旅の準備
「でもあれですよね。スティーグ様は何だかんだでカルドニアに行くわけですよね?」
「そうなんじゃない?」
メイの言葉にリセリアは素っ気なく答えた。
だが、気になっていることは長い付き合いのメイにはバレバレで、必死に『私、全然興味ありません』とアピールしているだけだった。
「生徒さん達も一緒に行くんでしょうかね?」
「さあ? 授業もあるでしょうしね」
二人は帰路に着きながら、そんな事を話していた。
「でも、ミラさんと妹さんは付いていきそうですよね」
「そう、かもね」
「そうすると、あれですね。男一人と女二人で旅をするって事ですよね?」
「ふぇ!?」
思いがけない言葉に、リセリアはひどく取り乱した。
「た、旅! 一緒に寝泊りするって事!?」
「そりゃあ、ここからカルドニアまでは遠いですから。往復で二、三週間はかかりますからね」
「そ、そうね。確かにその通りだわ」
リセリアは失念を恥じたが、何だろう、この悶々とした気持ちは。
「生徒さん達も付いていったら、もう酒池肉林て感じですね」
「ぶゅうお!! ななななな、何言ってるのメイ!?」
変な声で噴き出してしまったが、メイの発言はリセリアの理性を吹き飛ばすには十分だった。
「馬車を使ったとしても、狭い荷台にあれだけの人数が寝る訳ですよ。間違いの六つか七つくらい起きますよ」
「起きないわよ。そんなに起きるわけがないでしょう!!」
「あ、姫様も付いて行って混ざろうとしてはいけませんよ? 最近まで敵国だった国に、その国の姫君が行くなんてとんでもないですからね」
「混ざ!? そんな事するわけないでしょう!」
お忍びにも関わらず、リセリアは大声で否定したのだった。
因みに二人はアドルフの事を完全に忘れていたわけだが、ここにアドルフはいなかった。
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「さて、明日にでも出発するか」
善は急げ。報酬に目が眩んでいるスティーグは、すぐにでも出発するつもりでいた。
生徒達は色めき立つ。
「当然、私達も付いていきます」
「ダメ」
「ええぇーーー!」
当たり前の様に付いて行くつもりでいた生徒達は、あっさり拒否され不満の声を上げた。
「お前ら学園があるだろうが」
「そんなの今更じゃないですか」
優等生とは言えないステラがブーイングを浴びせた。
「今回の旅は前回とは違うぞ。カルドニアの公都まで行くし、主な任務は言ってみれば人探しだ。いつ見つかるか分からん。下手をしたらいつまで経っても帰れなくなるぞ」
「だ、だからこそ、人手は多いに越したことはないと思いますわ」
先ほどの事もあってか、シャルロッテが意気込んで答える。
スティーグは頭をかいた。
「お前らまだ学生だって事を忘れるなよ? 座学も大事だぞ。特にクレア、お前はな」
全員を見回した後にスティーグはクレアに目を止める。
ぶっちゃけて言うと、特別クラスの生徒達の戦闘レベルは既に十分だった。
無論、まだ伸びしろはある。
スティーグが指導すれば、彼女らはまだまだ強くなるだろう。
だが、強さは相対的なものだ。
学生レベルで彼女達に敵う相手など、もう存在しないし、国全体を見渡してもまともに戦える人間の方が少ないくらいだ。
それよりも今彼女達が学ぶべきは知識。
特にクレアだ。
シルフィーとシャルロッテは、国立騎士団に所属する事を既に表明しているし、ステラとセリスも冒険者を希望している。
だが、クレアだけは実家の武器屋を継ぐ可能性があった。
ならば、経営学や流通の勉強をするべきだ。
クレアはスティーグの言った事を正しく理解した。
その上で、クレアは言った。
「先生、あたしは将来、商会騎士団に所属するつもりです」
「商会騎士団?」
クレアは説明する。
「商会騎士団て言うのは、用心棒みたいなものです。行商にでる商人の護衛をしたり、大きな商会の警備をしたり、時には商品の素材を採集したりします」
「なんか、冒険者と似てますね。いわば商売敵っすか?」
ステラは渋い顔をしながら、頷く。
「そのためにはやっぱり強くなきゃいけない。それに色々な街に行って見聞を広めるのも大事な事なんです」
クレアは自分がカルドニアに行く正当な理由を提示する。
スティーグは小さくため息をついた。
それをクレアは同行を許可されたと受け取り、顔を綻ばせた。
「はいはーい! あたしも見聞必要です」
「あたしも」
ステラとセリスは手を上げて、同行を希望する。
「元々私は卒業していますから、同行するのに何の問題もありません」
シルフィーはドヤ顔で胸を張った。
彼女は元々全ての単位を修得して卒業した。
今ここにいるのはアドルフと軍の最高幹部であるラーゼン元帥の計らいなのだ。
「当然私も付いていきます。ついていかない道理がありません」
アティシアは前言通り、当然と断言する。
スティーグは流石に諦めたようでやれやれと首を振ったのだった。




