酒場での乱闘
夜も更けこみ、多くの人々が眠りにつく時分。
遅くまで営業している酒場は今も賑やかに明かりを灯していた。
そんな中、ある二人の冒険者がテーブルいっぱいに酒と料理を広げて楽しそうに宴会を開いていた。
一人はカイというスキンヘッドの男で、もう一人はジャンというモヒカン頭の男である。二人とも世紀末にでも登場しようかというトゲトデの鎧に身を包んでいた。
両者は同じC級の冒険者だった。
もう長いこと冒険者をやっているが、実力的にこのランクで頭打ちだろうと悩んでおり、小さなクエストをコツコツこなす日々を送っていた二人だったが、今日、ある後ろ暗い仕事をこなした報酬として、とんでもない額の金が手に入ったのだ。
普段、注文するより高価な酒を二人は一気に呷った。
「くはぁ! たまんねーな! やっぱり金があるっていうのはいいねぇ!!」
「全くだ。ようやく俺達も運が回って来たって感じだな」
「おい。この後、娼館に行こうぜ。今まで行ったことのない高級な店によ」
「へっへっへ。最高だな。いい仕事にありつけて、正に貴族様様よ」
旨い料理に酒、そして女と、男の欲望を満たし、二人は上機嫌だった。
だが、そんな二人の前に無粋な闖入者が現れた。
「随分と羽振りがいいみたいじゃないか? どんな仕事をこなしたんだ? 教えろよ」
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スティーグは二人の冒険者のテーブル席に無遠慮に腰を下ろすと、素手で料理を一つまみ口に運んだ。
突然横から口を挟んで料理をかっさらう闖入者にカイとジャンは不快感を露にした。
「なんだてめえは?」
「勝手に俺らの料理に手を付けてんじゃねーよ!」
凄む二人を歯牙にもかけず、スティーグはぺろりと料理をつまんだ指を舐めた。
「まあまあ、いいじゃねーか。お前ら相当うまい仕事をもらったみたいじゃないか。俺にも一枚噛ませろよ」
どうやら、話を盗み聞きされていたらしい事を察して二人は顔をしかめた。
「チッ! なんでもいいだろうがよ。そんな事は」
「てめえには関係ねぇ。どっかに行きやがれ」
シッシっと手を振って二人はスティーグを追い出して、酒盛りを続けようとする。
「お前らみたいな二流にも務まる仕事なんだ。さぞや簡単で楽な仕事なんだろうな」
『あ?』
ナチュラルにディすられ二人の眉間にしわが寄った。
「てめえ、今なんて言った? もう一度言ってみろよ!」
「お前らみたいな三流にも」
「さっきは二流って言っただろうが!!」
カイはテーブルに手を叩きつけた。
食器がガシャンと音を鳴らし、料理が皿からこぼれる。
「どうせ冒険者としてはやっていけないから、後ろ暗い仕事に手を出したんだろ。貧すれば鈍するとはよく言ったもんだ。無様だな」
「・・・その辺にしとけよてめぇ」
声を低くしてジャンは凄む。
二人の怒りはもやは限界に達していた。
「まさか、三流冒険者のお前らに何ができるっていうんだ? 冗談はその顔だけにしとけよ。くくく」
「もう死ね、てめぇわぁーーー!!」
拳を突き出し、スティーグに殴りかかろうとしたジャンだったが、これを手首を掴んでくるりと捻る。
全く力を入れているように見えないのに、ジャンの体が宙に舞う。
そのまま関節を決める様に床に叩き落とした。
床に打ち付けられ、ジャンの腕がボキりとへし折れる。
「ぐあああああああああああああああああああああ!!」
絶叫し、床を転がるジャンを冷めた目で見つめると、スティーグは視線をカイへと移した。
一瞬のことで何が起きたのかわからなかったカイだったが、ジャンがやられたことだけは理解ができたようで、慌てて床に立てかけてあった剣を取った。
いつの間にか酒場の客たちは誰も残ってはいなかった。
店主だけが厨房に隠れながら「やめてくれー」と叫び声をあげていた。




