物語は動き出す
BBQもお開きとなり、皆で片づけを始めた。
だが、シルフィー以外の動きは心なしか鈍い。
楽しかったし、とても美味しかったはずなのに、この何処かやるせない気持ちはなんだろうか?
「先輩。いつもお家でもあれぐらい食べるんですか?」
クレアが当然の疑問をぶつけた。
シルフィーの家は由緒正しき騎士の家系で爵位も下賜されている。
だが、毎日あんな食事をされたら金がいくらあっても足りないと思う。
「家では質素倹約を旨としています。私にはおかわりは許されていないのです」
『ああ、そうでしょうね』
一同は異口同音で頷いた。
そうでなければ、家計は火の車のはずだ。
納得いった一同は黙って、手を動かし続けた。
片付けも終わり、解散の運びとなって、リセリアとメイが先に帰ることとなった。
アドルフが王宮まで護衛を兼ねて、送る段取りであった。
「別にいらないんだけど」
「まあまあ、姫様。ここは甘えましょ?」
どこか憮然とするリセリアをメイが宥める。
アドルフは若干緊張しているようにも見えるが、同時に誇らしそうでもあった。
「この命に代えても、リセリア様をお護りいたします」
「いや、ただの送り迎えで命かけられても困るから」
バリバリに仕事モードに入っているアドルフを前に、リセリアはパタパタと手を振って苦笑する。
「スティーグ。今度はあんたが王宮に顔出しなさいよ」
「わかったわかった」
適当に流すスティーグを見て、少し唇を尖らせたリセリアであったが、多くは言わずに黙って立ち去ろうとした。
その時、スティーグが普段の気だるげな表情を一変させ、恐ろしく真剣な顔で空を見上げた。
次の瞬間、空が消えた。
正確には一瞬にして空が闇に包まれた。
現在の時刻は午後を少し回った頃あいである。
因みに日食という訳ではない。
「え!?」
皆が驚いて慌てて空を見上げる。
突然の天変地異にどうしていいのかわからない様子であった。
更に事態は変わる。
スティーグ達の目の前に真っ黒い渦の様なものが現れたのだ。
「!?」
その渦からヌッと何者かが姿を見せた。
それを見た瞬間、生徒達は緊張で身体を震わせた。
現れた存在の見た目は、頭に生えた二本の角、褐色の肌、赤い瞳。目の前のそれは全身を覆う外套を羽織っているが、それは彼女達が以前戦った魔人の特徴を一致していた。
瞬時の武器に手を伸ばそうとしたが、その瞬間に喉が干上がる感覚に襲われた。
違う。
目の前のコレは以前戦った魔人とは全くの別物だ。
放たれる威圧感が以前戦った魔人とは文字通り桁違いだ。
なまじ、力をつけてしまったから解ってしまう。
勝てない、と。
自分達が如何に、見事な連携を取ろうと、奇策を巡らせようと、どうしようもない圧倒的な力でねじ伏せられてしまうと理解してしまった。
恐怖と威圧感で全く動く事が出来ずにいた。
「ひぃ、あ・・・」
こんな事態に全く免疫のない、リセリアとメイは生徒達以上に動揺していた。
当然だが、事態に全くついていけていない様子だった。
「大丈夫ですよ」
そこにアティシアは真剣ながら、落ち着いた様子で、皆に笑って見せた。
どういうことなのか、判断できない内に、スティーグが一歩前に出た。
「驚いた。まだ生きていたんだな」
「久しいな。王よ」
「ああ、そっちとしてはそれこそ一万二千年ぶりか」
スティーグがニヤリと笑い、魔人は全く表情を崩さずに憮然としながら、二人は言葉を交わす。
「さて、あんたの様な大物がこっちの世界にわざわざ何の用かな? 魔人の王バアルよ」




