加速する死闘
スティーグが命名した生命力エネルギー『命力』を、スティーグを始めとする生徒達は主に攻撃力へと転化している。
それに対して、アティシアは命力を目に集中させることで、極限まで動体視力を高めているのである。
この状態に入ったアティシアには、達人が繰り出す斬撃ですら止まって見える。
これがアティシアの能力『停止する世界』である。
どれだけ変則的に高速で飛び回ろうとも、その動きが止まって見えるアティシアにとっては、回避も迎撃も訳はない。
華麗にステップを刻み、次々に魔力の球体を切り裂いていく。
手強しと見たか、魔人は更に球体を生み出した。
アティシアは内心で焦りを覚えた。
強力無比な能力ではあるが、弱点もある。
一つは持続時間が短い事。
動体視力を極限まで引き上げ、肉体もそれに追いつこうと酷使する為、身体にかかる負荷が半端ではないのだ。
それを自覚しているアティシアは、何度も反復練習を繰り返し、瞬時に能力のオン、オフを切り替えられるように訓練した。
今も的確に状況を判断し、どうしても処理が間に合わない時以外は、能力の使用を控えている。
そしてもう一つ、これは弱点というより、当たり前のことであるのだが、
「あう!」
いつの間にか背後に廻った魔力球がアティシアの背中に命中した。
そう、どれだけ動体視力が良かろうと、目に映らない死角からの攻撃はどうしようもない。
気を配ってはいたのだが、数に押されて見逃してしまったようだ。
そのままアティシアは地面に倒れた。
そして、この時とばかりに、魔力球は変則的な動きから、直線へと軌道を変え、真っすぐにアティシアに向かって殺到した。
「っく!」
アティシアは瞬時に魔力のフィールドを展開。
しかし、溜めが少ない即席のフィールドで多数の魔力球をしのぎ切ることができるか!?
その時。
電気を帯びた光の閃光が放たれ、魔力球を薙ぎ払った。
「これは!?」
光が放たれた方向に目をやれば、そこには杖を高く掲げたシャルロッテの姿があった。
その後ろからは、特別クラスの生徒達が、こちらに向かって走ってくる。
「みんな!」
アティシアは急いで立ち上がると、視線を魔人の向けたまま、後方へ飛んだ。
「シャル。助かりました」
「ええ、無事で何よりですわ。それよりも・・・」
「これ、どういう状況?」
シャルロッテの疑問をセリスが引き継ぐ。
自分達はスティーグの命令で、一連の事件を仕組んだ貴族や騎士達が、逃亡した際に取り逃がさない様、周辺を包囲していたのである。
それが突然、とんでもない力の波動を感じてきてみれば、アティシアが見たこともないような化け物と戦っている。
こんな事態は完全に想像外である。
「詳しい話は後で。気を付けて、あれは魔人。あなた達が戦ってきた中で、『最強の敵』です!」
言われるまでもなかった。
あの化け物が放つ威圧感はこれまで戦ってきたどの敵よりも強いのだ。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
新たな敵の出現で、様子を窺っていた魔人が咆哮を上げた。
スティーグが不在の状況で、アティシアと特別クラスの生徒は、最大の敵との戦いに身を投じる事となった。




