だれるスティーグ
「人は何故働くのだろうか?」
スティーグは特別闘技場のすみっこで大の字に寝っ転がり、空を見つめながらそんな事を呟いた。
空は雲一つない晴天である。
しかし、スティーグの心中はどうしようもなく曇天だった。
貯金があまりないと分かったあの日から、スティーグはガラにもなく真面目に仕事に精を出した。
先日の盗賊団『新月』から有名商会の財産を守ったことを皮切りに、他の盗賊団、反社会勢力を複数壊滅。
意外な調査能力と推理力を駆使し、脱税、横領、横流し等をしていたエリック派閥の貴族の悪事を暴く事に貢献。
モンスターが出れば即座に討伐。
辺境の地で山賊が暴れていると聞けば、飛行魔法でひとっ飛びして殲滅。ついでにため込んでいた金品財宝を拝借。
生徒を引き連れて、実習訓練と称して、ダンジョンを攻略して内部の宝をゲット。
たった数日で一流冒険者がグループで一、二月かかる数のクエストをほぼ一人でこなしてしまった。
王都の冒険者ギルドを中心に、『英雄スティーグ』の名声は更に高まった。
だが、スティーグはもちろんそんな事は嬉しくもなんともない。
むしろ、鬱陶しいだけだった。
「そも、何故人は働かなければならないのだろうか?」
なんだかもう色々駄目な発言を、一層気だるげに呟いた。
動いている時はまだいいが、ぽっかり時間が空いてしまうとどうしようもない倦怠感が襲ってくる。
かつて、古代王朝で精力的に活動していた反動か、スティーグはこの時代にきて怠け癖がついてしまったようである。
この時代にきてしばらくは、見聞を広める為に世界を旅する資金を稼いでいたが、自由を得た解放感と、見知らぬ世界を旅する好奇心が先行し、それほど労働も苦痛とは感じなかった。
だが、今はただ生きる為に生活資金を稼ぐ毎日。
どうしようもなく『働かされている感』が拭えないのである。
「働く意味とは何ぞや? 食って寝て、毎日自堕落に過ごすことは悪であろうか?」
スティーグは思う。願う。その一言を言葉に込める。
「ああ、それにしても金が欲しい」
「・・・なんて情けないことを言っているんですか。お兄様」
仰向けに寝そべるスティーグの顔に影ができた。
視線を向けると妹であるアティシアがこちらを見下ろしていた。
「ほっといてくれ。俺は今、働く意味について考えを巡らせているんだ」
「そんな事は思想家にでも任せておいてください」
「働いて働いて、その先に何がある? 気が付いた時には年老いて死ぬだけなんじゃないのか・・・」
「それ以上くだらないことを言うようなら、蹴り飛ばしますよ?」
「尊敬するお兄様に何てことを言うんだお前は!?」
「・・・尊敬?」
その氷の眼差しは名だたる名刀よりも余程鋭かった。
然しものスティーグもたらりと汗をこぼし、黙るしかなかった。
アティシアは時にスティーグ以上に苛烈である。
だが、この場合はただスティーグを罵倒したい訳ではない。
大好きなお兄ちゃんにはいつでもかっこよくいて欲しい。
この態度はそんな思いの裏返しであった。
普段の洞察力と比べて、女心の機微に恐ろしく疎いスティーグには解るはずもなかったが。
「何やってるのよ、あんた」
そんな二人に声をかける人物が現れた。リセリアである。
リセリアは少しプリプリとしながら、スティーグに声をかけた。
「いつまでゴロゴロしてるのよ? あっちではみんなでBBQの準備をしてるのよ」
そう。今日はリセリアと御付きのメイを招いて特別闘技場で楽しい昼食のBBQ大会であった。




