力の使い方
それはリセリアの悲痛の叫びだった。
どんなに悪ぶっていても、最後はスティーグには正しくあってほしかった。
リセリアの憧れであってほしかった。
リセリア自身自覚はなかったが、スティーグはリセリアのヒーローだったのだ。
スティーグはうんざりした様子でため息をつく。
イラっとした。
「それ嫌いなんだよな。力がある奴はその力を誰かの為に使わなきゃいけないってやつ」
「こ、この野郎」
お姫様にあるまじき言葉を使いつつ、リセリアは青筋を立てる。
感情とは別の部分でリセリアはスティーグの言っていることを理解できていた。
仮にだ。
どこか遠い地で地震や台風などの天災が起こったとしよう。
それを聞いて多くの人はこう思うだろう。
『気の毒だな』と。
大多数の人達はそう思う。
だが、その次に思うのは自分達の所で起こらなくてよかった。そんな事態が自分達に振りかかったらどうしよう、といった事ではないだろうか?
気の毒だとは思う。
だがそれだけだ。
見たこともない人間の為に何かアクションを取ろうとは思わない。
無論、ボランティアで救助に向かう者もいる。
それはとても尊い行いだ。尊敬すべき事だ。
だが、大多数は自分達の生活で手一杯で見ず知らずの他人にまで手が回らないのだ。
ノブレスオブリージュ。
ここで言う、その本来の意味は端的に言うと『財力』だ。
貴族の持つ財力(力)を弱き者の為に使う。
仮に天災が起こった場合のノブレスオブリージュとは人材の派遣や物資の調達等の支援にお金を使う事だ。
自らの手で遠い地まで救助に向かう訳ではない。
物思いにふけっている中、スティーグは自分の胸に手を当てる。
「俺は自分の意志で、自らの目的の為に力を手に入れた。誰も彼もを救うために力を欲したわけじゃない」
わかっている。リセリアもあの場にいたのだ。
スティーグが力を得るためにどれだけ危険を冒したのか、何の為にしたのか、リセリア自身十分理解している。
「だから、見知らぬ誰かを助けない事に、俺はこれっぽっちも罪悪感を覚えない。だがまぁ、お前を傷つけた事は確かだ。その事を謝りに来た。悪かったな」
「・・・何よそれ」
納得いかない。頭ではなく、感情がそれを許さない。
なのに、スティーグは純粋にリセリアの為に来たのだ。
その事が嬉しい自分もいて、それがまた悔しいのだ。
「明後日、俺はカルドニアに向かう」
謝罪が済むと、さっさとスティーグは話題を変えた。
「生徒の子達も一緒な訳?」
「どうしても付いてきたいって言うんでな」
それはそうだろう。
シャルロッテの一幕でも分かる通り、彼女達はスティーグの力になりたくて仕方ないのだ。
本当は明日にも出発するつもりでいたとスティーグは言う。
だが、これだけの大所帯となると、準備が必要だ。
結果、準備に一日使う事となったらしい。
「私は行かないからね」
「当たり前だろ。寧ろ付いてきたらビビるわ」
「・・・」
立場上、リセリアが行かないことは至極当然なのだが、そう言われてしまうと頭にくる。
「じゃあな。帰ったら土産でもくれてやるよ」
「あ、ちょ、ちょっと!」
言うだけ言うと、スティーグは空を飛んで行ってしまった。
なんの未練もなさそうに、あっさりと。
「・・・ばか」
リセリアはポツリと呟く。
そして、今さらだが身体が冷えてきたことに気が付いて、部屋に戻ろうと振り返ると、そこのはメイが立っていた。
「げ!」
「『げ』ってなんですか。姫様、言葉遣いには注意してくださいよ? 私、そろそろ公の場でボロが出ないか本気で心配です」
「い、いつから見てたの?」
「んー、スティーグ様がふわふわ浮いてやって来たところから?」
「最初からじゃない!!」
「まあ、それはどうでもいいんですよ」
「よくないわよ! 寧ろ大問題よ!!」
「些細なことは置いておいて姫様」
「些細って、ああ、もういいわよ。なんなの?」
この女にとやかく言っても時間の無駄と判断し、リセリアは先を促す。
メイは首を傾げ、にっこり笑ってリセリアに問う。
「どうします? 今度は姫様が応える番じゃないんですか?」
「・・・解ってるわよ」




