その151 「夏の客人XIII(テラスディナー)」
友人に会いに行ったとき、東京駅で2時間ほどさまよいました。はい。立派な迷子でした。出られないのではと一瞬本気で思いました。
夏の夜。
ハミルトン邸のテラスは灯りで柔らかく照らされていた。
だけど今夜は昨夜ほど形式ばっていない。
長いテーブルはない。
代わりに小さな丸テーブル。
料理はビュッフェ。
ワインも自由。
立食だった。
重役たちがゆるく集まっている。
笑い声。
仕事の話。
世間話。
ロッテはテラスの端にグラスを持って立つ。
そして思う。
(昨日よりずっと楽)
隣でレオンが言う。
「どうだ」
ロッテは肩をすくめる。
「社交」
レオンが笑う。
「そうだな」
その時、後ろから声がかかる。
「ロッテ」
振り向くと、イーサンだった。
今日はジャケットなし。
シャツだけ。
明らかに大人の集まりに混ざっている。
ロッテが言う。
「子供は不参加じゃなかった?」
イーサンが笑う。
「一応」
「でも立食だからいいって」
ロッテは言う。
「ずるくない?」
イーサンが肩をすくめる。
「君も来てるじゃん」
ロッテは言う。
「私は招待だもん」
イーサンが笑う。
「僕もだよ?」
ロッテは少し疑う。
「本当?」
イーサンは料理を取る。
「たぶんね」
「叔父さんが呼んだんじゃないかな」
ロッテが聞く。
「どっちの?」
イーサンはテラスの奥を見る。
「多分、両方」
ロッテが視線を追う。
そこにいた。
ノア、そして。
佐伯悠馬。
二人が重役たちと話している。
ノアは笑っている。
悠馬は静かに話す。
ロッテが言う。
「不思議ね」
イーサンが聞く。
「何が?」
ロッテは少し考える。
「この家…」
イーサンが笑う。
「説明してよ」
ロッテは指を折る。
「威厳のある前伯爵」
「子供みたいな叔父」
「たくさんの子供」
「大きな森」
イーサンが頷く。
「全部本当だね」
ロッテは最後に言う。
「そして、ウサギ」
イーサンが吹き出す。
「まだ言うんだ」
ロッテは真顔。
「昼はそう見えたわ」
イーサンが聞く。
「今は?」
ロッテはテラスの奥を見る。
悠馬が話している。
重役が頷く。
レオンが静かに聞いている。
ロッテは言う。
「違うかな…」
イーサンが言う。
「何に見える?」
ロッテは少し考える。
それから答える。
「……分からないわね」
イーサンは笑う。
「危ない人、かな」
ロッテが眉を上げる。
「危ないの?」
イーサンは言う。
「怒らせるとたぶんめちゃ怖い」
ロッテは少し笑う。
「それは分かるかも」
その時、ノアの声。
「イーサン!」
二人が振り向く。
ノアが手を振っている。
「こっち来い!」
イーサンが言う。
「行く?」
ロッテは肩をすくめる。
「面白そうね」
二人はテラスの中央へ歩く。
その途中。
悠馬がちらりとこちらを見る。
一瞬だけ目が合う。
ロッテは思う。
(ウサギじゃない)
でも。
まだ正体は分からない。
ハミルトン邸の夏は、思ったよりずっと騒がしい。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
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