魔人からの依頼
「魔人の、王・・・」
シルフィーが目を見張り、スティーグの言葉を繰り返した。
そんな大物が一体、何故急に現れたのだろう?
よもや、以前倒した魔人の報復だろうか?
となれば、標的はアティシアと特別クラスの生徒達である。
だが、魔人はスティーグ以外は全く眼中にないようで、スティーグに話しかけた。
「今はスティーグと名乗っているそうだな。汝に頼みがある」
「あんた程の人がわざわざ俺に?」
「単刀直入に言おう。こちらの世界にいる外道召喚士を見つけ出し、我らに差し出してほしい。生死は問わない」
「外道、召喚士?」
スティーグは首を傾げた。
バアルは小さく首肯する。
「ここ最近、我らの同胞が、こちらの世界に強制的に召喚されている。しかも、何らかの呪いをかけられ、完全に自我を崩壊させられて、だ」
『!?』
生徒達は激しく動揺した。
それは彼女達が先の事件で戦った魔人の事ではないのか!?
「汝らが我らの同胞を殺めた事もわかっている」
『っつ!?』
自分達のしたこともハッキリと把握されている。
この魔人はスティーグと知り合いらしいが、同胞を殺されたとあっては報復の為に行動する可能性は高いのではないかと思われた。
冷たい汗が頬を伝う。
「自我が崩壊してしまった者達を元に戻せる方法は、今の所見つかっていない。故に、汝らを糾弾するつもりはない」
バアルの言葉を聞いて、生徒達はほっと胸を撫で下ろした。
正直、勝つビジョンが全く思い浮かばなかったのだ。
「それで、代わりという訳ではないが、この依頼、引き受けてもらえぬか?」
「うーん。それって強制?」
生徒達は動悸を激しくしながら、二人の会話を見守った。
バアルが殺された仲間の話を持ち出したのは、交渉を有利に進めるためだろう。
スティーグもそれをわかっているはずだが、全く負い目などを感じている様子がない。
図太いというか、無神経というか、一つ間違えればこの化け物と戦う事になるとは考えないのだろうか?
「それならば、こちらで勝手にやらせてもらうだけだ。だが、我らに細かく人間を判別できるとは思わぬことだ。周りに相応の被害が出ることは覚悟してもらおう」
ピシっと空気が張り詰めたのがわかった。
つまり、バアルはこう言っているのだ。
その外道召喚士が何人いるのか分からないが、その人物達を見つけ出すためなら、周りの無関係な人間達が何人犠牲になってもかまわない、と。
「居場所は分かっているのか?」
「魔力を辿り、おおよその位置は分かっている。ここからは遠い地だ」
「ふぅん。それなら別に勝手にやってもらって構わないけどな」
「ちょっと!?」
リセリアは思わず、非難の声を上げた。
スティーグの発言は、無関係の者達を見殺しにすると言っているも同じだったからだ。
「そうか。一応報酬を用意したが、無用だったようだな」
「・・・今なんと?」
「正式な依頼であるから、当然報酬を用意している。そちらの通貨もあるが、こちらの方が分かりやすかろうと思ったが」
そう言ってバアルは外套の中からごそっと金塊を取り出した。
「こ、これ金か!」
「うむ。無論、これはただの手付金。成功報酬はこれをうず高く積むつもりだったが、まあ良い。こちらで勝手にやらせて」
「是非やらせてくれ!」
クズ野郎はあっさり前言をひっくり返した。
「人としてこれは見過ごせない。協力しよう」
「そうか、やってくれるか」
バアルはまるで感情を出すことなく、ただ頷いた。
「それで、ここから遠い地って言うのはどこなんだ?」
「うむ、ここより北の地、人間達はこう呼んでいる。カルドニア公国と」
『カルドニア!!』




