その175 「秋の夜」
これ書いてる今はまだ春の初めなんですがね!
ハミルトン邸の夜は静かだった。
子供たちはもういない。
廊下を歩く音も少ない。
悠馬は書斎の灯りの下にいた。
机の上には書類。
ペンを走らせる。
いつもの仕事。
いつもの夜。
だだけど、今日は少しだけ違った。
悠馬はペンを止める。
ふと顔を上げた。
窓の外を見る。
庭は暗い。
昼間は静かな秋の光が落ちていた場所だ。
今は夜。
誰もいない。
悠馬は椅子にもたれた。
そのとき思い出す。
午後。テラス。紅茶の時間。
凛の声。
「兄さん」
悠馬は少しだけ眉を動かす。
凛は紅茶を飲みながら言った。
「分かりやすいのよ」
悠馬は答えなかった。
凛は笑った。
「昔から」
悠馬は小さく息をつく。
「……そうですか」
短く答えただけだった。
凛はそれ以上何も言わなかった。
ただ少しだけ、
面白そうにこちらを見ていた。
悠馬は机の上の書類を見る。
だが、目は文字を追っていない。
代わりに思い出す。
庭園。夕方。ベンチ。
そしてもう一つ。
ロンドンへ戻る前のエレノア。
「では、戻ります」
落ち着いた声だった。
悠馬はその時、ただ頷いた。
「気をつけて」
それだけ、それだけの会話。
それなのに。
悠馬は小さく笑う。
本当に、分かりやすい。
凛の言葉は間違っていない。
悠馬は椅子から立ち上がる。
窓のそばへ歩き、庭を見下ろす。
昼間は静かな秋の庭だった。
今は夜。
悠馬はしばらく外を見ていた。
それから小さく息をつく。
「……仕事ですね」
静かに言う。
机に戻る。
書類を手に取る。
ペンを持つ。
だが、書く前に一度だけ止まる。
「……エレノア」
小さく名前を呼ぶ。
それから首を振った。
ペンが動く。
書類に文字が並ぶ。
ハミルトン邸の夜は静かだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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