本気出す
エリックは高らかに騎士団へ命令を下した。
「我が誇り高き騎士団よ。エリック=ドゥ=エルベキアの名において命ずる。我に歯向かう愚かな平民に正義の鉄槌を下せ!」
『おおおおお!!』
エリックの登場には確かに意味があった。
騎士団の士気が向上したのだ。
戦意を高めた騎士団は更に勢いづいて攻撃を仕掛ける。
更に速く、スティーグに迫る、息もつかせぬ波状攻撃。
これまで何度も繰り返してきたシーンの焼き回し。
だが、この先は違っていた。
スティーグがこの戦いで初めて剣を抜いたのである。
一閃!
振るった回数はただの一度。
その一振りで三人の騎士達が吹き飛んだ。
「な!」
騎士達は驚きの声を漏らす。
これまでずっと攻め続けるのみであったために意識していなかったが、なぜいままでスティーグは剣を抜かなかったのだろうか? 今更ではあるが騎士達はそのことに疑問に思った。
「味方がやられたくらいでおたおたするな。損害がでることなど想定内。速やかに体勢を立て直し、その平民を駆逐せよ」
ゴーゼンの声で騎士達は一瞬の硬直から正気に戻る。
そう。自分達のやることは変わらない。
より機敏に、苛烈に、攻め立てるのみである。
スティーグの側面から騎士達が突きを放つ。
これをバックステップで躱せば、すぐ後ろには別の騎士がいる。
逃がさない。
完全に包囲して八つ裂きにする。
ここでスティーグは不敵な笑みを浮かべて、騎士の一人に斬りかかり、見事切り伏せた。
当たり前のことであるが、彼ら騎士団も味方がやられることを想定してフォーメーションを組んでいる。
故に、抜けた穴を埋めるためのリカバリーも、これまで何度も演習してきた。
だが、それでも僅かに隙はできる。
常人であれば対応できずに塞がれてしまう小さな亀裂。
スティーグはそれを逃さない。
針に穴を通す糸の様に、隙間をかいくぐり、隊列を組んでいる騎士団の側面を衝く。
「ぐあ!」
「は,速い」
「うわあー!」
それはさながら精密機械に侵入したウィルスだ。
侵入したウィルスはあっという間に侵食し、内部を蝕んでいく。
逃げ回ってからの急な攻勢に、油断していた騎士団達は即座に気持ちの切り替えができなかった。
隊列を組み直す暇もなく、一瞬で瓦解していく。
数の上では未だ騎士団が勝っているが、漂っている空気は完全に逆転していた。
「そこから離れろぉーーーーーーーー!」
ゴーゼンの怒号に騎士達はさっと後退した。
割れた空間を突き進み、ゴーゼンは剣を大振りした。
スティーグはすぐさま後ろに飛んで攻撃を回避。
ゴーゼンの剣は勢い余って地面にめり込んだ。
「おいおい、なんだそりゃ・・・」
スティーグはゴーゼンの剣を見て、呆れて声を上げた。
その剣はあまりに大きかった。
二メートルはあるゴーゼンとほぼ同じ長さがある。
加えて横幅も五十センチはあるだろうか。
厚みも相当だ。
クレアも大剣使いであるが、さすがにこの剣と比べると小さく見える。
「くはは。驚いたか。これぞ我が家に代々受け継がれる家宝。ツーハンデットソード改!」
「お前はずっと、後ろで見てるもんだと思ったけどな」
「貴様、手を抜いていたな。どういうつもりだ?」
「いやなに、そこのバカ王子に間近で戦いを見せてやろうと思ってな」
「な、なにぃ!?」
エリックは思わずたじろいだ。
まんまと誘い出されたことにようやく気が付いたのだ。
スティーグがその気になれば、騎士達を振り払い、高台で高みの見物をしているエリックの元まで走り抜ける事も不可能ではなかった。
それをせずに、あえて面倒な方法を取ったのは、ただのスティーグの性格故であった。
この男は自分が圧倒的に優位と思っている輩を、逆に罠にかけて貶めるやり方を好む困った性分がある。
それは権力などをもって奢り高ぶった人間であればあるほどいい。
「ふん。小癪な。小賢しい真似をするな、平民風情が」
待ち伏せした上に大人数で取り囲んだことを棚に上げて、ゴーゼンは鼻を鳴らした。
「計画通りと思っているようだが、それもここまでだ。その増上慢な態度をここで叩きのめす。私が出てきたからには毛筋ほどの勝機もないと知れ!」
「期待してるぜ」




