忍び寄る悪意
リセリアが特別クラスに巻き起こした旋風は、色々と大きな衝撃を与え、一旦は収束した。
何気にアドルフがどこか悟ったような目で遠くを見つめているが、今は放っておくことにしよう。
スティーグは近々、王宮に遊びに行くことを約束し、リセリアも機嫌をなおした。
用事も済んだことで、リセリアはアドルフに送られて、そろそろお暇しようという運びになった時、校長が沈痛の面持ちで現れた。
「校長、何の用だ?」
校長がこの闘技場に訪れることはめったにないので、何かあったかと思い、皆不安に駆られた。
リセリアはこれ以上、人に見られることを嫌って、とっさにフードをかぶり、アドルフの後ろにさりげなく隠れた。
「クレアさん、セリスさん。落ち着いて聞いてください。君達の御父上が、先ほど憲兵に捕えられたと知らせがありました」
『え!?』
クレアとセリスはもちろんのこと、その場にいた全員が耳を疑った。
クレアの父親は武器屋で少し腹の出た中年男性である。
陽気な性格で話しやすい印象だったのをスティーグは覚えていた。
セリスの父親はキュトレマイア教と言われる宗派の牧師をしている。
非常に柔和な微笑みが印象的な男性でとても親しみやすい人物だ。
どちらも犯罪を犯すような人間には見えなかった。
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校長の話を要約するとこうだ。
まずクレアの父親だが、鍛冶屋は武器を仕上げた際に自身のサインを刻印する事を義務づけられている。
名のある鍛冶師が打った武器はそれだけで価値が跳ね上がる。いわゆるブランド品だ。
問題となったのが、ある客が有名鍛冶師の武器を購入した。
だが、この買った武器に違和感を覚えたその客は、念のために鑑定を行ったそうだ。
結果、その武器は真っ赤な偽物であることが判明した。
クレアの父親は悪質な商法を行った詐欺罪に問われ逮捕されたのだ。
「そんな! あり得ません。うちは真っ当な商売をしているんです。降ろされた品もしっかり検品を行ってますから、間違ってもそんな如何わしい商品が紛れ込むことはないはずなんです!」
温厚なクレアが珍しく声を荒げた。
ひとまずクレアを落ち着かせて、校長は話をつづけた。
セリスの父親はとても心優しい人物だ。
教会に訪れた人々に、分け隔てなく、様々な加護を授けている。
だが、厳密に言うとキュトレマイア教は信者以外には加護を授けてはならないというルールが定められている。
それでもこれまで問題にならなかったのは、ひとえにセリスの父親の人柄と言えるだろう。
だがしかし、今日訪れたある冒険者に解毒の加護を行い、毒治療を行った所、一旦は回復したそうなのだが、教会を出てしばらくすると症状がぶり返し、あわや命の危険に陥ったという。
この事件で、信者でないことを理由に、セリスの父親が手を抜いているのではないかという疑惑が浮上した。
業過罪に問われているという。
教会本部も見逃していた手前、セリスの父親を擁護することができずにいるらしい。
「お父さんはそんな事しない!!」
セリスは拳を握り締め激高した。
この年頃の娘は父親離れが顕著とよく言われるが、二人の場合はそんな事もなく、父親をとても尊敬している。
だからこそ信じられないのだ。
自分達の父親がそんなつまらない犯罪で捕まるなど。
スティーグを取り巻く人間関係に今、じわじわと黒い悪意が忍び寄ろうとしていた。




