アティシアVS魔人
カッカリコは先ほどとは打って変わって、余裕の態度を見せた。
対して、アティシアに余裕はない。
まさか、魔人を召喚するなど、夢にも思わなかった。とんでもない隠し玉である。
魔人は並みのドラゴンよりも強いと言われている。
魔人を一体討伐するにはそれなりの規模の軍隊が必要だ。
人間が一人で戦える相手ではない。
「くっくっく。さて、ここはこの魔人に任せて、私は失礼させてもらうよ」
「逃げる気ですか!」
「その通りだよお嬢さん。私は臆病なのでね。確かに魔人は強力だが、それでもここにスティーグが加勢するとどうなるか分からん。危険と感じれば迷わず引く。長生きの秘訣だ。いけぇ、魔人よ。その女を殺せ!」
魔人に命令を与えると、カッカリコは速やかに道を迂回し、この場から離れようと走り出した。
「っつ! 待ちなさい!!」
アティシアは焦った。
ここでカッカリコを取り逃がせば、この一件だけで二度目の失態である。
自分自身の面子にかけて、それは何としても避けたい。
すぐにでもカッカリコを追いたいが、それにはこの魔人が邪魔だ。
一先ずアティシアは説得を試みた。
「名のある魔人とお見受けします。私はアティシア=ラ=ムー。古に栄えた古代王朝の生き残りです。あなたと争う気はありません。どうか、道をお譲り下さい」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーー!!」
「え!?」
それは声にならない叫び声だった。
錯乱したかのような魔人の咆哮。
体内から強力な魔力が生み出され、手をアティシアに向けると、黒い閃光が迸った。
アティシアはこの閃光を横に飛んで回避する。
閃光は木々を薙ぎ払い、虚空に消える。
「・・・闇魔法」
魔族しか使用できないと言われる強力な魔法。
その用途は多彩。
アティシアは慎重に間合いを取りながら、魔人を観察する。
魔人は高い知能をもった種族のはずだ。
しかし、この魔人からはおよそ知性が感じられない。
(召喚した際に、呪でくくられた?)
アティシアはそう推察した。
知性を飛ばし、ただ命令に従うキラーマシーンにされてしまったのだと。
だとすれば、説得は無意味。
魔人を討伐する以外にない。
「仕方ありませんか」
アティシアはカッカリコの追跡を諦めた。
次の事を気にしている余裕など、この魔人相手にはない。
全力をもって討伐するのみ。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
魔人が再び吠える。
自身の周りに闇が放たれると、それはいくつもの球体を生み出した。
魔人の意をもって、その球体がアティシアに襲い掛かる。
その動きは直線ではない。
鬱陶しく飛び回る虫の様に、無軌道に不規則に、あらゆる角度からアティシアに迫りくる。
「シッ!」
アティシアは剣を抜き、球体に斬りかかった。
斬りつけられた球体は霧散する。
ただの鉄製の剣であれば、魔法を斬るなどという芸当はできない。
しかし、アティシアの剣はミスリル製。高い魔力耐性を誇るのだ。
迎撃は可能であるものの、球体は一つではない。
無数の球体が、タイミングをずらしながら、アティシアに牙を剥く。
アティシアは慌てない。
絶妙に自分の位置を変えながら、四方八方から襲い来る球体を斬り捨てていく。
球体は複雑な軌道を描きながら、高速で移動している。
その攻撃をこれほど正確に迎撃するなど、およそ人間には不可能。
だが、それを可能にする能力がアティシアにはあった。それこそが、
「『停止する世界』」




