表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/520

カッカリコの保険

「はあ、はあ、はあ!」


 カッカリコは逃げていた。

 ゴーゼンがやられた時点で、戦況を覆すのは不可能と判断し、演習場の裏口から一人、逃亡したのだ。

 出て行く時にエリックがまだ何かやっていたようだが、あのバカ王子があの状況から挽回出来るとは到底思えない。


「くそ。だからスティーグに力で挑むなと私は言ったんだ。あの王子め、とんだ暗愚であったわ!」


 まあ、暗愚であることは分かっていたし、だからこそ、いいように踊ってくれると思っていたのだが、それも失敗した。

 もはや、この国に留まることはできない。

 速やかに国外へ逃亡する必要がある。

 現在は、裏口から森を抜けて、街道に出ようと走っている真っ最中である。

 確か、街道に出れば馬屋があるはずだ。そこで馬を調達して、追手がかかる前に国外に逃げ切るのだ。

 幸い、カッカリコにはあるツテがあった。

 そのツテを頼れば、なんとかやり直すことは可能だろう。

 もうすぐ、森を抜ける。

 僅かな希望に胸を膨らませていた時、目の前に一人の女性が現れた。

 カッカリコは足を止め、恐る恐る女性に話しかけた。


「・・・こんな所で何をしているんだね。お嬢さん」


 夜中に一人、こんな森の中にいる女がまともであるはずはない。

 女性は恐ろしく冷たい目つきで、カッカリコを見つめた。


「呆れましたね。まさか、嵌めた相手の顔も知らないなんて」

「まさか、お前は!?」

「ええ、アティシアと言います。お察しの通り、スティーグの妹ですよ」

「く! 待ち伏せしていたのか」

「まさか、罠に嵌めたのはそちらだと思っていましたか? 愚かだこと。お兄様はこうなることを予測し、この一帯を包囲していたんですよ」


 アティシアはそう言って、冷酷な笑みを浮かべた。

 アティシアもスティーグ同様、敵とみなした相手には容赦しない。それが、自分を罠に嵌めた相手となれば尚更である。

 カッカリコは顔を引きつらせた。


「そうか、貴様がスティーグの妹か。ならば、さぞ強いのだろうな?」

「お兄様の足元にも及びませんが、それでもあなた一人はどうとでも料理できますよ」


 肩をすくめつつ、余裕の笑みを浮かべながら、アティシアは答えた。

 カッカリコは汗を流しながら、それでもアティシアに向けて笑みを作った。


「く、くく。やはり保険はかけておくものだな。できれば使いたくはなかったが、仕方あるまい」

「保険?」


 アティシアは眉をひそめた。


「これを見るがいい!」


 カッカリコは懐から何かを取り出した。

 懐から取り出したのだから、大した大きさではない。精々手の平に収まるほどの物だ。それは何かの容器に見えた。

 余裕を見せ始めたカッカリコの態度に、アティシアは警戒しながら、様子を窺う。


「それは?」

「知りたいか? 貴様は召喚術を知っているな?」

「・・・それが?」


 召喚術はこの世界の別の場所にいる生物(または人間よりも高位な存在)を呼び出す魔法である。

 その生物を使役する魔法使いを召喚術師と呼ぶのだが。


「あれは便利な魔法だが、弱点も多い。まずいちいち魔法陣を描かなければならない。その上、上位の存在を呼び出すのであれば、相応の供物が必要となる。とても一対一の戦いで使える代物ではない。だが!」


 カッカリコは容器を高々と掲げ叫ぶ。


「この容器は召喚した存在を、即座に閉じ込めておくことが可能なのだ。予め召喚しておけば、この容器を壊すだけで手軽に、強力な存在を使役することができる。この様になぁ!!」

「しまった!」


 カッカリコは地面に容器を叩きつけた。

 容器が割れ、そこから黒い煙が黙々と沸き起こる。

 それは次第にまとまっていき、一つの形を形成した。

 その姿にアティシアは愕然とする。

 身長は二メートルほど、肌は褐色。

 ここまでならそういう人間はいないことはない。

 だが、頭には二本の角を生やし、目は赤い光を灯していた。

 アティシアは知っている。それが何という名で呼ばれているのかを。


「魔人!?」

「そうだ! 魔界に住まう、魔族の中でも、ひと際強い力をもった種族。それがこの魔人だ」


 アティシアは警戒レベルを最大に引き上げた。

 魔人は人間よりも高位の存在である。

 まさかこんな化け物を召喚できるとは思いもよらなかった。


(油断大敵。私もまだまだ未熟ですね)

「先ほどまでの威勢はどうした? さあ、楽しい楽しいショータイムの始まりだ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ