幕間 「秋の初めの想い」
エレノアさんサイド
午後のテラス。
お茶の時間。
庭園の向こうに秋の光が落ちていた。
凛がカップを置く。
エレノアも椅子に座っている。
静かな時間だった。
しばらくして凛が言う。
「ロッテ、もうドイツね」
エレノアはうなずく。
「ええ、そうですね」
凛が言う。
「元気そうだったわね」
エレノアは少し微笑んで言う。
「そうですね」
少し沈黙。
風がテラスを通る。
凛が紅茶を飲む。
それからふと聞く。
「ロッテに何か言われなかった?」
エレノアが顔を上げる。
「何か、ですか?」
凛は少し笑う。
「娘ってね」
「母親のこと、よく見てるものよ?」
エレノアは少し考える。
それから言う。
「……一つだけ、」
凛が聞く。
「何て?」
エレノアは少しだけ視線を外す。
庭園を見て、それから言う。
「佐伯さんのことを…」
凛は何も言わない。
エレノアが続ける。
「好きなのかと」
凛は小さく笑う。
「それで?」
エレノアは少し困ったように息を吐く。
「違うって答えました」
凛はまじめな顔で聞いた。
「嘘ではない?」
エレノアは少し考える。
紅茶のカップを持つ。
しばらく沈黙、
それから言う。
「……分かりません」
凛はエレノアを見る。
エレノアは庭園を見ている。
凛が言う。
「兄さんの事、好き?」
エレノアは首を振る。
「そこまででは…、」
「でも」
エレノアは小さく笑う。
「気になっているのかもしれません」
凛はうなずく。
「ええ、そう見えるわね」
エレノアが少し驚く。
「そうですか?」
凛は頷きながら言う。
「ええ、そうね」
少し沈黙。
凛はカップを置く。
それから言う。
「兄さんも…」
エレノアが凛を見る。
凛は肩をすくめる。
「分かりやすい人」
エレノアは少し笑う。
「そうでしょうか」
凛。
「ええ、そうよ」
それから庭園を見る。
芝生。
その向こう。
屋敷の窓。
凛が言う。
「まあ、」
「急ぐことでもないわね」
エレノアは小さくうなずく。
「そうですね」
静かに風が吹く。
葉が揺れる。
エレノアは紅茶を一口飲む。
それからふと、
屋敷の方を見る。
何かを探すように。
そしてすぐに視線を戻す。
凛はそれを見ている。
でも何も言わない。
ハミルトン邸の秋は、ゆっくり動き始めていた。
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午後。書斎。
窓から秋の光が入っている。
机の上。書類。
エレノアが資料を並べていた。
「ロンドンの件です」
悠馬は書類を受け取る。
目を通す。
「ありがとうございます」
短い会話。
いつも通りだった。
エレノアが続ける。
「こちらが会議の資料」
悠馬はうなずく。
「問題ありません」
エレノアは少しだけ間を置く。
それから言う。
「今日、凛様と紅茶をいただきました」
悠馬は少し顔を上げて言う。
「そうですか」
エレノア。
「はい」
少し沈黙。
悠馬は書類を閉じる。
エレノアを見る。
ほんの一瞬。
それから言う。
「仕事は順調ですか?」
エレノアは少し笑う。
「ええ、とても」
「佐伯さんのおかげで」
悠馬は首を振る。
「あなたのおかげです」
エレノアは少し驚く。
ほんの一瞬だけ。
それから言う。
「ありがとうございます」
また沈黙。
書斎は静かだった。
外で風が木を揺らす。
悠馬は書類を整理する。
それから言う。
「この件ですが」
エレノアはすぐに答える。
「はい」
仕事の会話。
正確で無駄がない。
”いつも通り”
でも、エレノアはふと気づく。
悠馬の視線。
ほんの一瞬。
こちらを見ている。
そして、すぐに書類に戻る。
エレノアは何も言わない。
ただ資料を整える。
それから言う。
「では次の資料を」
悠馬。
「お願いします」
また仕事に戻る。
静かな時間。
エレノアはふと窓を見る。
秋の光。
それから机の向こう。
悠馬を見る。
悠馬は書類を読んでいる。
いつも通りの顔。
変わらない。
でも。
エレノアは小さく思う。
「……気のせい?」
そしてまた資料を見る。
仕事は続く。
ハミルトン邸の秋は、静かに動き始めていた。
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『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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