その180 「ロンドン(オフィス)」
やったね!
午後、ロンドンのオフィス。
窓の外には曇り空。
エレノアのデスクの上には、書類がいくつか並んでいる。
キーボードを打つ音。
静かな仕事の時間。
そのとき、軽くノックが聞こえた。
エレノアがふと顔を上げる。
ドアが開く。
悠馬だった。
エレノアは少し驚く。
「佐伯さん?」
悠馬は軽く頷く。
「こんにちは」
「ロンドンにいらしてたんですね」
「打ち合わせです」
それから少し間。
エレノアは椅子を示す。
「どうぞ」
悠馬は机の向こうに座る。
いつも通りの距離、仕事の空気。
エレノアが言う。
「何かありましたか?」
悠馬は少し考える。
「いえ」
それから続ける。
「少し時間があったので」
エレノアは少し笑う。
「珍しいですね」
悠馬は肩をすくめる。
「そうかもしれません」
数秒の沈黙、
それから悠馬が言う。
「クリスマスですが…」
エレノアが少し首を傾ける。
「はい?」
「予定はありますか」
エレノアは少し考える。
「まだ、きめていません」
「シャーロッテ嬢とは?」
「寮ですので…」
それから少し笑う。
「たぶん帰ってくると思います」
悠馬はかるく頷き、それから静かに言う。
「ハミルトンは」
「今年もアメリカに行くかもしれません」
エレノアは言う。
「去年はそうでしたね」
悠馬は少し考える。
それから言う。
「もし」
少し間。
「ロンドンにいるなら」
「食事でもご一緒にいかがでしょうか」
エレノアは少し驚く。
ほんの少し。
それから笑う。
「いいですね」
でも。
悠馬は続けない。
ただ、少し考える。
それから言う。
「エレノアさん」
エレノアは顔を上げる。
「はい」
悠馬は少し困ったように言う。
「恐れ入りますが、一つ」
「聞いてもいいでしょうか」
「どうぞ?」
悠馬は言う。
「私のこと」
少し間。
「どう思っていますか」
エレノアは、数秒黙る。
驚いた顔。
でも、嫌ではない。
ただ、少し困るだけ。
それから小さく笑う。
「それは…」
「難しい質問ですね」
悠馬は頷く。
「そうですね」
エレノアは少し考える。
それから言う。
「少し、、時間をもらえますか」
悠馬はすぐ頷く。
「もちろんです」
エレノアは続ける。
「ちゃんと答えたいので」
悠馬は立ち上がる。
「ありがとうございます」
それからドアへ向かう。
エレノアはその背中を見る。
ドアが閉まる。
静かなオフィス。
エレノアは小さく息をつく。
そして呟く。
「……困るわ」
でも、少しだけ。
笑っていた。
ロンドンの夕刻の空に、薄く日が差していた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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