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取り調べ4

 スティーグは部屋にいる全員に視線を送る。

 どう料理してやろうかと考える料理人のような目で。

 その時、憲兵もあることに気づき、とっさに声を上げた。


「あ!」

「気づいたか?」


 スティーグは憲兵を見ると、ニヤリと笑った。


「そういうことか!」

「どどど、どういうことだよ!?」


 目撃者の男は動揺のあまり、言葉のイントネーションがおかしくなっていた。

 憲兵はスティーグを見ると、自分の考えを披露する。


「つまり、こういうことだな? ここから三区画離れた現場まで、どんなに走っても五分はかかる。往復で十分。私に事情を説明した時間を合わせればもっと。彼女がそこの三人を制圧するのにかかった時間を考えれば、大きな時間の開きがある」


 我が意を得たりと頷くスティーグは、続きを説明する。


「そういうことだ。そして、二人はすぐにその場を離れようとした。だから、どんなに走っても二人を現行犯で捕まえることは不可能なんだ」

『あ、あああ!』


 男達は顔を真っ青にして絶叫する。


「今のでわかったな。こいつらは全員グルで、喧嘩が始まる前からそいつはあんたを呼びに行っていたんだ。予想より早く三人がやられてしまったんで焦った事だろうな」

「い、いや違うんだ。俺達がやられた時間は」

「そ、そう。もっとかかったはずだ」

「女一人に一分とかあり得ねえ!」


 更に見苦しい言い訳を始めた男達に、憲兵はピシャリと言い放った。


「もういい! さっきからお前達の言っていることは支離滅裂で全く整合性が取れていない。どちらが本当のことを言っているかは、もはや明らかだ!!」

『・・・』

「済まなかった、お嬢さん。正しかったのは君だったようだ」

「まあ、いいですけどね」


 頭を下げる憲兵に、アティシアはツンと唇と尖らせて、プイっと横を向いてしまった。

 憲兵は苦笑すると、狂言者の四人を睨んで厳しく詰問する。


「お前達。何が目的でこんな馬鹿なことをしたのか、これからキッチリと説明してもらうぞ」


 もはやこれまでと観念したのか、四人はしおしおとその場に崩れ、項垂れた。

 これでアティシアの無実は証明された。誰もがそう思ったその時に、もう一波乱起こった。

 取り調べ室の扉が開かれ、腹の出た頭の薄い、中年男性が入って来た。


「なんだ、まだやっていたのかね? 証言は取れているんだろう? さっさとその女を牢に入れてしまえ」


 いきなり現れた男の乱暴な言葉に、アティシアはムッとして睨みつけた。


「あ、いえ、隊長。事情が変わりました。彼女は無実です。全てはこの四人の狂言であったことが判明しました」

「な、なんだと!?」


 どうもこの男はこの詰め所の隊長らしい。

 隊長は目を見開いて、四人を見つめた。

 スティーグはその時、隊長の目を見て不信感を抱いた。

 隊長の驚き方は、真相を知った純粋な驚きではなく、自分の意に沿わない事態に動揺しているように見えたのだ。

 スティーグも以前は古代王朝の王として、海千山千の王族、貴族達を相手にしてきたのだ。

 人の些細な機微を感じ取る能力に長けている。

 この隊長は今の事態に明らかに動揺していた。


「その四人がそう証言したのか!?」

「いえ、それはこれから」

「ならば問題ない。目撃者がいるのだ。この件はこれで終了だ。後は私自らが引き継ごう」

「は? 何を言っているんですか隊長」


 憲兵は意味が解らず、隊長に聞き返したが、隊長は鼻息を荒くして乱暴に言い放った。


「言った通りだ。この女を牢屋に放り込め。この四人については私が事情を聴く」

「ちょ、ちょっと!」


 余りの横暴にミラが声を上げた。


「・・・隊長。まさか、あなたは?」

「なんだね。私が何だというのかね!? 滅多なことを言うものじゃないぞ君。君にも妻子がいただろう? 路頭に迷って、可愛い奥さんと子供がどうなってもいいのかね?」


 それは明確な脅迫の言葉だった。

 スティーグは憲兵の中にも金を握らされた者がいるのではないかと危惧していたが、それは現場の憲兵ではなく、詰め所の責任者だったのだ。

 とんでもない事態に狂言者の四人は歓喜し、それ以外の者は唖然とした。

 だが、それも扉の近くにいた隊長の、更に後ろからの声で、事態はさらに動く。


「ふむ。それは一体どういうことかな。ハマーン隊長」

「む。なんだお前は? え、あなたは!」


 現れたのは元帥であった。

 実はスティーグはこの事態を予想し、アドルフに元帥を呼んでほしいと頼んでおいたのだ。

 この国の治安を守る憲兵達も、部署は分かれているが、その所属はこのエルベキア王国では軍部に含まれる。

 即ち、そのトップは当然、元帥となるのだ。

 組織の最高責任者がいきなり、憲兵の一支部に現れたのだから、隊長の驚きは無理からぬことだろう。

 元帥は眉をひそめて、隊長に詰問する。


「私の聞き間違えでなければ、今君は部下を脅迫していたな?」

「い、いえいえいえ! とんでもありません!!」

「ほう。では教えてもらえんか? 『妻子共々路頭に迷ってもいいのか』という言葉を他にどう解釈すればいいのかを」

「う、うううう。そ、それは・・・」


 どうしてこんな事になってしまったのかと隊長は思った事だろう。

 隊長は頭を掻きむしりながら、がっくりと膝をついた。

 今度こそ、事件は決着を迎えた。

 隊長を含めた五人は観念したのか項垂れ、スティーグ、ミラ、アティシアはハイタッチを交わした。

 ただ一人、一憲兵にすぎない男は急展開の事態についていけず、口をあんぐりと開いたままだった。

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