黒幕? 現る
カイは盛大に顔を引きつらせながら剣を抜いた。
相棒のジャンが今も腕を押さえて見悶えているというのに、投げ飛ばした男は椅子に座ったまま立ち上がってすらいない。
目の前の男はカイにとって、明らかに異常であった。
ここでカイはわずかに冷静さを取り戻す。
間違いなく自分よりも強者である目の前の男。だが、その余裕からか、立ち上がることなく、カイを睨んだままだ。
ならばとカイは剣を横から薙ぐ。
座ったこの状態では横からの攻撃には対応できない。
カイは勝利を確信した。
「取った!」
しかし、脇腹を狙ったカイの剣は届くことはなかった。
その途中でスティーグが人差し指と親指で襲い来る剣をつまんで受け止めたのだ。
「は? はぁ!?」
あまりの非常識さにカイは疑問を口にする。
どれほどの剛力であろうと、鍛えられた大の男が全力で斬りつけた剣を指で挟んで止めるなど、常識で考えてあり得ない。
しかも、ピタリと挟み込まれた剣は、押そうが引こうが微動だにしない。
更にあろうことか、スティーグはカイが両手で握りしめている剣をつまんだ状態で強引に奪い取ってしまった。
くるりと剣を回し、柄をつかむとそのままカイの鼻先に剣を突き付けた。
「ひぃ!」
カイは恐怖から尻もちをつき、床にへたり込んだ。
「さて、吐いてもらおうか。お前らが一芝居打って武器屋と牧師を嵌めたことはわかっている。誰に頼まれてそんなことをした?」
「て、てめえ。はなっから俺達のことを知ってて!」
ようやくカイは自分達が挑発に乗せられたことに気が付いた。
もちろん、気が付いたからと言って、この状況をどうにかできるわけではない。
スティーグは剣をカイの額に押し当てて、じわじわと力を入れていく。
カイは後ずさりをするが、絶妙な力加減で剣は額に押し当てられたままついてくる。
額から血が流れて、ぽたりと床に滴り落ちた。
「さあ、お前が長年、冒険者として培ってきた危険回避能力を今こそ見せてみろ。ここで判断を誤ると、死ぬぜ?」
完全に本気の目でスティーグは笑って見せた。
***********
その後、スティーグは憲兵を呼びつけ、事情を説明すると、カイとジャンを押し付けて、酒場の店主に詫びを入れた後、店を後にした。
カイは観念して、憲兵達に洗いざらい告白した。
自分達の前に身なりのいい貴族の男が現れて、武器屋と牧師を嵌める様に指示をしたこと。
その通りに実行し、報酬をせしめたことを。
だが、わかったのはそこまでで、肝心の身なりのいい貴族が何者であるかはわからなかった。
監視カメラも写真もないこの時代では、カイとジャンの証言から似顔絵を作成して、聞き込みをするぐらいしか方法がない。あまり有効な手段とは言えなかった。
そもそも地道な調査はスティーグの趣味ではない。
「さて・・・」
スティーグは歩くのを止めて立ち止まった。
実は酒場を出た時からずっと、自分の跡をつけている者がいる。
明らかに素人臭い。
スティーグが急に止まったので、後ろからついてきた人影は、驚いて横の小道に曲がろうとした。
「おい、下手な尾行は止めたらどうだ? バレバレだぞ」
人影はビクりと肩を震わせると、バツが悪そうに月明かりの下に姿を現した。
それは身なりのいい小柄な男だった。
油で固めたくるりとカールした髭をいじりながら、スティーグを悔しそうに睨む。
どうも尾行がバレていないと思っていたらしい。
(身なりのいい貴族。こいつが黒幕か?)




