情報交換
アティシアの事件の翌日。
スティーグはリセリアの元にやって来ていた。
主に今回の一連の事件の情報交換が目的であるが、リセリアとの約束でもある遊びに来るという目的もあった。
嘘にしてしまうと後が怖い。
現在二人はお茶を楽しみながらチェスに興じていた。
「ほい。チェック」
スティーグが何度目かのチェックをかける。これまでは巧く躱してきたリセリアであるが、今回のチェックはどうしようもなかった。
口をへの字にして考え込んだ後に、大きなため息をつく。
「はぁ。降参・・・」
「これで十勝二敗だな」
勝負はスティーグが勝ち越していた。
これはリセリアが劣っているわけではなく、早指しのルールを適用している事が大きな原因だった。
リセリアはじっくりと盤上を見渡して、深く先を読むタイプだ。
対してスティーグは直感力に優れている。一瞬の判断がとにかく早いのだ。
リセリアは頭をかきむしる。
「ああ~~~。負けっぱなしよ。これでも私、王宮内では敵なしなんだけど」
「時間も限られてるから、早指しにしようって言ったのはそっちだろう」
「そうなんだけど、正直意外だわ。あんたって頭も切れるのね」
「そうでもない。持ち時間がたっぷりあれば、勝敗は完全に逆になってるだろうし」
謙遜ではなく、事実だとスティーグは思った。
一度集中してしまったリセリアの先読みは素晴らしい。聡明という評判は決して嘘ではなかった。
「で、元帥が捉えた憲兵隊長の処遇はどうなった?」
スティーグは冷めたお茶を飲んでからリセリアに問いかけた。
「そいつが雇ったチンピラ四人組共々牢屋行きよ」
「あいつは何か吐いたか?」
リセリアは首を振った後、お茶を口にする。
「あいつにお金を掴ませた奴は捉えたみたい。でも、何人もの人間を経由してるみたいで、足取りはなかなか掴めないわ」
「・・・結局、何も分からず仕舞いか?」
スティーグは眉をひそめた。
それに対しリセリアは上目づかいでニヤリと笑って見せる。
「確かに点で見ていくと何も掴めないわ。でも、全体を見て点を線で繋げてみるとある一人の人物が浮き上がってくるの」
「それは?」
「財務大臣。サイオン卿よ」
リセリアは目を光らせ、確信をもって口にした。
スティーグは少し驚いたように目を見開く。
「俺、何度か会ってるぞ。確か俺を学園に勧誘した時も元帥とかと一緒にいたな」
「元々ラーゼン元帥とは不仲よ。そして、カルドニアと戦争状態にあった時に、あんたも無理難題を言ってるみたいだから、当然、よく思っていない」
「正当な報酬を要求しただけだがね」
スティーグはそう言って肩をすくめた。
実際スティーグはたった一人で数百人分の戦果を挙げたつもりだ。数百人に支払う分の金額を一人でもらったにすぎない。
「ともあれ、証拠は何もないけれど、相当に怪しいのは事実よ。決定的なのが、最近頻繁にあのバカ兄と密会しているらしいの」
「『あれ』とか?」
リセリアはコクリと頷く。
単純に考えれば、先の一件で一番スティーグを恨んでいるのはエリックである。
エリックはひどく短絡的かつ直情的な性格であるが、もし実行犯が別にいればこんな回りくどい方法を取るかもしれない。それがカッカリコという訳である。
「どーりでなんか大層な権力がありそうなのに、やることがセコイというか、みみっちいと思ったんだよな」
スティーグが数度会った印象からカッカリコは実務能力はともかくとして根は小物であると思っている。いかにもチンピラを雇って嫌がらせじみた事をしてきそうな人柄であった。
「この事はアーゼル王には?」
「伝えてるけど、確かな証拠がないからしばらく泳がせてみようって所」
「目は光らせておいてくれよ」
「分かってるわ」
スティーグはチェスの駒を弄びながら薄く笑う。
「さて、次はどうさして来るかな? 俺は相手の駒を大分とったと思うが」
「で、あれば次はどう動くかしら? そろそろあの単純バカは痺れを切らせる頃だと思うのだけど」
「それならチェックだ。何か動きがあったら教えてくれ」
「了解」
「それじゃあ、そろそろ帰るわ」
そう言ってスティーグは立ち上がった。
リセリアは若干不満そうだ。
「・・・もう帰るの?」
「いや、結構居たぞ? 外見ろよ。真っ暗だ」
もう夜はとっぷりと暮れている。
チェスを何戦もしたおかげで大分頭を使った。スティーグは体を動かすとは違う疲労感を感じていた。
「また遊びに来るのよ?」
「わかったわかった」
適当にあしらうスティーグをメイドのメイは少し距離を取りながら意味深な眼差しで見つめていた。




