BBQ
闘技場中央ではミラ、メイ、アドルフと生徒達がせっせとBBQの支度をしていた。
そんな彼女らが頑張っている中で、スティーグはすみっこでどうしようもなくダレていた。
「いつまで寝ているつもり? さっさとこっち来て手伝いなさいよ」
腰に手を当てて、スティーグを見下ろしながらリセリアは文句を言った。
アティシアも頷き、リセリアに同意を示した。
スティーグは見下ろす二人に視線を向けて何やら考えていた。
「いやなに。少し選択を迫られていてな」
『?』
二人は顔を見合わせた。
スティーグが悩むというのは珍しいと思うし、『選択』という言葉からお金の事ではないと思う。
「何よ何よ。何か悩みがあるなら言ってみなさいよ」
「私達でよかったら相談に乗りますよ?」
スティーグの顔を覗き込みながら、二人は心配そうに声をかけた。
スティーグは如何にも悩んでますという顔をしながら、言った。
「う~ん。金の刺繍の白か、淡い水色か、それが問題なのだ」
それを聞いた瞬間、アティシアは即座にスティーグからずざざざっと遠ざかった。
「姫様、離れて!」
「え、急にどうしたの? あと何度も言ってるけど、ここでは私の事はリセリアって」
「いいから! すぐにそのケダモノから離れてください!」
リセリアは眉をひそめて、首を傾げた。
まだ短い付き合いだが、基本、アティシアはスティーグを尊敬している。
そんなアティシアの口からケダモノなんて言葉が出るとは思わなかった。
そして、はたとリセリアは思い至る。
自分と寝ているスティーグの立ち位置を。
自分がスカートを履いているということを。
スティーグが口にした金の刺繍の白と言うのが何を指しているのかを。
それに気が付いた時、リセリアは怒りと羞恥で湯気が出そうなほど顔を赤く染めた。
だが、リセリアはアティシアの様にスティーグから離れるという選択を取らなかった。
スカートを押さえ、思い切りスティーグの顔を踏み潰しにかかったのだ。
「死ね! 今すぐ死ね! 変態歩く性犯罪者女の敵。今すぐに脳みそぶちまけて死ねーーーー!!」
「うぉ!? 痛い痛い、マジで痛い。止めろコラ。洒落にならねーぞ。あ、すいません。ほんとに止めて」
なすがまま顔を踏まれ続ける兄を、アティシアは絶対零度の瞳で見つめたものだった。
*********
顔面を潰されかけたスティーグの事などなかった事にして、スティーグ以外の面々は楽しくBBQを始めた。
用意された炭火の上に鉄板を敷き、美味しそうな肉をジュウっと焼いていく。
皆、今か今かと焼けるのを見守った。
「いっただっきまーす!」
我先にとステラが肉をフォークで突き刺して、自分の皿に運んだ。
まずは塩だ。
ちょんとつけて、口に肉汁したたる肉を運んだ。
「んま~い!!」
口の中でとろけていく肉を噛みしめながら、ステラはほっぺたを押さえた。
他の面々も焼きあがった肉を皿に運んで頬張った。
「ほぃしい。本当に美味しいです~」
クレアは心の底から幸せそうな顔で肉を食べる。
皆、心から幸せそうな顔をしていた。
さて、ブレメン牧場の肉を始めて口にしたメイはそのあまりの美味しさに驚愕した。
「こんな、こんな美味しいお肉があるなんて、王宮で食べるお肉よりずっと美味しい・・・」
メイもリセリアの計らいで、宮廷料理を拝借している。宮廷の料理も十分すぎるほど美味しいのだが、この肉は次元が違う美味しさである。
宮廷料理人は、もしこの肉を食べたら眩暈を起こすのではないかと、メイは本気で思った。
その隣で肉を口にしたリセリアはまた違った驚きを実感していた。
「あひ、あひ、あつ、あっつい!?」
リセリアは口に入れた肉の熱さに身もだえしていた。
王族の定めか、長い毒見を経てリセリアまで運ばれてくる料理は冷めていることが多い。
よくて、ほんのり温かい程度。
こんな熱を通したばかりの焼き立て肉を食べた経験などないのだ。
幼い頃から熱々の料理を口に運んでいる人間ならば、ホフホフと空気を口に入れるなり、口の中で転がすなど、熱い料理を食べる方法を自然に学ぶものだが、初めての経験のリセリアにはそれができなかった。
かと言って、一度口に入れた食べ物を吐き出すなど、淑女であるリセリアにはできない。
出すことができないなら、取るべき選択肢は一つしかない。
リセリアはほとんど噛んでもいない肉をゴクリと飲み込んだ。
「~~~~!!」
灼熱の肉が喉を通過し、そのまま食道を通って胃に入った。
体内に入って尚熱い肉に、リセリアは悶絶した。




