アティシアの危機
あれから数日が過ぎた。
クレアとセリスの父親は無事に釈放された。
親子共々スティーグに感謝を述べたが、スティーグにしてみれば巻き込んでしまった側なので、なんとも複雑な気分であった。
一夜明けると、ラッセンが死んだ事件は王都に広まった。
何しろ貴族が下町の道端で不自然な死を遂げていたのだ。
王都内では様々な陰謀論が噂されたが、もちろん真実にたどり着いた者はいなかった。
スティーグが仲間内以外で真相を打ち明けたのは、リセリアと元帥のみである。
まあ、あの二人からさらにアーゼル王には伝わったかもしれないが、それはスティーグの知るところではなかった。
リセリアと元帥には貴族の間で不穏な動きをしている者がいないか、探りを入れてもらっているが、今のところ、何も掴めてはいないようだった。
この数日の間は特に何も起きてはいない。
もちろん、生徒達には警戒を喚起してはいるが、敵が力のある貴族であれば、権力を使っていくらでも理由をでっち上げて、こちらを貶めることができるのだ。
仕掛けようと思えばいつでも仕掛けることができる。
そんな訳でスティーグ達はこの数日、落ち着かない日々を送っていた。
さて、ある昼下がりの午後、スティーグは一人、自宅でくつろいでいた。
特別クラスの指導まではまだ時間があり、ミラとアティシアは二人で買い物に行っている。
一人での行動は厳禁である。
特にミラは荒事になった時には対処ができないので、アティシアはそんな彼女のボディーガードの意味を持っていた。
今日も何事もなく過ぎてくれるかと思っていたが、事件は起きた。
ミラが慌てて家に帰って来たのだ。
「スティーグ! 大変よ!」
慌てぶりから何かが起きたことは明白であった。
スティーグは真面目な顔でミラに問いただす。
「何があった?」
「アティシアさんが、ナンパ男ぶっ飛ばして、なのに証言者がいて、それでおかしなことになって・・・」
「おいおい、落ち着け。深呼吸しろよ」
「う、うん。すーはーすーはー」
「それでその上下に揺れる胸を俺に触らせろよ」
「う、うん。・・・って、なんでよ!!」
「チッ。落ち着いたか」
「何がしたいのよ!」
「乳揉み?」
「死ね!」
目を三角にして怒り狂うミラを宥めると、スティーグは本題に移った。
「で、何があった?」
「えっとね。二人で買い物をしようとしてたんだけど、途中で変な奴らに絡まれちゃってね」
「変な?」
「まあ、ナンパよ。アティシアさんは綺麗だからわからなくもないんだけどね」
「お前もいるしな」
「え!? そ、それって私もスティーグから見たら綺麗って、こと?」
「まあな。で、どうなった?」
一瞬、舞い上がってしまったミラであるが、スティーグに先を促され、コホンと咳ばらいをすると話を続けた。
「最初は素っ気なくあしらっていたのよ? でも、あんまりにもしつこくって、結構キツイことをアティシアさんが言ったわけ。そしたら、そいつら怒っちゃって。アティシアさんの肩を掴んで無理やり連れて行こうとしたわけ」
「相手は何人だ?」
「三人。もちろん、そんな軽薄そうなやつらがアティシアさんに敵う訳なくて、あっという間にやっつけちゃったんだけどね。ああ、生きてるわよ。ちょっと伸びちゃったくらい。で、問題はここからなの」
ミラは水を少し飲むと話を再開した。
「そいつらを放っておいて、さっさと行こうとしたらね。変な奴が、憲兵さんを引き連れてやってきたわけ。で、いきなりそいつ、アティシアさんが突然暴れて、なんの抵抗もない三人を一方的に殴り飛ばしたって証言したの。言ってること全然本当のことと違くって、私もアティシアさんも襲われたのはこっちって言ったのよ? でも、起き上がったナンパ三人組も、自分達は突然襲われたって言い出すし、アティシアさんには怪我一つなくて、あっちはボロボロじゃない? 傍から見たらこっちの印象のほうが悪いわね・・・」
「で、アティシアは捕まったと」
「まだ、捕まるまでは。憲兵の待機所で詳しい事情を聴いてる段階」
「・・・なんとまあ。ずいぶん古い手に引っかかったもんだな」
スティーグは頭をかいた。
まあ、証言が重要視される今の時代では、嵌めるなら有効な手段だ。
ひょっとすると憲兵にも金を掴ませている可能性もある。
「事情はわかった。急ぐぞ。案内しろミラ」
「わかったわ!」




