表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

へんなやつが来た

夕暮れの空が、ひしゃげた。


烏川からすがわの上空に伸びていたまっすぐな白い飛行機雲が、まるで“空に見えない段差”があるみたいに、ぐにゃり、と直角に折れ曲がったのだ。


飛行機本体は、もうとっくに遠くの夕闇へ消えている。落ちる気配なんてどこにもない。

なのに――空だけが、バグった。


「……え?」


私は自転車のペダルを止めた。

心臓が、ひゅっと縮む。


中学1年生の私の頭じゃ、何が起きたのかさっぱり分からない。子供扱いされるのはムカつくけれど、こんな異常事態に一人で対処できるほど、私は大人でもなかった。


折れ曲がった雲の真下。

草むらが、ガサリと揺れた。


ぽてり。

黒い丸い“何か”が、土手の斜面に転がり落ちてきた。


「……ぬいぐるみ?」


違う。動いた。


バレーボールより少し小さい球体。

短い大根みたいな足が二本、ちょこんと生えている。

頭にはアロエの葉っぱみたいな肉厚のものが三枚、プロペラみたいに生えていた。うっすらと湿った土の匂いがする。


そいつは、すっくと立ち上がり、ビー玉みたいな真っ黒な目で、折れ曲がった飛行機雲をじっと見つめていた。

その葉っぱが、ピクンと震えた。


次の瞬間、空の歪みが“スッ”と元に戻る。

折れ曲がっていた雲だけが、そこだけ時間が止まったみたいに不自然なカクンとした形のまま、空に残された。


「な、なに……あんた……」


私が震える声を絞り出すと、そいつはゆっくりとこちらを向いた。


『……腹が減った』


声は、耳ではなく、頭の中に直接落ちてきた。氷水を一滴、脳みそに垂らされたみたいな、冷たくて平坦な声。


ぽすん。


そいつは突然、私の自転車の前カゴに飛び乗った。

見た目よりずっと重くて、カゴがみしりと不穏な音を立てて軋む。


『そこへ行け』


「はぁ!? どこよ!」


『行け』


拒否を許さない、冷たい響きだった。逆らったら、今度は私の身体が直角に折れ曲がるかもしれない。


私は引きつった顔のまま、夕暮れの風の中で、ペダルを全力で踏むしかなかった。


この瞬間から、私――一ノ瀬真昼いちのせ まひると、“へんなやつ”の、最低で不条理な同居生活が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ