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勝利

「やったか?」


 ステラが一言、余計なフラグをおっ立てる。

 少女達は警戒を解かずに、しばらく構えていたが、どうやら心配ないようである。

 魔人は完全に消滅したようだ。


「だい、じょうぶ?」

「やりましたの?」


 少女達はぽつりぽつりと、自分達の勝利を確認しあった。

 そして、ようやく警戒を解く。


「っはぁ~~~。つっかれた~~」


 ステラはその場に座り込んだ。

 他の少女達もため息をついて、力を抜く。

 強敵だった。

 一歩間違えればこっちがやられていた。

 今になって震えてくる。

 同時に少しづつ、確かな勝利の充実感がじんわりと広がっていった。

 が、次の瞬間。

 がさりと、

 茂みから物音が聞こえた。

 ステラが飛び跳ね、他の少女達もぎょっとした。


「まだ、敵がいたの!?」


 クレアが青ざめて悲鳴を上げた。

 アティシアも焦る。


(いけない。こっちは完全に緊張の糸が切れてしまった。ここからの連戦は厳しい)


 自分がしんがりとなって、撤退すべきかと考えた時。


「よお、お疲れ」


 ひどくのほほんと、軽い調子でスティーグが現れた。


『はあぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~』


 生徒達は完全に力が抜けてしまい、へなへなとその場にへたり込んだ。


「・・・心臓に悪すぎる」


 セリスが魂の抜けそうな顔で呟いた。

 生徒達が安心しきっている中、アティシアだけはスティーグをジト目で見つめた。


「・・・お兄様。いつから見ていました?」

「ん? アティシアとお前らが合流した当たり?」

『はああああ!?』


 あっさりと暴露した爆弾発言に、生徒達は絶叫した。

 スティーグは言った。『お疲れ』と。

 それはつまり、疲れる何かをしていたことを知っていたということだ。


「ひどいです。黙ってみてたんですか!」

「なんで助けてくれなかったんですか!」

「ひどい、ひどいですわ!」

「どういう神経してんの!」

「最悪」


 生徒達は非難轟々の嵐である。

 それでもスティーグは笑いながら訳を説明しようとする。


「落ち着け落ち着け、物を投げるなアホ共! 今説明するから」


 少女達に睨みつけられ、スティーグはちょっと顔を引きつらせながら話し出した。


「お前達はこの短期間で本当に強くなった。それは誇っていい。さっき王国騎士団と戦ったが、お前らの実力は、騎士団と比べてもまったく見劣りしないレベルまで来ている」


 それはつまるところ、生徒達の実力はこの国の最高峰まで達したということになる。

 如何に戦闘訓練に力を入れている学園とはいえ、一学生がその頂きに到達するのは、常識としては考えられない事態である。


「だが、それでもお前らには足りないものがある。俺がいたんじゃ教えられない経験がある」

「それは?」


 シルフィーが首を傾げる。

 ここまで自分達を高めてくれたこの教師にも教えられないことなど、彼女達には考えられなかった。


「『俺がいない状況下での戦闘』。相手が強敵であればあるほどいい。俺がいたんじゃ、死と隣り合わせの緊張感は体験できない」

『あ』


 確かに、それはスティーグがいるからこそ得られない経験である。仮にスティーグが予め、手を出さないと宣言していたとしても、後ろにいるだけで安心感がまるで違う。

 先ほどの戦闘の様な緊張感と勝利の後に達成感は、スティーグがいたら得られなかっただろう。


「まさか、魔人を相手にしているとは思わなかったが、いい経験になったろう?」


 少女達は呆気にとられた。

 相手があの魔人であっても、スティーグは生徒達の成長を促すための道具として利用したのだ。


「で、でも、もし死んじゃったら笑えませんよ!」


 実際、危ない場面は何度かあった。

 少しでも連携が乱れれば、総崩れになっていた可能性もある。


「まあ、クレアが目ビームを食らいそうになった時はさすがに焦ったが、セリスがなんとかしてくれそうだったんでな」


 全然焦ってなさそうにスティーグは答える。

 前から思っていたが、この男はかなり考えがアバウトである。

 一先ず、納得した生徒達は、それでもちょっと不満そうに口を尖らせた。


「と言って、慢心はしない事。あの魔人は低級、せいぜいが中級の強さなんだから」

『て、低級ーー!!』


 生徒達は絶叫する。

 先ほどは自分達の実力がこの国で最高レベルに達したとお褒めを頂いたが、そんな自分達を苦しめた相手が低級と言われたのだ。

 では、大多数の人間では魔人を倒すのに一体どれだけの戦力が必要なのか?

 そんな少女達の気持ちを知ってか知らずか、スティーグは話を進める。


「で、だ。なんであんなのと戦ってたんだ?」

「それはですね」


 スティーグの質問にアティシアが説明を始めた。

 皆はその説明にとても驚いたが、長い夜はようやく終わりを迎えた。

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