強敵。魔人の恐怖
魔人は咆哮を上げると、両手を前に突き出した。
魔力が集まり、黒い極太の閃光が放たれる。
「散って!!」
アティシアの言葉を合図に全員が一斉に散開する。
まずシャルロッテが動いた。
得意に氷槍を作り出し、魔人に向かって投擲する。
魔力を集約した一本の鋭い氷槍が魔人を串刺しにせんと空を切る。
魔人は片手をかざすと魔力を集め、氷槍を迎え撃つ。
氷槍は一瞬で掻き消された。
だが、氷槍に気を取られている隙に、セリスが駆ける。
『猪突猛進』を使い、瞬時に魔人との間合いを詰めた。
ミスリルグローブをはめた拳を握る。
手数は必要ない。
超加速によって生み出された突進力を拳に乗せて、放つは一撃必殺。打ち抜け!
バチンという音が森に響いた。
なんと魔人はセリスの拳を片手で止めた。
思わずセリスは目を見開く。
『猪突猛進』から勢いを乗せたセリスの右ストレートは、今や岩をも粉砕する。
それを片手で止めるとは思わなかった。
さすがに無傷という訳ではないようで、指があらぬ方向へと折れ曲がる。
だが、痛覚がないのか、それを全く意に介す様子もなく、そのままセリスの拳を掴むと、大木に向かって叩きつけた。
「かはっ!」
強かに背中を打ち付けて、セリスはたまらず崩れ落ちた。
止めを刺そうとする魔人の前に、今度はステラが躍り出た。
セリスが一撃に全てを込めるなら、ステラは手数で勝負する。
二本のミスリルダガーを構えると、思うがままに手を動かす。
斬る。斬る。斬る。斬りまくる。
あえて斬る位置を特定せずに、がむしゃらに斬りつけた。
「かったぃ!」
魔人は恐ろしく硬かった。
元々そういう肉質なのか、魔力による障壁かは解らないが、兎に角硬く、ステラの腕が痺れた。
通常の武器であれば、傷一つ付けられまい。
ミスリル製の武器だからこそ、浅くはあるが、刃は通る。
手の痺れを我慢してひたすらに斬りまくる。
「ああああああああああああああああ!!」
瞬く間に叩きつけた驚異の十六連撃。
魔人はのけぞり、後退する。
「血は、流れないのですね」
生まれた隙をシルフィーは逃さない。
脇腹の辺りを斬りつけた。
血の代わりに、魔人の傷口からは光る粒子の様なものがあふれ出す。
やはり痛覚がないのか、魔人は全く苦しむ様子がない。
自身の周りに魔力を集め、全方位に解き放つ。
『きゃああああ!!』
近距離にいたステラとシルフィーがその衝撃で吹き飛んだ。
即座に魔人は右手をかざし、魔力の弾を撃つ。
狙いはシルフィーだ。
「やらせない!」
横から飛び出したクレアが、魔力弾を斬りつけた。
そのまま地面に突き刺した大剣の切っ先を軸に、前方に一回転。勢いをつけて遠心力たっぷりの一撃を魔人に叩きこんだ。
「GZZAA!!」
魔人が呻く。
かざしていた右手が斬り落とされ、宙に舞った。
「よし!」
手ごたえを感じ、クレアは気迫を口にのせる。
魔人は強い。
おまけにここにはスティーグがいない。
どんな強敵であっても、スティーグがそばに居れば自分達は安心して戦えた。
それが今はいない。
一つ間違えば簡単に訪れる死の恐怖。
その恐怖を振り払うべく、クレアは自分を勇気づける為に声に出したのだ。
幸い、魔人は脅威だが、完全無欠ではないようだ。
ダメージが与えられるなら自分達は戦える。
そう思っていたのだが、
「え?」
クレアは一瞬呆けた声を出す。
それも無理はない。斬られた魔人の傷口から腕がニョキニョキと生えてきたのだ。
人間ではありえない怪現象に全員が唖然とした。
気が付けばセリス、ステラ、シルフィーがつけた傷はすでに塞がっていた。
「何てこと!?」
超速再生。
反則的な能力に皆が凍り付いた。




