その150 「夏の客人Ⅻ(迷子)」
古い屋敷にあるような秘密の階段ってワクワクするよね?
午後、雨はまだ降っていた。
ハミルトン邸の廊下は静かだ。
子供たちは昼食のあと、すぐに消えた。
凛が言う。
「ルイスは?」
リリーが答える。
「さっきまでいた」
タイラーが言う。
「マックスもいない」
少しの沈黙。
凛が眉を寄せる。
「……また?」
ノアが笑う。
「探検だろ」
凛が睨む。
「あなたも行ってたでしょ」
「一回だけだけだよ」
「三回は行ってるわね」
「記憶違いだよ」
凛はため息をつく。
その時。
悠馬が廊下の向こうから来る。
書類を持っている。
凛が言う。
「悠馬兄さん」
悠馬が止まる。
「どうしましたか?」
「ルイスたち知らない?」
悠馬は少し考える。
「昼食後?」
「ええ」
「四人とも?」
「そうね」
悠馬は静かに頷いて少し考える。
それから言う。
「屋根裏ですね」
ノアが笑う。
「断言かよ」
悠馬は答える。
「昨日行ってますしね」
凛が言う。
「……やっぱりね」
悠馬は少しだけ考える。
それから歩き出す。
「行きましょう」
ノアが後ろから言う。
「俺も行くよ」
悠馬は振り向かない。
「結構です」
「なぜさ」
「騒がしくなりますから」
ノアが笑う。
「否定はできないな」
二人は階段を上がる。
屋根裏。
古い廊下。
小さな使用人部屋。
ドアは閉まっている。
悠馬が開ける。
ギィ……
中はからっぽ。
机。
ベッド。
窓。
そして。
壁。
悠馬が壁を見る。
ほんの数秒。
それから手を伸ばして、板を押す。
ギッ…と動く。
カタン、と通路が開く。
ノアが笑う。
「ビンゴ!」
悠馬は通路を見る。
中は暗く静か。
それから言う。
「多分、迷子ですね」
ノアが肩をすくめる。
「まだ入っただけかもよ?」
悠馬は少し首を振る。
「ルイスは…」
「帰り道を確認する性格です」
ノアが言う。
「つまり」
「戻れなくなったと」
ノアが楽しそうに言う。
「冒険じゃん」
悠馬が通路に入る。
足音が響く。
石の壁。
古い空気。
ノアが後ろを歩く。
「兄さんよく知ってるな」
悠馬が振り向かずに答える。
「管理してましたから」
通路は曲がる。
さらに曲がる。
そして。
遠くで声。
「……こっちじゃない」
小さい声。
子供。
ノアが笑う。
「いた!」
悠馬は足を速める。
曲がる。
その先。
四人がいた。
ルイス。
マックス。
タイラー。
リリー。
地図の前で止まっている。
マックスが言う。
「ここじゃないみたい」
タイラーが言う。
「ここはさっき通ったよ」
リリーが言う。
「もう、分かんない」
ルイスは黙っている。
そして、振り向く。
悠馬を見つける。
ほんの数秒。
ルイスが言う。
「悠馬叔父さん!」
悠馬は静かに言う。
「何をしてるんですか?」
マックスが言う。
「冒険してたんだ…」
悠馬は少しだけため息をつく。
「迷子ですね」
ノアが笑う。
「正解だな」
子供たちが振り向く。
「ノア叔父さん!」
ノアが手を振る。
「楽しそうだな」
ルイスが言う。
「出口が分からないんだ」
悠馬が頷く。
「当然ですね」
ちょっと通路を見る。
それから言う。
「こっち」
子供たちがついてくる。
曲がる。
また曲がる。
少し歩く。
突然、その先に光
小さな扉を悠馬がそっと押す。
すると、外。
森だった。
雨の匂い。
濡れた土。
マックスが言う。
「外!」
タイラーが笑う。
「すげえ!!」
リリーが言う。
「秘密基地ね!」
ルイスは少し考える。
それから言う。
「屋敷の外?」
悠馬が頷く。
「敷地内です」
ノアが笑う。
「昔の密会通路だな」
悠馬は静かに言う。
「たぶんそうですね」
子供たちは森を見る。
ワクワクしている。
その時。
悠馬が言う。
「戻りますよ」
子供たちが一斉に言う。
「えー!」
ノアが笑う。
「正しい判断だな」
悠馬は言う。
「次は許可を取ってください」
ルイスは少し考える。
それから頷く。
「分かった」
でも。
ルイスとマックスが目を合わせる。
小さくくすくすと笑う。
悠馬はそれを見ている。
そして小さく言う。
「……また来ますね」
ノアが笑う。
「絶対来るな」
雨はまだ降っていた。
ハミルトン邸の夏は、少しだけ秘密が増えた。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
『佐伯悠馬の結婚事情(仮)』始まりました。
結婚する気がない男の結婚事情(仮)です。
相変わらず周囲がうるさく、悠馬の胃が忙しいです。
更新はのんびりですが、完結まで書いていく予定なので
よかったらまた覗いてください。
感想・フォロー等とても励みになります!




