復讐者現る
一行が公園に進むにつれて、人通りがどんどん減っていく。
アティシアの人払いが効いているのだ。
公園に辿り着く頃には、周りには人影はすっかり無くなっていた。
流石に素人の尾行者も不審には思っただろうが、今さら後には引けないようで、そのままついてきた。まあ、その辺りが素人なのであるが。
ある程度、公園の中を進み、広場にでると、スティーグはくるりと振り返る。
「下手な尾行はいい加減止めたらどうだ? バレバレだぞ」
スティーグがそう告げた後、一拍置いて木の陰から一人の人物が現れた。
一行はその姿に意表を突かれた。
その人物は女性だった。
生徒達とそれほど年が変わらないであろう少女が立っていたのだ。
金髪のショートヘア。背丈は160cm程度。女性でも動ける様に設計されたレザーアーマーを装着しており、剣も携えていた。
整った顔立ちをしていたが、その吊り上がった視線がすべてを台無しにしていた。
スティーグを睨むその視線は憎しみ以外存在せず、強い殺意が宿っていた。
「なんで俺をつけた? 俺のファンか? サインがほしいなら金貨一枚でやるぞ」
憎しみ以外存在しない眼差しを受けても、スティーグは相変わらずの軽口を叩く。
少女は更に眉間にしわを寄せ、口を開いた。
「念のため確認しておく。貴様は魔人スティーグ、間違いないな?」
「違う」
「え?」
他の仲間達が『魔人スティーグ』という言葉に反応したにも拘わらず、当の本人は全く気にせずに、ノータイムで嘘を吐いた。
魔人とは探している本物の魔人ではなく、カルドニアが圧倒的脅威であるスティーグに付けた忌み名である。
それをこの少女は知っている。
完全にスティーグであると認識している。
なのだが、あっさりと否定され、少女は戸惑っている様子だった。
それを良いことに、だ。
「俺はマジカルドリームリリーちゃんだ。日々世界の平和を守っている」
『・・・マジカルって』
流石にふざけ過ぎだろうと少女達は引いていた。
目の前の金髪少女も自分がからかわれている事に気づき、奥歯をギリっと力を込めた。
「ふざけるな! 私はあそこにいたんだ。貴様との決戦の地、コリムンダル要塞に!!」
『!!』
少女達は驚く。
その要塞は昨年、少女達を含めてスティーグが七万のカルドニア軍と戦った場所だからだ。
これは流石に隠し通すことはできないと思ったスティーグは、面倒そうに頭をかく。
「・・・正直甘く見ていたな。魔導ネットもTVも写真もないこの時代で人物を特定するなんて、難しいと思っていたんだがな」
「訳の分からない単語を並べて、煙に巻くつもりか!?」
「別に。で、なんだ? 宿敵である俺に喧嘩を売りに来たのか?」
ようやく本題に入った事に少女は小さく息を吐き、スティーグに尋ねた。
「私の名はエマ・シモーニ。このシモーニという姓に心当たりはあるか?」
「いや、ないな」
僅かに視線を外し、考える素振りを見せた後にスティーグは率直に答えた。
その返答がお気に召さなかったのか、エマと名乗る少女は更に険を強めた。
「・・・では、ユリウス・シモーニという名にこころ」
「知らん」
今度はエマが言葉を言い終わる前に全く無慈悲にスティーグは言い捨てる。
エマは激怒した。
怒りのあまり、声を震わせながら、言葉を紡ぐ。
「・・・そうか。ならば教えてやる。ユリウス・シモーニとは我がカルドニア軍の最高司令官である大将の名。貴様に殺された我が父の名だ!」
少女達に衝撃が走った。
確かにスティーグはあの戦いで、指揮官である大将を殺害した。
目の前の少女がその大将の娘?
それならばエマがスティーグを憎むのは当然の話。
少女達はかつてない程に戸惑った。
これまでの相手は彼女達にとっては、正義と悪に二分するのであれば、悪と呼べる事が多かった。
では、この目の前の少女はどうか?
仇であるスティーグに復讐することは果たして正義か悪か。
重い命題を突き付けられたのだった。




