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佐伯悠馬の結婚事情(仮)  作者: 雪森蓮


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その38 「シャルロッテの審査(前)」

ロッテちゃんは強い男性が好きです(`・ω・´)

ガーデンパーティは退屈だ。


大人たちは笑って、

グラスを揺らして、

昔話を飾り直している。


十七歳の私にとっては、

だいたい全部が同じに見える。


けれど。


今日だけは違った。

母が来る。

久しぶりに。


ーーーーーーーーーーーーーー


庭は完璧に整えられていた。


芝は短く刈り込まれ、

白いテーブルクロスが風に揺れている。


薔薇の香り。

穏やかな音楽。


ここは父の世界だ。


静かで、堂々としていて、


揺るがない。


父――レオンハルト・ヴァイツマンは、


いつもこういう場所に似合う。

ライオンみたいに。

強くて、落ち着いていて、

誰もが自然に道を空ける。


そして私は父が大好きだ。


世界で一番格好いいと思っている。


パパは最高だ。

揺るがない。

私に甘い。


完璧だ。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


「ロッテ」


その声が聞こえた瞬間、

私は反射で振り向いた。


そこにいたのは、

母だった。


エレノア。


背筋がまっすぐで、

歩き方に迷いがなくて、

薄い笑みだけで場を整えてしまう人。


美人で、有能で、

少し遠い。


近づこうとすると、

するりと指の間から抜けていくみたいに。


それでも。

私は母が好きだ。


誇らしい。


「ママ」


呼ぶと、

母はほんの少しだけ表情を柔らかくした。


「久しぶりね」


「ええ。元気そう」


「あなたも」


短い会話。


それが母らしい。


少し遅れて父が来た。


「ロッテ」


「パパ!」


私は迷いなく腕に飛びついた。

父は笑って受け止める。


その瞬間が好きだ。

世界で一番安心する。


父と母が並ぶと、

二人とも似合っていて、

一層引き立つ。


美しい。

正しい組み合わせ。


本当は。

よりを戻してほしい。

思わないわけじゃない。


でも私はもう子供じゃない。

無理なことも分かっている。


母は踏み込まない。

父も追わない。


二人は大人だ。


終わったものを終わったままにできる。


それが少しだけ寂しい。


だから私は決めている。

もし母が誰かを選ぶなら。

父よりずっと格好いい人じゃなければ認めない。


中途半端は嫌だ。

母には中途半端なんて似合わない。


父に並ぶか。

父を超えるか。


それ以外はありえない。


その時。

母がふと視線を向けた。

私はつられてそちらを見る。


庭の端。


少し影になる場所。


そこに。

男が立っていた。


細身で、

妙に姿勢が固くて、

落ち着かない感じで。


……ウサギみたいだ。


弱そう。

場違い。

父の隣に立てる種類ではない。

母の隣なんて、もっと。


私は思わず目を細めた。


(……え)


(まさか)


母が“仕事”と言っていた相手。


噂の。


『佐伯悠馬』


この人?

この人が?

母の?


父が穏やかに言った。


「改めて。来てくれて嬉しい」


男はぎこちなく頷いた。


「……こちらこそ」


母が一歩前に出た。

淡々と。

まるで事務的に。

けれど、これは事務ではない。


「佐伯さん」


男が反射で背筋を伸ばす。


「ご紹介します」


一拍。


「レオンハルト・ヴァイツマン」


母の声は変わらない。


「……私の、前の夫です」


男の顔色が変わった。

分かりやすい。

胃が鳴ったのが聞こえた気がした。


(やっぱり)


(そうよね)


母と父の間にある空気。


それはただの取引先じゃない。


過去だ。

確かな時間だ。


男は笑顔を作ろうとして失敗した。


「……そう、でしたか」


父は穏やかに頷く。


「驚かせたかな」


男は苦し紛れに言った。


「いえ。仕事ですから」


仕事じゃないのに。

母は淡々と続ける。


「仕事の場では必要ないと思っていましたから」


必要ない。

その言葉が少しだけ刺さった。


母が視線を横に向けた。


「それから」


私の番だ。


「娘のシャルロッテです」


「……十七になります」


私は微笑んだ。


完璧な社交の笑み。

そのまま男を見る。


値踏みするように。

静かに。

逃げ場なく。


「はじめまして」


声は柔らかい。

けれど温度は低い。


「佐伯悠馬さん」


男は頷く。


「……はじめまして」


私は父を見る。

母を見る。

そしてまた男を見る。


言葉はないのに、


全部が伝わってくる。


(この人が?)


(ママの?)


(仕事の?)


(本当に?)


ウサギみたいな男。

父の隣には立てない。

母の隣にも、まだ。


私は小さく首を傾げた。


「……今日は仕事ではないのですよね?」


男が固まる。


母が淡々と答える。


「ええ。今日は私的な場よ」


私の笑みが深くなる。


「そう。……よかった」


何がよかったのか、

男には分からないだろう。

分からないまま、

審査は始まっていた。



ここまで読んでくださってありがとうございます!


『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。

結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。

相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。


更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので

よかったらまた覗いてください。


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