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戸惑いの一同

 予期せぬリセリアの登場に、一同は唖然とした。

 当然、訓練を続けることはできず、全員がリセリアの周りに恐る恐る近づいて様子を伺った。

 そんな渦中のリセリアはスティーグを見つめながら満面の笑みを浮かべた。

 その顔はいたずらが成功した子供のようであった。

 クリクリした瞳をキラキラと輝かせて、スティーグがどんな反応をするのかを楽しんでいる様子である。

 その期待に応え、スティーグは髪をかきながらため息交じりに質問する。


「・・・で、お前何してんの?」

「お、おまっ!?」


 アドルフに戦慄が走り、他の女性達は顔を引きつらせた。

 スティーグが人によって態度を変えないのは知っている。

 それは多くの場合むしろ好意的に受け取っている。

 だが、いくら何でも場合というものがあると思う。

 相手は王女。

 それも国民から絶大の人気を誇るエルベキア王国の至宝、リセリア姫である。

 そっとスティーグ以外の者はリセリアの反応を伺った。

 そして、当然というべきかリセリアは憤慨した。

 だが、その怒り方とリアクションは色々予想を裏切った。

 リセリアは目を三角にすると、スティーグに指先をビシビシ突き付けて喚き散らしたのだ。


「何してんの、じゃないわよ! 私言ったわよね? また遊びに来てって。なのに全く顔を出さないってどういうことよ!?」

「・・・あれは社交辞令じゃなかったのか?」

「違うわよ! せっかく最高級の茶葉を用意して待ってたのよ。それなのにあんたは!」

「いや、そもそもまだ最後に会ってから数日しか経ってないぞ」

「もう数日が経ったのよ」

「しょうがねーだろ。こっちは忙しいんだよ。暇なお前と一緒にすんな」

「はあ!? はあぁー!!? 暇って言った? 私のこと暇って言った? 忙しいわよ。今日だって時間作るのすっごく苦労したわよ。為政者舐めんな!!」

「だったら帰れ、つーか、くんな」

「殺す。こいつぶっ殺す!」

『・・・・・・・・・・・・・・・』


 それは見ている者の理解を遥かに超えてしまっていた。

 王女に対し、不遜な態度を崩さないスティーグもそうだが、リセリアの言動も王女のそれと呼べるものではなかった。

 普通の町中にいる少女の様な(寧ろ、普通よりもガラが悪い)言葉遣いである。

 放っておくと延々と二人だけで話し続けそうだったので、シャルロッテが口をはさんだ。


「あ、あの。殿下?」

「ん? ああ、あなたシャルロッテね。シュタイン家の」

「は、はい。いつかの社交界以来でございます」


 シャルロッテの家は有力貴族である。

 リセリアとも面識があった。

 リセリアは今、シャルロッテの存在に気付いたようで、しまったと言う顔をした。


「その、以前にお会いした時と、その、雰囲気が随分と・・・」

「あ、うん。私、猫被ってるから!」

「・・・そう、ですの・・・」


 あっさりと秘密を暴露され、シャルロッテはもはや開いた口が塞がらない。

 それは他の面々を同様であったが、中でも一番ショックが大きいのは実はアドルフである。

 リセリア姫と言えば、才色兼備にして品行方正、慈愛に満ち溢れた国民のアイドル的存在だ。

 この国に仕える騎士達にとって、そんなリセリア姫を護る事は至福の喜びにして誇りなのだ。

 だが、そんなリセリアのイメージはたった今、木端微塵に打ち砕かれた。

 アドルフの心象としては足元が崩れるかの様な大ダメージを負った。


「あ、この事は内緒ね。面倒だけど王族ってイメージが大事だし」


 平然とそんなことをリセリアはのたまわった。

 ウインクをして言ってのけたリセリアの笑顔は、それはそれは可愛らしかった。

 スティーグは思ったままを口にする。


「ま、確かに顔は美形だな」


 突然褒められて、目を丸くしたリセリアだったが、気を取り直し、ドヤ顔で笑う。


「そうでしょう、そうでしょう。もっと褒めていいのよん・・・今、『顔は』って言った?」

「おう」

「・・・どういう意味かしら?」

「さあ?」


 顔を引きつらせて、口をピクピク痙攣させた後、リセリアは腕を組んで、フンと顔を横にそらした。


「どうせ、素の性格は悪いわよ。わかってるわよ。国民受けしないことくらい!」


 ぷくっとリセリアはほっぺたを膨らませた。

 気にしているのか、心なしか気持ちが沈んでいるように見えた。

 スティーグは苦笑して、仕方なくフォローを入れる。


「怒るなよ。あれから聞いたんだが、奴隷制を廃止にするために国王に働きかけたのはお前なんだろう? 相当反対もあっただろうにな。顔や上辺の性格だけじゃ、あれほど国民は支持しないって」


 リセリアは目を見開いて、不思議なものを見る様にスティーグを見つめた。


「う、うん」


 スティーグはリセリアの頭に手をやると「よく頑張りました」と、ポンポンと撫でた。


「ふぁ!?・・・う、ううう~」


 リセリアはよくわからない感情が込み上げてきて、顔を赤く染めた。

 これまで民のためにいくつもの政策に取り組んできた。

 しかし、平民の為のなる政策など、貴族達はいい顔をしない。

 肝心の民の声も王宮にいたのでは届きにくい。

 素直に称賛されたことなど、今までになかった。

 ついでに言えば、早熟だったリセリアは本当に幼い時期しか、両親からも頭を撫でてもらった記憶などない。

 美貌を誉めはやされる事はあっても、等身大の自分を見て接してくれる相手など、今までいなかったのだ。


「い、いつまで手をのせてるのよ! 早くどけなさいよ、ばかぁ!!」


 真っ赤になりながら、リセリアはスティーグの手を振り払った。

 その後、妙にもじもじするリセリアを、スティーグは怪訝な顔を向けたのだが、ふと妙な圧力を感じ、そちらに目をやれば、女性陣が魚の死んだような目で、ゴゴゴと負の感情を放っていた。


「うお!?」


 スティーグは思わずのけ反った。


「またか、またなのか」

「意外にチョロインですわ」

「嘘でしょう? まだ増えるの・・・」


 女性陣が何を言っているのか見当もつかず、スティーグは首をひねるばかりだった。

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