)が姿を消し、名門・葉家の精鋭である葉知秋(は・ちしゅう)が逆賊として一族を裏切ってから数日。


王宮の謁見の間は、氷のような怒りと重苦しい静寂に包まれていた。


「……名門・葉家から、姫を連れ去る逆賊が出るとはな」


玉座に座る国王の冷徹な声が、高い天井に冷たく反響する。周囲を囲む天蕊の兄たちの王子や官吏たちも、眉をひそめて葉家の失態を糾弾する言葉を口々に囁き合っていた。

隣国との政略結婚という策略を揺るがす大事件に、朝廷全体が殺気立っていた。

その糾弾の嵐の真ん中で、堂々と片膝を突き、微動だにしない背の高い男がいた。知秋の実の兄であり、葉家の若き総領――葉知春(は・ちしゅん)である。


「国王陛下。改めて我が弟・知秋が犯した大罪、一族を代表して深くお詫び申し上げます」


知春は感情の読めない静かな声音で頭を下げた。

だが、その瞳の奥には、周囲の誰にも悟らせない鋭い光が宿っていた。


「葉家の汚名は、葉家の手ですすぐべきにございます。……陛下、この知春に、追手の総大将をお命じください。知秋の剣の癖、思考を最も熟知しているのはこの私でございます。必ずや、二人が次の宿場町を抜ける前に生け捕りにし、この謁見の間へと引き据えてみせましょう」


知春の淀みのない、かつ力強い志願に、国王はしばらく彼を値踏みするように見つめた後、冷たく頷いた。


「よかろう。知春、お前に追討の大将を付与する。隣国の使者が到着する満月の夜までに、必ず生きた天蕊を連れ戻せ」


「御意に」


拝礼し、ゆっくりと立ち上がった知春は、華やかな古装を翻して謁見の間を後にした。

廊下に出た瞬間、知春の唇の端が、ほんの少しだけ、誰にも見えない角度でフッと緩んだ。


(――馬鹿な弟め。まんまと大役を掴み取ってやったぞ)


知春が大将の座を奪い取った目的はーー

それは、知秋を捕まえるためでは断じてなかった。

他の容赦ない宮廷の追手や、暗殺密偵が二人を見つけて知秋を殺してしまわないようにするためだ。


謁見の間を辞し、葉家へと足早に戻る道すがら、知春はふと、半年ほど前のことを思い出していた。

稽古の合間、それとなく知秋に天蕊の近頃の様子を尋ねた時、弟がほんの一瞬、言葉を濁したことがあった。

あの時はただの気のせいだと聞き流したが、今にして思えば、あれもまた、弟の心がとうに定まっていたことの証だったのかもしれない。


「知秋よ、私が追討網の命令権を握り、わざと捜索隊を明後日の方角へ誘導してやろう。そして、二人の逃げ道を裏から援助してやろうではないか」


知春は私室に戻ると、影のように控えていた一番信頼の置ける腹心の部下を呼び寄せた。


「これより、我らは表の街道を大々的に捜索する。

お前は今すぐ密かに先回りし、西の宿場町の市場へ向かえ。……そして、あの馬鹿に、私が偽装包囲網を敷いて時間を稼いでいる間に、一刻も早く霧の神殿へ駆け込めと伝えてこい。あ、いや、接触は駄目だ。ちいと待て」


知春は小さな木片に、誰にも見られぬよう素早く文字を刻み、部下に手渡した。


「直接の接触は、宮廷の監視の目がある。絶対に声をかけるな。ただ、あの二人の足元にこれを落として、すぐに姿を消すのだ」


「はっ」


部下が風のように窓から消え去るのを見送りながら、知春は遠い西の空を見上げた。


(知秋、お前がすべてを捨ててまで守ると決めた姫様だ。泥にまみれようとも、最後までその手を離すなよーー)


宮廷の蜘蛛の巣を、裏から鮮やかに切り裂く、兄の静かな戦いが始まっていたのだ。


◇


「知春様、どうしてそのような場所に向かわれるのですか」


「よく聞け。知秋はどちらかの宿場町に潜んでいるに違いない。いいや、南の宿場町かも知れん。そこで拠点から三方向に分かれてそれぞれの宿場町へ向かい捕縛するのだ」


「しかし、知春様、王都から二手に分かれて山道を進み、もう一隊は街道を。それで直接それぞれの宿場町を強襲するのが最短ではありませんか?」


驚く部下に、知春はふっと冷たい笑みを向けた。


「馬鹿者め。知秋はか弱き姫様を連れているのだぞ?

険しい山道など選ぶはずがない。

必ずや、馬車で表の街道を進んでいるはずだ。ならば、街道が交差する要所を押さえて、そこを拠点として布陣することこそが、生け捕りへの最短となるのだ」


知春は強引に言い含め、西の宿場町と東の宿場町を結ぶ街道と、王都から南の宿場町への街道が交差する地点へと向かうよう部下に指示した。


その交差地点を拠点にして布陣するため、捜索隊を率いて出発した。

――もちろん、それこそが知秋たちに西の山道を安全に駆け抜けさせるための、最大の時間稼ぎであることは、誰にも明かさずに。


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