その204 「居場所」
悠馬君のおはなしはここで一区切りです!
夜、ハミルトン邸。
静かな廊下。
落ち着いた光が灯る。
悠馬が歩いている。
柔らかな足音が聞こえる。
扉は少し開いている。
中にはエレノア。
椅子に座っている。
手がお腹に添えている。
ふと気配を感じて
エレノアは顔を上げる。
「……悠馬?」
悠馬。
「起きていましたか」
エレノアは小さく笑う。
「ええ、少しだけ」
悠馬は中へはいり、扉を静かに閉める。
少し間。
悠馬が視線を
ほんの一瞬お腹へ落とす。
エレノアはそれに気づく。
でも何も言わない。
悠馬。が椅子を引いて
向かいに座る。
静かに時間が過ぎる。
エレノア。
「何か考えていた顔ね」
悠馬。
少しだけ考えて、それから言う。
「……はい」
エレノア。
「ルイスのこと?」
悠馬は頷く。
エレノア。
「聞いたわ。アメリカの話」
少し間。
悠馬。
「行く、と言っていました」
エレノアは静かに笑う。
「でしょうね」
悠馬。
「止めませんでした」
エレノア。
「止めたかった?」
悠馬。
少しだけ考える。
「……いいえ」
間。
悠馬は続ける。
「羨ましいと、思いました」
エレノアは少しだけ驚く。
悠馬。
「僕には…選択肢がなかったので」
エレノアは静かに聞く。
悠馬。
「逃げる場所も」
「選ぶ余地も」
少し間。
「最初から」
「ここでした」
静か。
エレノアがゆっくり言う。
「後悔してる?」
悠馬はすぐには答えない。
部屋は静か。
悠馬は視線を上げて、
エレノアを見る。
それから言う。
「いいえ」
少し間。
悠馬。
「今は、ですが」
エレノアはやわらかく笑う。
悠馬は続ける。
「ここにいる理由ができました」
エレノアが少しだけ息を止める。
悠馬の視線が
彼女、そして、お腹の子供に落ちる
「守るものがある」
静か。
エレノアが小さく笑う。
「それ、少し重たいわよ?」
悠馬はわずかに笑う。
「自覚しています」
少し間。
エレノア。
「じゃあ、私は?」
悠馬は一瞬、止まる。
それから、少し笑って言う。
「……同じです」
エレノアがくすっと笑う。
「まとめて?」
悠馬。
「はい」
少しだけ間。
エレノアが、
椅子から少し身を乗り出す。
「ねえ?」
悠馬。
「はい」
エレノア。
「逃げたくなったら?」
悠馬が少し考える。
それから言う。
「その時は」
ほんの少しだけ、柔らかく。
「一緒に逃げましょうか」
エレノアは一瞬、目を見開いて。
クスっと笑う。
「それ、いいわね」
部屋は静か。
外は少しの風。
部屋には柔らかな灯り。
二人。同じ場所。
ハミルトン邸。
その中で、悠馬は初めて、
“ここにいる理由”を、自分で選んだ。
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「エピローグ」
朝のやわらかい光。
ハミルトン邸。
静かな廊下。
足音がひとつ。
扉がゆっくり開く。
小さな部屋。
新しい匂い。
窓にはカーテン。
やわらかく揺れる。
小さな白いベッド。
全て整えられている。
揺りかごはまだ空。
小さな家具が並んでいる。
光が差し込む。
悠馬はそこに立っている。
部屋を見渡す。
ゆっくりと少しの間。
部屋の中は静か。
指先がベッドの縁に触れる。
ほんの一瞬、目を閉じる。
遠くから声が聞こえる。
「兄さんー!」
ノアだ。
「早く!エレノアさんが待ってるよ!」
悠馬は目を開ける。
少し振り返る。
扉に手をかけて。
ほんの少しだけ、部屋を見る。
新しい場所。
これからの場所。
ほんのわずかに、口元が緩む。
それから、背を向ける。
扉へ歩く。
開ける。
光。
外。
そのまま。
部屋を出る。
扉を静かに閉じる。
カーテンが揺れる。
光が残る。
ハミルトン邸。
その中で、新しい時間が始まる。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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